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96【不老不死】

 唐突に現れた二人のアンデッド。一人は異国の仮面を被っていた。もう一人は、シルクハットにタキシード姿の紳士である。


 仮面の男が周りを見回しながら述べた。


『おいおい、男爵様のところの戦闘メイドたちが全員やられているぞ。大丈夫か?』


 恵比寿の能面にフードを被り、軍手などで素肌を隠す男。痩せ型の長身だが、肩幅が広い。手足が長く見える。胸板は薄そうなのだが、なぜか厚く見える不思議な体型。身形は白いスポーツウェアにジョギングシューズ。明らかにこの異世界の身形ではない。


 タキシードの男が答える。


「問題ない。三人とも生きている」


 一方の男は、身長180センチほどで、年の頃は二十歳程度。肌は白く、頬がこけている。目の下にはクマができており、唇も真っ青だった。不健康な顔色とは裏腹に、身形は紳士風。黒のタキシードに赤い蝶ネクタイ、肩には黒いマントを掛け、エナメルの靴を履いている。


『おい、見なくても分かるのかよ?』


「心臓の鼓動が聞こえているからね。シロー殿には、三人の鼓動が聞こえないのかな?」


『き、聞こえんなぁ……』


「なるほど。オーバーロードの聴力は並みなのか」


『バンパイアの耳が良すぎるんだよ』


「さて、それよりも――」


 二人のアンデッドが、巨大ゴブリンを睨みつけた。巨大ゴブリンも首を傾げながら、二人を凝視している。


「なんか、大きなゴブリンが残ってますね。あれが三人を倒したのでしょう。ならば、かなり強いと見受けられます」


『アンドレより大きいな……』


「それに、何やら普通でないオーラを纏っています。紫色だから負のオーラでしょう。かなりの異形ですよ、シロー殿」


 仮面の男が、手袋を嵌めた手で巨大ゴブリンを指さしながら、タキシードの男に問うた。


『負のオーラって、あいつもアンデッドなのか?』


「いえ、違います。何か未知の存在です。この世界のものではないでしょう……」


『異物なんだな――』


 前に一歩踏み出した仮面の男が、拳の関節をポキポキと鳴らす。ガラの悪い威嚇の気配を垂れ流していた。


「シロー殿、ちょっとお待ちください」


『なに、男爵様?』


「あれは、私に譲ってくれませんか」


『え〜、何故に?』


 タキシードの男は、腕を広げながら言う。


「私のメイドたちが、コテンパにやられているのですよ。主の私が敵を取らなければ、筋が通りません」


 仮面の男は、倒れている三人のメイドを見回してから、ため息を吐いた。


『はぁ〜……。確かに俺が出過ぎていた……。ここは譲るべきかな』


 そう述べながら踵を返した仮面の男が、出入り口の寸前まで下がる。タキシードの男だけが一人で前に残った。


 タキシードの男は、片手に持っていたステッキをくるくると回しながら、シルクハットを深く被って視線を隠す。そして、薄笑いを浮かべながら述べた。


「ゴブリン風情が、私の可愛いメイドたちを、よくも可愛がってくれましたね。それは、万死に値しますよ。死んでも殺し続けてあげます」


 そう述べた口元から鋭い牙が光る。バンパイアの牙だろう。鋭利さに、不気味さが輝いていた。


 巨大ゴブリンが鬼のような表情で、タキシードの紳士を睨みつけながら、唸るように言った。


「オ前、誰ダ。モシカシテ、政子ノ浮気相手ダナ〜。許サヌゾ〜。殺シテヤルゾ!!」


 額に血管を走らせ、顔を赤くさせた巨大ゴブリンが、タキシードの紳士に向かって走り迫っていった。その表情は、今までと違って本気の鬼のようである。狂犬のごとく鼻の頭に深い皺を寄せながら、牙を剥いていた。


「ははっ、なるほどね。かなりの威圧感だ。これならば三人が勝てないのも納得できる」


 言いながら、タキシードの紳士は持っていたステッキの杖先を巨大ゴブリンに向ける。すると、杖の先端がまばゆく輝いた。そこから魔法の矢が発射される。


「ファイアーアロー!」


 魔法の矢は炎に包まれた一発。その一撃が、巨大ゴブリンの額にギラついていた三眼を撃ち抜いた。炎の矢は大きな頭部を貫通し、後頭部の肉や骨を散らした。


「ギィァアアアア!!」


 顔面を押さえながら転倒する巨大ゴブリン。しかし、数秒の後に立ち上がる。その額の瞳は、すでに復活していた。魔法の矢で傷ついた跡が消えている。


「あらら、復活が速いですね。しかも、額の瞳が弱点ではなかったか……」


 ならばと、今度は左の拳を突き出すタキシードの紳士。すると、小指にはめていた指輪の宝石が輝いた。そこから青い魔力の塊が飛び出す。それは鉄球のように目標に迫り、敵の胸を貫いた。


「ガバ……」


「今度は、どうかな」


 魔力の砲弾は、巨大ゴブリンの胸を貫いて丸い穴を開けた。大胸筋を突き破り、肋骨を砕き、心臓を完全に破壊している。貫通した傷口からは、反対側の景色が覗けるほどだった。


 しかし、丸い傷口がぐにゃりと蠢きはじめ、次第に肉が寄り集まり、穴を塞いでいく。リジェネレートによる再生だ。


「ならば――」


 タキシードの紳士は、人差し指一本で無空を横一線に軽くなぞった。その一振りが斬撃を放つ。


 次の瞬間、巨大ゴブリンの首が切断された。大きな頭が胴体から転げ落ちる。切断面からは火山の噴火のように鮮血が噴き上がった。


 だが、その鮮血の中で落ちたはずの生首がふわりと浮かび上がり、胴体の上へ戻る。傷口がぴたりと接着され、また一つに繋がった。


「ガァルルルルルルル!!」


「頭を撃っても駄目。首を跳ねても駄目。心臓を貫いても駄目とは……。なかなかの生命力ですね」


 そう言いながら、タキシードの男は左手の人差し指に嵌めた指輪をかざす。すると指輪に装飾された二つのダイヤが輝いた。


 同時に、巨大ゴブリンの頭上と足元に大きな魔法陣が出現し、上下から挟み込むように金色の光を放つ。


「ガルルルッ!?」


「ザ・フレイム・ザット・スコーチズ!」


 上下から放たれる灼熱の光。その輝きが巨大ゴブリンの体を隅々まで容赦なく炙り上げる。やがて巨体は炎に包まれた。


「ギィァアアアア!!!」


「今度は全身を燃やしてやる!」


『うわ〜、芳ばしく丸焼けてる〜』


 全身を炎に包まれた巨大ゴブリンは、なおも身を捻り、力を蓄える。そして大きく両腕を振るうと、炎を蹴散らすように弾き飛ばした。


「なに!?」


 炎を吹き飛ばした巨大ゴブリンの身体には、すでに火傷の痕も残っていない。再生が始まっているのだ。


「グゥルルル〜」


「全身を焼いても駄目なのか……。呆れてしまうよ」


 不老不死を誇るバンパイアのヴァンピール男爵でさえ、巨大ゴブリンの再生力には呆れていた。まさに不死身すぎる存在だった。



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