瑞樹と雫樹
次作の練習作品です
【伊従瑞樹】
・双子の兄(主人公)
【伊従雫樹】
・双子の妹
「瑞樹、瑞希」
国語の授業中、教師が板書をしている時に後ろの席の高橋が、ちょんちょんと俺を突っついてくる。
何事かと思い、一度教師の方に視線を向けて安全を確認しつつ後ろを向いて小声で聞く。
「なんだよ?」
「雫樹ちゃんからのお手紙だってよ」
どうやら席が離れている双子の妹の雫樹から手紙が回ってきたようだ。俺はそれを受け取り、高橋に見られないように前を向いて広げる。折りたたまれていた紙にはこう書いてあった。
『やつらが来るよ』
その一言だけ。だがその一言で俺は状況を察した。状況を察したがさてどうしたものか? 俺は古典的な理由を使うことにした。手を上げて堂々と。
「先生! 気分が悪いので保健室に行ってきます」
「具合が悪い? 健康優良児のお前がか?」
「偏見や差別は良くないと思います」
「わかったわかった。じゃあ保健委員、ついて行ってやれ」
そこへシュバっと立ち上がり、手を真っ直ぐに上げる女の子。俺の妹の雫樹である。
「朝倉先生! お兄ちゃんを保健室に連れて行くのは妹の役割です!」
「いや、保健委員の役割だから」
「妹の大事な役割です!」
先生は雫樹の睨みにおののいたのか諦めた。
「わかったわかった。雫樹、瑞樹を保健室に連れて行ってくれ」
呆れ顔の先生。それもそうだ。何しろ俺はシスコン、そして雫樹に関しては重度のブラコン認定されているのだから。もはや学校で有名なほどに公認されている。
俺は具合悪そうな演技をしつつ教室を出る。妹は俺を支えるふりをしつつ教室の扉を開ける。
そして閉めた後、廊下を十歩ほど演技したまま歩くと途端に同時に走り出した。
「雫樹! やつらはどこだ?」
「ちょっと待って下さいね」
妹は左目を抑えつつ走っている。俺も右目を抑えつつ走っている。
妹が左目から手を離すと、俺の腕を掴んで引き留めた。そして廊下の窓を開けて外を見回す。
「屋上です!」
「屋上か。人目につかない場所でよかった!」
俺も右目から手を離した。
俺たちは階段を駆け登る。そして屋上の施錠されたドアを蹴破ろうとしたところを妹に襟首を掴まれた。
「なにすんだよ! 首が締まっただろうが!」
「お兄ちゃん、ドアを壊すのは駄目ですよ。私に任せて下さい」
そう言うとヘアピンを髪から外して鍵穴に突っ込み何やらしている。素人の俺にも分かる中々慣れた手つきをしている。
そういえば俺の部屋のエロ本がたまに『あれ? なんか位置がちょっと変わったか?』って思ったことがあったけど、やっぱり気のせいじゃなかったのか? 妹の性格を考えると疑わしい。
そんなことを考えていると妹は用事が済んだようだ。
「お兄ちゃん、開きましたよ。この『力』を手に入れてから鍵を開けるのが速くなって便利です」
とりあえず今俺が考えていたことは後で問い詰めることにする。今はやつの始末が先だ。
扉を勢いよく開けて、屋上を確認する。宙に黒い空間の歪のようなものがあり、ジジジッと音をたてている。
「雫樹! 障壁とバックアップ頼む!」
「はい。障壁を展開してバックアップを取ります」
屋上一帯がまるでスキャナーで読み取りをしたかのように、黒い線が俺たちのいる後ろから屋上の奥の方まで進んで行き、消える。
「完了しました」
「OK、あとは俺に任せておけ」
相手はまだ実体化していない。実体化していない状態で相手に攻撃できないというのが煩わしい。空間の歪の数は一つなので、どうやら『敵』は一体らしい。
そして『敵』の実体化が済んだ。その姿は人間の形はしているが、皮膚の作りが黒く禍々しい。そして人間の形をしているのに四つ足で移動する。
「雫樹! 下がってろ」
「はい」
妹が障壁の外へ出たのを確認すると、俺は敵に向かって行く。
これでも俺は運動神経は良く、運動系は何でもこなせる。そこへ『力』が加わることでこの怪物を相手にできるようになった。俺が殴りかかると相手は素早く避ける。四つ足歩行に向いていない体型なのによく動けると感心してしまう。そして避けたことによって妹の方が近い位置になってしまったために、雫樹に怪物は向かって行った。
だが、ガーンと障壁に跳ね返される。
「この野郎! よくも妹を狙いやがったな!」
俺は背後から怪物の胴体に拳を打ち下ろした。
衝撃と共に屋上が怪物を中心にひび割れる。怪物はうめき声を出しつつ後ろ足で俺を蹴り上げる。それをバックステップで避ける。怪物は雫樹に攻撃ができないことを理解したらしく、俺の方に向き合う。
咆哮をあげつつ向かってくる。
俺は敵の心臓辺りを貫くように手刀を突き刺した。そして『元は心臓だった』ものを取り出して握り潰す。
すると怪物はさらさらと砂のように崩れていき、その砂すら消え去った。
「雫樹、障壁の解除とバックアップを戻してくれ」
「はい、お兄ちゃん」
雫樹が『力』を使った。先ほどのスキャナーのような物が戻ってきて、障壁は消える。そして『バックアップを取っていた屋上』も何事もなかったかのように亀裂は消えた。
「さて、教室に戻るか」
「お兄ちゃん駄目ですよ! 戦って疲れただろうから、保健室で寝て下さい。私が看病しますから」
「いや、あの程度の敵じゃ疲れねーし」
「駄目です駄目です! 具合悪い設定になっているんですから保健室に行くんです!」
こうして雫樹に保健室へと連行された。