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バンドと友達③


 きららは上級生がやっている出店で買ったクレープを頬張りながら、中庭を歩いていた。高校生が作ったとは思えないそのクレープのクオリティに「さすが三年生は違うぜ」と唸らせられる。


 クラスの友人から一緒にお化け屋敷を回ろうと言われたが、今はなんとなく一人になりたくて断りを入れ、中庭の野外ステージを見に来た。現在、ステージ上ではカラオケ大会が行われており、よくテレビのCMで流れてくる流行りのJーPOPが聞こえてくる。ステージ前はかなりの盛り上がりを見せており、学年を問わず、大勢の生徒が集まっている。


(もうすぐあのステージに立つんだ……!)


 再びクレープを一口頬張る。口いっぱいに生クリームとイチゴソースの甘みが広がる。


 目の前にある学校のステージはきららにとっては決して大きなステージではない。サイズ感という意味では大きいかもしれないが、観客数という意味では、これまで出場してきたGMBの予選や花梨とのバトルの方が多い。しかし今日のステージは過去のどれよりも、きららにとって特別な意味を持っていた。


 今日、達也を教室で見かけたとき、きららは安堵した。また、達也はとてもすっきりした顔をしていた。あんなに悩んでいた彼が、元気を取り戻してくれた。それが本当に嬉しかった。


 だけど勝負は別だ。きららは、教室で達也に賭けを提案した。負けた方が勝った方の言うことを聞くという単純なルールの賭けだ。


「文化祭までという約束をなくして、卒業まで一緒にラップをやってほしい」


 きららが勝てば、達也にそう要求する予定だ。達也がそれを承諾してくれるかはわからないが、しかし

言わずにはいられない。


 今日で達也との練習が終わってしまうと考えると寂しさで胸が詰まりそうになる。


 今となっては最初に文化祭までということを言わなければよかったとも思う。あのときなら、達也の事情などを一切考慮せずに無茶苦茶言えたのに、今は自分の気持ちより達也の気持ちを考えてしまう。


 だから、ストレートに要求するのではなく、賭けという形にした。正直、自分でも少しずるい手段だと思うが、達也ともっと一緒にいられるのであれば、このぐらいはして当然だと思う。


(もっと一緒にいたいんだもん……)


 きららはそう心の中でそう呟いた。


 それに達也はああ見えて意外と負けず嫌いだ。最初は真面目なだけだと思っていたが、バトルで負けた時、悔しそうにしながらも冷静に自分の弱点を分析し、それを克服するためにひたむきに努力する姿を何度も目の当たりにした。ただ真面目というだけではあそこまでの熱意を持つことはできないだろう。だからきっと、今日のバトルで自分が勝てば、達也はラップを続ける。きららの中にはそんな確信めいたものがあった。


 同級生として、友達として、仲間として、そして……、とにかくもっと達也と一緒にいたい。そうきららは思っている。


 カラオケ大会が終わり、MCが次のプログラムを読み上げる。


(真由たちのバンド、見たかったなぁ……)


 今朝、昨日のお礼を言おうと真由に話しかけたら、いつもの何倍もワイルドな声で返事をされた。体調には問題ないと言っていたが、あの声でボーカルは無理だろう。光一は否定していたが、正直巻き込んでしまったという罪悪感はぬぐえない。でもそのせいで自分が落ち込んでも誰も喜ばないということはわかっている。だからこそ、自分はその分も一生懸命頑張らなくてはいけないときららは思った。今朝聞いた話では穴埋めとして、軽音楽部の違うバンドが演奏することになったらしい。


(少し見たらもう着替えてステージに行っておこっと)


 集合の時間までは大分早いが、早めに準備するに越したことはない。そう思い、きららがステージに目をやると、見慣れた顔がそこにはあった。


「え⁉」


 なんと、出演を辞退したはずの真由がベースを構えて立っていたのだ。彼女は低い位置にベースを抱え、音を調整するために弦を弾く。その音がアンプを通して響き渡った。


「え⁉ なんで?」


 続いて光一が登場した。お調子者らしく、観客に手を振りながら余裕の表情を見せている。光一は女子生徒に人気があるようで、黄色い歓声が「キャー」と上がっていた。光一もまた、ギターを構え、ギュインギュインと音の確認をした。


 続いてドラムの生徒が現れる。見覚えはあるが、名前は知らない男子だ。そして、その後に現れた人物を見て、きららはさらに驚愕する。


「田中くん……⁉」


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