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田中達也と鈴木きらら⑧

 

 京都市内を縦断するように通っている地下鉄烏丸線。そのうちの五条駅を降りて五分ほど歩いた場所にあるマンションの十二階にきららの自宅はある。


 父親は単身赴任により不在のため、普段は母と二人暮らしだ。


 家に帰り、パートから帰った母親が作ってくれた夕食を食べ終わった。


 いつもならこの後、二人で母親のはまっている韓国ドラマをリビングで一話だけ見る予定だったが、今日はそんな気分になれなかった。きららは食事を済ますと今日はやることがあると母親に告げ、自室へとそそくさと入っていった。


 部屋の扉を閉め、月明かりが微妙に差し込む部屋で電気もつけずそのまましゃがみこんだ。


「負けた……」


 きららの頭に浮かんだのは、今日のフリースタイルバトルだ。


 別に勝てると思っていたわけではない。負けることだってあるのはわかっている。初めて出た大会だってボロボロに負けたじゃないか。


 そう自分に言い聞かせるが、気づけばきららの目からは涙が零れ落ちていた。


 練習もいっぱいした。でも勝てなかった。自分で言うのは言い訳かもしれないと思い、心に蓋をしていたが、今日の負けでより一層思ってしまった。


(一人でやるのは限界がある)


 ラップをする仲間がいないきららにとって、対戦相手の他にまず孤独と戦う必要がある。今日、一回戦で当たったMC花梨の取り巻きたちの歓声を正直羨ましく思ってしまった。


「いいなぁ……」


 涙を拭いながら、きららはつぶやいていた。そして同時に、今日バトルの会場で会ったクラスメイトのことを思い出す。


「田中君……天才すぎだよ……」


 達也の提案は切に仲間が欲しいきららにとって非常に魅力的だった。本気でぶつかり合える仲間を学校という身近な場所で作ることができたら、どんなにいいか。とにかく明日その天才に相談してみようと思った。


 緊張と疲労の糸が切れ、一気に夢の中へと誘われたきららは、それに逆らうことなく、ベッドへと体を委ねた。


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