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(終章)鈴木きららと田中達也


 放課後のグラウンドから白球を追う声やランニングの掛け声、そして蝉の鳴き声が窓越しに教室へ飛び込んでくる。静かな教室に響くその声の中、二人は黙々と作業に没頭していた。


「大事なこと忘れてたね」


 達也はそう言いながら、教室の机に広げたA3サイズのポスターに色を塗っていた。ポスターには大きな文字で「フリースタイル同好会、メンバー募集!」と書かれている。掲示板に張り出す用なので、なるべく目立つように赤色のマジックで派手に全体の枠を囲っている。


「てへへ……うっかりしてたね……」


 あと一週間もすれば夏休みに入ってしまう。出来ればその前には完成させ、全校生徒にメンバー募集をアピールしたいところだった。


 文化祭での発表は大盛り上がりを見せた。発表が終わってからは、同級生や上級生問わず、全く知らない人にまで声をかけられ、あの日の主役が達也ときららであったことは誰の目にも明らかだった。そんな様子を見て、光一は悔しがるふりをしつつも、嬉しさを隠しきれない笑顔を浮かべていた。


 またその二人が同じクラスにいるということもあり、クラスの出し物であるたこ焼き屋も大盛況だった。初日を自由にさせてもらった代わりに、二日目は、朝から達也ときららの二人で店の前に立ち、まるで客寄せパンダのように働かされた。その効果か、二日目はかなり早い段階で売り切れとなり、売り上げ目標の十万円を達成した。仕切ってくれていた女子生徒は鼻高々に「私がいるんだから当然でしょ」と満足げにしていた。


 儲けは打ち上げで使用することになっていたが、夏休み前はみんなの予定が合わず、とりあえず再度予定調整をして、夏休み中か改めて二学期に入ってからということになった。


 そんな大盛り上がりを見せ、大成功に見えた文化祭だったが、達也ときららは肝心なことを忘れていた。


 肝心の部活のメンバー募集を一切していなかったのだ。

 

 正確には達也はきららに任せていたし、きららもそれは自分の役目だと張り切っていた。しかし、文化祭前のごたごたや勝負の熱が入り過ぎたせいもあって、肝心のMCへの告知をすっかり忘れてしまっていた。結果、ただ文化祭で、派手にフリースタイルバトルを行っただけになってしまったのだ。

ごたごたは達也のせいということもあり、そこに関して多少の責任も感じているようで、今、こうして改めてメンバー募集ポスターの製作を手伝っている。夏休みが始まる前に、新しいメンバーを捕まえなければならないという焦りもあり、二人は必死にポスターの制作を進めていた。


 ちなみに、光一率いる軽音楽部はちゃっかりと新入部員を獲得しているらしい。


「そういえばさ……」


「ん?」


「賭けなんだけどさ。僕は何をしたらいい?」


 手を動かしながら、達也がきららに問いかけてくる。


「うーん……」


 きららは動揺を隠しつつ、作業を続けながら考える。


 賭けはきららの勝ちだった。


 観客の拍手量で判断された勝敗は、きららに軍配が上がった。あの日、達也の知名度もかなり上がったが、入学当初から目立っていたきららのファンや友人たちの声援には及ばなかったのだ。


 正直、きららはその勝敗に納得はしていないが、勝ちは勝ちだ。当初の目論見通り、「文化祭までという約束をなくして、卒業まで一緒にラップをやってほしい」ということを要求しようと思っていた。しかし、文化祭でのメンバー募集を忘れたこともあり、結果として今もこうして一緒に活動をしてくれている。そう考えると、わざわざその権利を使ってまで言い出す必要はないのではないかと思い始めていた。そのため、きららは、この賭けのことをずっと言い出さずにいた。もしも、達也がいつか活動を辞めるとなったときの切り札として取っておいたのだ。


 だから今、要求を明言することは避けたかった。卑怯な考えなことはは重々承知だ。それでも、きららは開き直るしかなかった。


(恋する乙女はなりふり構っていられないんだよ……!)


 もっとずっと達也と一緒にいたい。だから、この切り札はできる限り残しておきたいと思っていた。


「まぁ、また言うよ。あはは!」


 ごまかすようにきららは笑った。


 達也はやれやれといった顔でそれを聞き流し、手を動かし続ける


「そういやさ、田中くんは夏休みの予定とかあるの?」


「いや特にないよ。読みたい本を消化するぐらいかな」


「じゃぁさ、どこか出かけない?」


「え、サイファーとか?」


 ずっと手を動かしている達也に向かって、きららが頬を赤らめながら言う。


「違うよ……デートしない?」


 なけなしの勇気を絞り、きららが言った。


(……言った……! 言ったぞ……わたし!)


 文化祭の後、きららは女子たちが達也のことを「格好いい」と噂しているのを聞いた。最初聞いたときは「そうだろそうだろ」と誇らしげに思っていたが、時間が経つにつれ、段々不安になってきた。


 もし他の女子が達也に魅力を感じて、その女子といい感じになってしまったら……と、想像すると胸が締め付けられているような気持ちになる。自分にそんな嫉妬心があったことに驚いたし、それ以上に焦りを覚えた。


 そう思った以上、何もせずに待つことなんてできない。だけど、いきなり告白する勇気もない。もしも振られて、今の関係が崩れてしまったらと思うと恐怖で足がすくんでしまう。それでも、何も起こさないのも自分の性格上、耐えられない。そんな思いから、きららは青春の一ページにふさわしい舞台である、高校一年生の夏休みを利用しようと考え、達也をデートに誘った。勿論、デート自体はノープランであるが、肝心なのは「デート」という響きで、自分を意識させること。そういった駆け引きは本能的に理解していた。


達也の手が止まる。顔を上げ、きららを見つめてきた。


 その視線に思わず顔を背けそうになるが、きららは必死に耐え、まっすぐ向きあった。鼓動の音が相手まで聞こえるんじゃないかというぐらい大きくなっていく。周囲の音が聞こえなくなり、まるで世界に二人だけしかいなくなったみたいに感じた。


「うん、行こっか」


 達也は笑いながら言った。そして、照れ隠しのように再び作業に戻った


 きららが心の中でガッツポーズをした。今はこれが精いっぱい。でも彼とはきっとずっと一緒にいられ る気がする。そんな予感めいたものをきららは感じていた。


 高校一年生の夏。きららの新しい戦いがこれから始まろうとしていた。



 完



最終話です!ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

いいね、感想などいただけると大変うれしいです!

この小説はライトノベルの新人賞の二次で落選したものですが、

改稿してまた出す予定ですので、アドバイスもいただけると大変ありがたいです。。。(*´ω`)


続きは今のところ書く予定はありませんが、登場人物たちの話はまだ続くので、

構想はしておきます!妄想かも!


ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!





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