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田中達也と鈴木きらら⑦

 

 改札を抜け、ホームについた。部活帰りの生徒も既に見られず、辺りを静寂が包んでいる。

 

 スマホで時刻を確認すると、電車が来るまであと十分程度だった。達也ときららの家は反対の方角だが、ホームは一つしかないため、二人で並んでベンチに座った。


「フリースタイルバトルは最近結構流行ってるんだけどね」


 フリースタイルバトルとは、さっきのイベントのように即興でラップを行い、それで競い合うことだ。最近はネット番組などの題材にもなっており、認知度は高まってきている。


「でも、やっぱり身近にいて、一緒にやれる人ってなかなかいないんだよねー。最近の悩みです」


「なるほどね」


 きららは一年前からラップを始めたらしい。最初は深夜番組に影響されて一人で練習をしていたが、どうしても人とやってみたくなり、大会に申し込んだ。その初めて出た大会で何もできず、相手にボコボコにされ、その悔しさからのめり込んでしまった。それが今や予選を勝ち抜き、今日のような大型の大会にでているのだから単純に凄いなと達也は思ったが、どうやらきららは納得していないようだ。


「今日も悔しいよー! あと二回勝てば全国だったんだよ! しかも相手も女の人だったし、なおさら。でもサイファーとかに女子一人で混ざるのって難しいんだよ。結構見た目怖い人多いしさ。だから練習の場所は欲しいなって思うんだ」


「……サイファー……」


 達也が呪文のようにつぶやいた。言葉の意味がわからずぽかんとしていると、きららが丁寧に説明をしてくれた。


「サイファーっていうのは公園とか路上で音楽をかけて、フリースタイルをすること。知らない人同士とかがSNSを通じて集まったりするものなんだけど、基本的に夜に開催されることが多いし、女子一人で参加するのって相手の人にも気を使わせるかなーとか思っちゃうしね。なかなか参加できないんだ」

 そう言われ、たまに夜に見かけることがあるなと思った。集団で円を作ってズンズンと音楽を大音量で流しているのは何かと思っていたが、あれがそうかと腑に落ちた。何かの儀式かと思っていた。確かにあの中にきららが一人で混ざりにいくのはかなり勇気がいるだろうし、異質な気もする。達也の偏見が大いに混じっていることが認めるが怖い人の集まりというイメージはどうしても拭えない。


「うーん、確かに難しいね」


「そうなんだよー。最近はメジャーになってきてはいるんだけどね」


 きららがわざとらしく首を傾げ、困ったようなポーズをとった後、ふと寂しそうな顔をした。


「それこそ学校では募らないの?」


「へ?」


 達也の発言にきららはぽかんとした顔をする。


「いや、学校で仲間を集うとかさ。例えばだけど部活とか」


 学生がそういう仲間を見つけるのに一番手っ取り早いのは部活だろうとシンプルな考えだった。ただ達也の通っている高校にはラップ部は存在しないため、例として挙げただけだ。


 そんな気軽な考えの達也とは対照的に、きららは自分の口元を抑え、真剣に考える様子を見せる。


 ――二番線に電車が参ります――


 無機質なアナウンスとともにきららの乗り込む電車が先に入ってくる。電車を意に介さず、まだ考え込んでいる様子を見せるきららに達也は声をかけた。


「……鈴木さん?」


「そうか……部活か……」


「え?」


 俯いた状態から一気に上を向いた彼女の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。


「田中くんって天才かも!」


「はぁ……?」


「そうだよ! その手があるじゃん! 部活だよ! そしたら毎日活動できるじゃん!」


 きららが達也の手をとり、ぶんぶんと上下に振る。


「ありがと! 田中くん!」 


「あ、いえ」


 何にお礼を言われたのかわからないがとりあえず返事をする。


「それじゃ、また明日ね」


「あ、うん。また明日」


 そういってきららは勢いよく電車に乗り込んでいった。嵐のように去っていった彼女がいないホームはとても静かに感じる。そしてふと思い出した。


「渡し忘れた……」


 ポケットから進路希望の紙を取り出し、ため息をつく。しかし、まぁいいかとすぐに開き直った。


 普段の達也ならもっと落ち込んだかもしれない。教師から頼まれた依頼をこなすことができなかった自分を責めたかもしれない。しかし、今日はなんだかそんな気分ではなかった。きららの自由さに影響されたからなのか、それは達也にもわからない。ただなんとなく、今日あの場所にいってきららに出会えたことを嬉しく思っている自分がいた。


「ん?」


 スマホが震えた。何かと思ってメッセージアプリの通知画面を開くと、「きららが友達に追加されまし

た」と表示があった。クラス全体のグループには入っていたが、個人的に連絡をとったことは一度もない。


 帰路のいつもと同じ景色が、なんだか今日は少しだけ違って見えた。


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