DVDとブルーレイ②
「あらあらあらあら、どうぞどうぞ……!」
「えっ! 誰っ⁉ お兄ちゃんの彼女⁉ うそでしょ⁉ こんなかわいい人がお兄ちゃんの彼女なんてありえない!」
「すみません、突然お邪魔してしまって!」
「いえ、全然いいのよ。あ、飲み物はお茶でいいかしら。お菓子も何かあったかしら」
「あ、いえ。お母さん、本当にお構いなくで大丈夫ですから!」
「あらやだ! お母さんだなんて、嬉しいわぁ」
「もういいから! 鈴木さん、こっち!」
物珍しさから少し興奮気味に構ってくる母と妹をあしらい、きららを自分の部屋に通した。
普段から整理整頓しているため、急な来客でも一応対応はできるが、正直驚きを隠せない。何故、家の前にいたのか。そもそも何故、達也の家がわかったのか。
「いや、そのストーカーとかじゃないんだよ! ブルーレイを受け取ったのがたまたま北山駅で、田中くんの最寄り駅だなーって思って、なんとなく散歩してたの。そしたら、『田中』って表札を見つけて……で、そういや住所を前に有志のメンバー記入の紙で見たなーって思って……あぁ、何言っても無駄ですよね! わかってるよ! ドン引きですよね!」
「いや、別に引いてはないよ。びっくりはしたけどね」
「……ごめんなさい」
きららがキャラ崩壊気味にまくしたてる。
別にドン引きもしていないし、ましてやきららが自分をストーキングするなんて考えていたわけでもない。もしこれをクラスメイトに知られた際に、なんと弁解するべきかを必死に考えていただけだが、結果的に引いたような沈黙になってしまった。
「ほんとに気にしなくていいから」
普段あれだけ強引なきららが、しょんぼりしていると調子が狂う。いつも元気でいろとは言わないが、遠慮がちな態度はどうにもきらららしくない。
「さすが! 田中くんは神様だね!!」
(ここまで切り替えが早いのはどうかなとは思うけど……)
改めて、同級生の中でも一際人気のクラスメイトの女子が、自分の部屋にいることに異常さを感じる。
彼女の私服姿を見るのは、今回が初めてではない。達也の頭の中には、GMBのときに見た、ボーイッシュなオーバーサイズのTシャツが強く印象に残っていた。しかし、目の前にいるきららは、季節に合った爽やかな水色のフレアスカートに、白いブラウスという清楚系の服装をしており、達也の中のイメージとは大きく異なっていた。肩の部分がちらりと露出しているのも、普段とは違うガーリーな一面を強調している。
そのガーリーな服装と、この異常な状況が相まって、達也は少し緊張してしまう。エアコンが効いている部屋なのに、変な汗がじわりと滲んでくる。
「田中くんって、本当に本が好きなんだね」
「え? うん、好きだよ」
きららが達也の部屋を見渡しながら言った。
彼女の視線を追うと、部屋の壁をぐるりと囲むように置かれている本棚が目に入る。達也は日課として読書を趣味としている。特定のジャンルの本を読むというわけではなく、広く興味を持ち、読みたい本があればとりあえず読むと言った読書スタイルだった。そのため、達也の部屋の本棚には、漫画から洋書まで様々なジャンルの本が並んでいる。几帳面な性格のため、ジャンルごとに作者名の五十音順に並べられている様は、まるで小さな書店のようだ。
人に自分の趣味を理解されるというのは嬉しい反面、なんだか気恥ずかしくもある。友達がこの部屋に来ることはあまりなく、普段は家族にしか見られることはないため、なんだか自分の一面を暴かれているような気分になってきた。
「……恥ずかしいからあんまり見ないで……」
「え、なんで? 本当に凄いよ。だからあんなに言葉を知ってるんだなって思って。本当に尊敬する」
予想外に真剣な言葉が返ってきて、少し達也は困惑する。しかし、やはり恥ずかしいものは恥ずかしい。とりあえず話題を変えようと思った。
達也の部屋には来客用の椅子がないため、とりあえず普段使っている学習椅子に座るように促し、達也自身は床に腰を下ろした。
「……で、映画を見たいんだっけ? 何の映画?」
「あ! そうそう! えっとね……これ!」
そういってきららは鞄からブルーレイディスクのパッケージを取り出した。てっきりラップやヒップホップに関係する映画だと思っていたが、どうやら違うらしい。そこには大勢の観衆の前でステージに立つ男が、マイクを持ち天を仰いでる姿が描かれている。達也はこのパッケージに見覚えはあった。何年か前に流行った、七十年台から八十年代にかけて実際に活動していたイギリスのロックバンドの伝記映画だ。バンドの結成から解散前に行われた伝説と呼ばれるロックフェスまでの紆余曲折が描かれている。
「なんかめちゃくちゃ感動するって聞いてさ。ずっと見たかったんだよね」
「そうなんだ……」
(なんでこのタイミングで⁉)
本番まで一週間を切っている。いくらずっと見たかったとはいえ公開中の映画でもないのだからいつでも見れるじゃないかと思ってしまう。
しかし、そんな達也の心中をよそに、きららは初めて見るポイステ5に興味深々の様子だ。適当なボタ
ンを押して大きな電子音が鳴ると、びっくりして跳び上がる様子はまるで猫のようで、少し愛らしささえ感じさせる。
(まぁ……せっかくなら楽しむか……)
女子と話をするのは相変わらず苦手だ。しかし、やはりきららとは普通に接することができる。それはきららに裏表がないことが伝わってくるからだろう。直情的で強引で、やりたいことは、とにかくすぐに行動に移す。思えばこの短期間で、何度も巻き込まれたが、なかなか行動に移せない達也にとっては助けられている部分でもあった。
「それじゃないよ。コントローラの真ん中のロゴのボタンを押してみて」
「え、これ? うわ!」
ファンの回転音とともにポイステ5が起動する。中に入っていた、きららから借りたバトルのDVDを取り出した。
「あ、ごめん。ずっと借りてた。返すね」
「あ、いいよいいよ。まだ見るなら返さなくていいよ?」
「ありがと。じゃぁ文化祭が終わるまで借りてていい?」
「大丈夫です! そもそも録画データはまだレコーダーに残ってるから、見ようと思えば見れるしね」
借りたDVDはもう十回以上、目を通している。だが勉強のためにもっと見たいため、厚意に甘えることにした。




