コーヒーと再会②
やっと頭痛から解放されたきららが、元気に声を上げた。
会場はここから歩いてすぐのところにあり、開場が十七時、開演が十八時だ。、少し早いんじゃないかと一瞬思ったが、きららのリードに従うことにして、達也も残りのコーヒーを飲み干した。
会場は本当にすぐ近くの路地にあった。受付には強面のお兄さんが立っている。きららが二人分のチケットを見せると、半券をもぎり、ドリンクチケットを手渡してくれた。
(ライブハウスの受付って、どうしてあんなに強面の人が多いんだろうか……?)
そんなことを考えながら地下への階段を降りていく。GMBのときとは違い、今回は何のイベントが行われるかわかっている分、心の中には少し余裕があった。それに、横にはきららがいる。
階段の先にはホールが広がっており、外観から想像した以上に広い空間だった。キャパシティは二百人程らしい。既にかなりの人が入場していて、雑談したり、会場の写真を撮影したりと、それぞれ自由な時間を過ごしている。
「どうする? 先にドリンクチケット引き換えちゃう? 別に帰りでもいいみたいだけど」
「うーん、今はいいかな。さっきコーヒー飲んだばっかだし」
「そっか。あ、物販みよ、物販!」
きららに手を掴まれ、会場後方にある物販コーナーに達也は連れていかれた。
物販コーナーはかなりの賑わいを見せており、一番人気のTシャツは既に売り切れていた。他にはタオルやアクリル素材のキーホルダー、缶バッジなどが置かれている。
その中にはCDも並んでいた。スマイルのものと、さらに奥の方に、花梨が出した手作り感満載のCDも置かれていた。達也はふとそれを手に取った。
「これって花梨さんが出したってこと?」
「うん。自主制作らしいけど結構売れてるって言ってたよ。わたしもそれは買うつもり!」
「そうなんだ……」
達也は自分と年齢がさほど変わらない花梨が、こうした活動をしていることに尊敬の念を抱いた。CDを手に取り、レジに向かう。五百円をレジの女性に支払い、CDを受け取った。
「何買ったの?」
先に会計を済ましていたきららが訪ねてきた。
「花梨さんのCDだけ。鈴木さんは?」
「わたしもそんな感じ。最近金欠なのです」
さっきスマートバックスでグランデサイズを頼んでいたのに、とは口には出さない。
二人はステージの方に向かう。前方は既に人で溢れていたため、中央より少し後ろの方で開演まで待つことにした。
「結構年齢層バラバラなんだね」
「え?」
「いや、お客さんの。僕たちみたいな高校生もいればおじさんもいる」
「あー、そうだね。なんか噂じゃ若い人たちに人気らしいけど。まぁでも色んな人が興味を持てるのはい
いことです」
「なにそれ」
いいことを言ったみたいな感じできららがうなずいていると、照明が暗くなっていった。
メンバーが舞台に上がると、最前列付近にいた若い女の子たちが「キャー‼」と黄色い歓声を上げた。その反応は、まるでアイドルのコンサートのようだ。五人組の男性たちは、その歓声を当然のように受け取っている。達也が抱いていたラッパーのイメージとは、まるでかけ離れた光景だ。達也は彼らの服装や態度、髪型に、どこか流行りの動画配信者のような軽薄さを感じてしまった。
しかし、曲が始まると、その印象は一変した。仮にもプロとして活動しているだけあって、そのパフォーマンスは圧倒的だった。一つ一つの曲のクオリティが非常に高く、決めるべきポイントをしっかりと抑え、ファンへのアピールも抜かりないMCでは適度に笑いを取りつつ、会場全体を巻き込んで盛り上げる工夫が随所に見られた。彼らの「かっこよさ」が全力で詰め込まれたライブは、達也にとっても予想外に楽しいものであり、同時にパフォーマンスの勉強にもなった。
(これが自分にできるかは置いといて……)
プロの実力を目の当たりにすると、服装や態度、髪型まで全てが計算された戦略の一部に見えてくる。人気や話題はあるには越したことがない。こうした実力も見てもらえなければ意味がないのだと感じた。
何曲かのあと、花梨がゲストとして登場する楽曲が始まった。かなりヒップホップ調の曲で、メンバー毎にMCを担当するパートが分かれていたが、その中でも花梨のラップスキルが圧倒的に際立っていた。普段の花梨やサイファーをする花梨、GMBのステージの上の花梨のどれとも異なる一面がそこにはあり、ゲストでありながらもスマイル本体を喰らうほどの迫力を見せていた。そしてその影響でスマイルのメンバーもさらに熱が入るという、見事な相乗効果が生まれていた。それら全てを計算して花梨をゲストに選んだのだとしたら、企画者は相当な策士だと達也は感心した。
あっという間の一時間が過ぎた。最初に感じていた不安は杞憂に終わり、ヒップホップライブとしてとても完成度の高いものを目の当たりにした。
「すごかったね!」
きららも満足したようで、とても良い笑顔を達也に向けてきた。
「そうだね。すごかった……」
達也は花梨に挨拶に行きたかったが、生憎、会場の退出時間が迫っているということで、仕方なく二人は会場を後にした。
「申し訳ないけど、僕の分も花梨さんにお礼言っておいてもらえるかな? 僕、連絡先知らなくて」
「おっけ!」




