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バンドと友達②

 

 学校に着くと、すでに仕切り役の生徒が集まっており、段取り確認をしていた。朝のホームルームで簡易的に注意事項が説明されればスタートで、あとは教師の介入はほぼなく、生徒の自主性に任せられる。


「売上目標は十万円です!」


 シフト調整などを率先して行ってくれている女子生徒が、今日も元気に仕切ってくれている。学級委員という立場上、多少の責任感は感じているが、彼女が以前、「こういう役割が好き」だと言ってくれたため、それに甘え、すっかり頼り切っている。


 彼女の目標発言に周囲が「おおお……」と驚きの声を漏らした。

 

 北大路高校の文化祭は木曜日、金曜日の二日間にわたって行われ、その出し物は多岐にわたる。教室で展示を行うクラスもあれば、達也のクラスのように中庭で出店を行うクラスもある。出店をやるクラスには生徒一人あたりにつき千円が支給され、それを元手に材料費を調達する。達也たちのクラスは全員で三十一人、よって三万千円が学校から支給された。それを十万円にするということは粗利で六万九千円の儲けになる計算だ。収益はクラス単位での打ち上げに使用することが許可されており、それを用いた打ち上げは高校生にとってはかなり豪華になり、とても魅力的だった。

 

 女子生徒の声に、クラス全体がやる気を出し、自然と気持ちが高まっていった。


「客引きは任せろ」「知り合い全員に声かける!」など、前向きな声が教室中に飛び交う。

達也は彼女のリーダーシップを目の当たりにし、自分より彼女の方が学級委員に向いているなと苦笑いした。


「おはよ」


 ふと声をかけられ、振り向くと、そこには達也同様、どこか吹っ切れた表情のきららが立っていた。


「いよいよ本番だね」


「そうだね。昨日は……本当にありがとね」


「いいよ。田中君には頼ってばっかりだったし、たまには頼られるのも悪くないよ」


 きららは気恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻きながら言った。


「あと、音源もありがとう。結局任せきりになっちゃったし」


 今日の本番では、準備した数曲のビートからランダムに再生することで、バトル用ビートを決定する。そのビートの候補は二人で選んだため公平性に問題はない。しかし、音源の編集やCD作成はすべてきららが担当してくれた。そしてそのビートでバトルをし、観客である生徒の拍手で勝敗を決定する段取りだ。さらにMCの原稿や文化祭実行委員に頼む手配まできららがしてくれており、達也には当日特別やることがなかった。


「いいよん。ちゃんと再生されるかは心配だね。あはは」


「大丈夫だよ。きっとちゃんとテストしてくれるだろうし。最悪、リズムキープだけ誰かがしてくれたら何とかなるしね」


「おお。強気じゃん。わたし、負けないよ」


「僕もだよ」


 二人が目を合わせると、一瞬真剣な空気が走る。しかしその緊張感にすぐに耐えきれなくなったきららがぷはっと笑った。


「ねぇ。何か賭けない?」


「え?」


「負けた方は勝った方の言うことを何か聞くの。勿論お互いにできる範囲でね」


(別に賭けなくてもいつも鈴木さんの言うとおりになっているけどな……はは)


 勝算は正直ない。ラップを始めて三週間しか経っていない自分が、経験豊富なきららと同じ土俵で戦うこと自体が無茶だという自覚もある。しかし、今日は引くつもりはなかった。自分を追い込むという意味も込め、達也はきららの提案を承諾した。


「いいよ」


「おっけ決まり! 出番は十二時で諏訪原君たちのバンドの次だから、それが始まる前にまた連絡するね。多分十一時半すぎぐらい!」


 そう言い残し、きららはクラスメイトの輪の中に入っていった。今日は達也もきららも出店のシフトは入っていないため、ステージの時間以外は完全に自由だ。


(そういえば、諏訪原はどこだ?)


 ふと光一の姿が見えないことが気になった。普段ならこういうとき、いつも中央で盛り上げているはずなのに。あたりを見渡すと、珍しく教室のすみっこで考え込んでいる光一が目に入った。昨日のことについてお礼を言おうと思い近づくと、光一はなんだか浮かない顔をしている。


「諏訪原」


「おお、達也おはよ! 昨日はめそめそしてたくせに今日は元気じゃん!」


 達也が声をかけると、光一は途端に元気そうな声を出し、いつもの調子でからかってきた。しかし、さっきの浮かない顔がどうしても気になってしまう。

昨日、きららと一緒に自分のことを気にかけてくれたことは本当に嬉しかった。だからもし、光一が何か困っているなら、今度は自分が力になりたいと思った。


「うん。おかげ様で。昨日はほんとにありがとね」


「なんだよ、そんな素直に礼なんて言うなよ。まじな話、俺たちは何もしてないからさ。全部鈴木の愛の力だよ」


 光一が茶化すように言うが、達也は気にせず言葉を続けた。


「なんかあったのか? なんか諏訪原の方がさっき元気なさそうだったから」


「お前……そんな気を使える人間だったっけ?」


 光一が目をぱちくりさせながら達也を見てくる。


「失礼だな。僕だって友達の心配ぐらいするよ」


「あはは。お前ほんと変わったな。愛ってすげぇな」


「茶化すなよ」


「いやいや、まじだよ」


 光一はそう言って笑ったが、その笑顔の裏に何か抱えているようにも見えた。達也はさらに追及しようとしたが、悩みの種はすぐにわかった。


「˝お˝は˝よ˝うぅぅ」


 突然横からうめき声が聞こえてきた。驚きながら、声の方を見ると、いつものように可愛らしい表情の真由がいた。


「おはよう中原さん。昨日はありがとね」


 光一同様、真由も自分を心配して時間を割いてくれた。達也はそのことに感謝し、お礼を告げる。


「ぜ˝ん˝ぜ˝ん……ぎ˝にじ˝な˝いで!」


 飛び切りの笑顔で真由が言う。その愛くるしさと対照的にうなるような重低音が空気を振動させ達也の耳に飛び込んでくる。ガラガラという表現も生ぬるいほどに掠れたその声は痛々しさすら感じられた。


「え、中原さん……声、大丈夫?」


「˝あ、˝う˝ん! だ˝いじょ˝うぶ……」


「あーもう話すなって。熱はなくて体調は問題ないらしいからいいんだけど、声だけはどうしても出ないみたいでさ。昨日、帰ってから練習しすぎて声枯らしたらしいんだ。このばか」


「ばがどば˝な˝んだ! ばがどは……!!」


「あーもうしゃべんなって。悪化しちゃうぞ」


 悪態を付きつつも、光一の言葉からは本当に心配する様子が伝わってきた。


「いや、昨日雨の中、僕のこと探してくれたからだよ……ごめん」


 昨日、光一たちが四条大橋の下に来てくれたとき、真由は傘もささずにびしょ濡れの状態だった。夏とはいえ、体調に影響が出てもおかしくない


「いや、こいつが頑張り過ぎたからだよ……ま、さすがに歌える奴は他にいねぇし、今回は辞退だな! お前たちのステージ楽しみにしてるからよ」


 光一は明るく言い放つが、その顔には落胆の色が浮かんでいた。光一の言葉には、自分に心配をかけまいとする配慮が見えるものの、真由の声が出なくなったことでステージを諦めざるを得ない現実が重くのしかかっている。


(いや、絶対僕のせいだ……)


 達也は心の中でそう呟いた。 


 自分のせいで、大事なものを諦めようとしている友人たちがいる。それだけでなく、心配させないように気まで使われている。それを感じたとき、昨日の花梨の言葉がふと脳裏をよぎった。


『自分のことを大事にしてくれる人を、大事にしなよ』


(そうだ。諏訪原は友達だ。僕のことをいつも助けてくれる恩人だ。その恩を少しでも返すために……)


 覚悟を決めた達也はある提案を光一にした。


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