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再会とサイファー②

 

 グラウンドの横を通り、駅に向かう。


 野球部やサッカー部など、外で部活動をしている生徒たちの声が響いてくる。教室にいたときも聞こえていたが、距離が近くなると、その熱気に少し圧倒される。達也の高校はそれほど強豪校ではないが、それでも一人一人がその瞬間に全力を注ぎ、誰一人として手を抜かずにプレイしているのが一目でわかった。


(あんな風に熱中できるなんてすごいな……)


 先日きららに対して感じた感覚を、グラウンドの生徒たちにも重ね合わせる。


 何かに熱中できることは、幸せなことだ。なりふり構わず、他のすべてを忘れて、その瞬間瞬間を本当に楽しむことができるほどの情熱を、何かに向けられるなんて。自分にも、そんな対象がこの先見つかるのだろうか。全く想像がつかない。


 野球部の中にはクラスメイトの顔もあり、教室で見せる表情とは全く違っていた。その表情のどれもが輝いて見え、達也にとっては尊敬すべき存在だった。


 今、きららの言うことに素直に従っているのもそのためだ。彼女には熱中できるものがあり、自分にできることがあるのなら、協力したいと思ったのだ。


(だから、僕にできることはしてあげたい……それは嘘じゃない。ただ、説明は欲しいけど!)


「どうしたの?」


 達也の様子を感じ取ったのか、きららが声をかけてきた。達也は物思いにふけっていたことを隠し、

「なんでもないよ」と返した。


 目的地の三条は、達也たちの高校がある北大路駅から電車で十五分程だ。京都市地下鉄烏丸線で烏丸御池まで行き、そこで東西線に乗り換え、二駅先にある。

 帰宅時間ということもあり、電車の中には達也たちと同じ制服の生徒が何人かいた。


 達也はふと、きららと一緒にいるところを誰か知ってる人に見られると、変な噂が立つのではないかと心配になり、キョロキョロと周囲を見渡した。


「どしたの?」


 その行動を不思議に思ったきららが尋ねてきた。


「え、あ、いや。もし知ってる人に見られたら、鈴木さんに迷惑かなって」


「なんで?」


「え、いやその」


 達也は言葉に詰まってしまった。


「自分と一緒にいるところを誰かに見られたら男の趣味が悪いとか思われるよ」と説明したかったが、それを自分から言ってしまうのは卑屈すぎて気持ちが悪いような気もして何も言えなかった。それでは何と言おうかと考えていると、きららが口を開いた。


「あ、彼氏はいないよ! だから、男の子と出かけても全然問題なし!」


 そういう心配をしていたわけではないのだが、きららから思わぬ情報が飛び込んできた。クラスの男子が泣いて喜ぶ有料級の情報だが、今はそれよりも「そういうことにしとこう」という逃げ道が見つかったことの安心が勝った。


「そうなんだ。なんかサッカー部の先輩に告白されたとか聞いたからてっきり」


 そう言った後、達也はすぐに後悔した。人にはあまり触れてほしくない話がある。ましてや高校生にとって、恋愛の話はセンシティブな話題の場合もある。「そうなんだ」で終わらせておくべきだった。達也は自分の発言で不快にさせてないかと不安に思いながら、きららの顔色を窺った。


「やっぱ知ってる? そういう話ってみんな好きだから広まるの速いよね」


 しかし、そんな心配は杞憂だったようで、きららはあっけらかんと話をしだした。


「先週かな? なんかいきなり呼び出されて、告られて。でも全然知らない人なの。話したこともないの

にわたしのどこを気にいったんだろうね。でも、こんなに話が早く広まるぐらいだから、あの先輩人気なのかな?」


 人気なのは君だよと思ったが、これ以上、自分から話しを広げるのはやめとこうと思い、達也は何も言わなかった。


「田中君は? 彼女とかいないの?」


「え?」


「あ、いや、ごめん。いきなり聞いて。わたしはそういうのあんまりわかんないからさ。でもクラスの友達はみんな好きな人とか彼氏がどうとか話してるし。田中君はどうなのかな―って」


「僕もそういうのわかんないかな。女の人と話すの苦手だから」


「そうなの?」


 きららが意外そうな顔で達也を見つめてきた。その目線を気恥ずかしく感じ、達也は目を逸らした。


「わたしも?」


「あ、いや」


 きららの目から不安が感じ取れた。


 理由は何故だかわからないが、きららに対しては苦手意識を持たずに接することができている。達也は正直にそう伝えた。


「鈴木さんは大丈夫だよ。どうしてかはわからないけどね」


「えへへ、そっか! なんか嬉しいや」


 そうこうしているうちに乗り換え駅である烏丸御池についた。多くの乗客と一緒に達也たちも下車し、三条行きの電車が来るホームへと向かった。


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