DVDとブルーレイ①
達也たちの通う北大路高校は、京都市バスの主要発着場所である北大路バスターミナルの前に位置して
いる。
北大路バスターミナルは京都市地下鉄の北大路駅と併設されていることもあり、平日、祝日問わず、いつもかなりの賑わいを見せていた。そのため例年、北大路高校の文化祭も平日にもかかわらず、周辺の大学生や生徒の父兄など、多くの来場者が見込まれるイベントになっている。そしてその野外ステージでパフォーマンスを行うとなれば、必然的に大勢の視線を浴びることになる。
「あぁ不安になってきた……」
スマホに表示したスケジュールを眺め、達也は小さく呟いた。
今日は土曜日で学校は休みだ。朝食を済ませたあと、達也はすぐに部屋にこもり、机に向かって韻を書き出したり、口ずさんだりと自主練習に励んでいた。こういうとき、適度に息抜きでもできればよいのだが、真面目な達也の性格がそれを許してくれない。
きららとカラオケに行った日から一週間が経過した。
放課後は時間の許す限りきららと練習を重ねている。ときには街へサイファーに繰り出し、ときには花梨たちに混ぜてもらいながらと、とにかく数をこなした。その成果は確実に現れており、達也のフリースタイルの腕前は目に見えて向上していた。ハマればとことん向き合う性格が功を奏しているようで、その練習量は全て達也の糧となっていた。
だが同時に、達也は練習を積み重ねるたびに、自分と周囲の実力差を感じてしまっていた。これまで経験のなさが故にわかっていなかったものが、少しずつ上達するにつれてわかってきてしまったのだ。
まだラップを初めて二週間足らずだ。当たり前と言えば当たり前なのだが。それをよしとできる性格であれば達也はこれほど苦労していないだろう。達也の焦りは日を追うごとに増していった。だから本番前の最後の休みであるこの土日は、それを少しでも解消すべく、みっちりと練習を行うつもりだった。
(鈴木さんは何をしてるんだろう)
一緒に練習をした方が効率はいいのは明らかだったが、休みの日にクラスメイトの女子に連絡をするのはどうしても気が引ける。ここ数日で色んなことがあったが、そんなハードルを越えられる程、達也のメンタルは強くなっていない。
そんなことをぼんやりと考えながら、韻を再び書き出す。
突然、けたたましい着信音とともにスマホが震えた。
「うわ!」
大音量の呼び出し音に達也は驚く。スマホの画面を見ると、「鈴木きらら」と表示されている。きららから休日に電話がかかってきたのは初めてのことだった。
(もしかして一緒に練習とか……?)
達也は戸惑いながらも淡い期待を抱きつつ電話に出た。
「……もしもし」
「もしもし田中くん? いま、大丈夫だった?」
電話越しのきららの声は、スピーカー越しのせいか、いつもよりも少し遠慮がちに聞こえた。
「大丈夫だよ。練習してた。どしたの?」
「やっぱり! ってことは田中くん、今、家にいる?」
「え? あ、うん。家だけど?」
「ずっと見たかった映画があってさ!」
「……うん」
予想外の話題に達也はとりあえず頷く。映画なんて久しく見ていないなとふと思った。
「知り合いが貸してくれたんだけど、それがブルーレイディスクなんだよね……」
彼女の言いたいことが見えない。達也はとりあえず、「うん」と頷く。
「息抜きに見たいんだけど……うち、ブルーレイ見れないんだよね……!」
達也の頭にこれまでのきららの強引な行動がフラッシュバックする。嫌な予感がした。
「田中くん、前、ポイステ5持ってるって言ってたよね……?」
「……うん」
達也の嫌な予感はほぼ確信に変わりつつあった。次にきららが言う言葉が手に取るようにわかる。家には母親も妹もいる。それにクラスの人気者のきららを部屋にあげたなんて他の男子に知られたら、何を言われるかわかったものじゃないし、下手したら呪われかねない。だから、もしきららが「今から行っていい?」と言ってきたら、ちゃんと心を鬼にして断ろうと、達也が決めたときだった。
「多分だけど……今、田中くんの家の前にいるんだよね……」
達也はカーテンを開け、道路を見下ろした。そこには遠慮がちに手を振るきららの姿があった。




