バンドと部活⑤
(いよいよだ……なんだか緊張してきた……)
元々強心臓な上に、「とりあえずやってみよう」が信条なきららが、珍しく自分でもわかる程、緊張していた。MCから渡されたマイクを持つ手が小刻みに震えている。
(そういやGMBのときも緊張したな……)
対面にはこの三週間で最も長い時間を共に過ごした達也がいる。きららがあげたお揃いのTシャツに袖を通したその姿はさながら強者ラッパーだ。
昨日までの自信なさげな彼はどこにいったのか、先ほどのバンドのパフォーマンスも相まって、水を得た魚のようにいきいきとしていた。
達也の歌は想像を遥かに超えていた。普段の地声やラップをしているときも、いい声だったし、ずっと聞いていたいと思っていたが、それはあくまでも発声などの基礎ができているからだと思っていた。しかし、先ほどの達也の歌声はそんな基礎的な技術で説明できるものではなかった。
達也の歌声には、純粋な才能が宿っていた。自分が努力でどうにかできるレベルを優に超えており、きららは感動すると同時に少しの悔しさすら覚えた。元から負けたくないバトルではあったが、その理由が更に増えた。歌で負けて、ラップでも負けたら悔しすぎるではないか。
達也は短期間で本当に上達した。
しかしさすがに、技術や経験の面では、現時点できららが上回っている。
それに元々、学園での人気や人望、知名度は圧倒的にきららが上だ。入学当初、「一年生に可愛い女の子が入った」と上級生の間でも話題になった程である。それに対し、達也は学級委員で人望はあっても、それはクラス内に収まる話で、女子が苦手なこともあり、静かな人という印象しか持たれていない。順当に考えれば、明らかにきららが優勢だった。
しかし何故だか、今の達也に勝てる気が全くしなかった。そう思わせる「凄み」が今の達也にはあった。圧倒的な歌唱力を見せつけられ、この場の人間すべてが、達也ひいきになったような錯覚に陥る。実際にはきららのファンも大勢いるため、そんなことは決してないのだが、きららの脳内では今、完全にこの場はアウェイと化していた。
「でも、こんなの慣れっこだからね……!」
初めてフリースタイルバトルの大会に出たときのことを思い出す。勝手がわからず、味方もファンも何もいなかったときのことを。それに先日のGMBでも花梨のファンの勢いに圧倒されそうになった。それでも、どんな状況でも前を向いて頑張る。それが私だと言わんばかりの表情できららは達也を見つめた。
「負けないからね!」
「僕もだよ」
文化祭実行委員のMCが観客にルールを説明し始める。
「最近話題のフリースタイルラップバトル! これよりフリースタイル同好会によるエキシビジョンを行います!」
MCが観客を煽り、それに応えるように会場の熱気が増した。
「まずは選手紹介! その可憐な見た目でファン急増中! ただし勝負になると可愛くないぜ! 一年三組のアイドル的存在! 鈴木きらら!!」
このMCの紹介文については何の相談もされていない。みんなに可愛いと思われているのもファンが多いことも事実だが、きららにはその自覚はないため、恥ずかしさがこみ上げてくる。とはいえ、この場で恥ずかしがるのも場が白けてしまうと思い、きららは声援に堂々と応えるように胸を張り、笑顔で応えた。
「きらら! がんばってー」
「めっちゃかわいいー!」
やはり、内心では照れが消えない。
「対するのは、一年三組の学級委員長! 歌うますぎて惚れてまうやろ! 田中達也ぁぁ!」
「達也ぁぁ!! 頑張れー!」
「羨ましいぞぉ!」
達也の優しさと気遣いは男子からも評価が高く、野太い声での応援が飛んでくる。その中にはきららとお近づきになっていることを妬むものもあった。
「バトルは一本勝負で行われます! 八小節三ターン! 観客の皆さんはバトル終了後、どっちがかっこよかったかを拍手にて投票してください!」
MCが淀みなく説明を進め、観客の生徒たちも次第にルールを把握していく。参加型のイベントに興奮する生徒たちが、会場の空気をさらに盛り上げていた。
「それではじゃんけんで先攻後攻を決めてください!」
促されじゃんけんをする。きららが勝ち、少し考えた後、先攻を選んだ。
(今、会場の空気は田中君のものになってる……先攻でガツンとかまして、少しでも空気を変えないと……)
「それでは先攻、鈴木きらら! 後攻、田中達也! 準備はよろしいでしょうか!」
「「はい」」
二人の声が重なる。その様子に会場の期待も高まっていく。
「それではいきます! ミュージックスタート!」




