再会とサイファー①
「まじかよ!」
次の日の朝、学校に着くやいなや、光一が昨日のいきさつを聞いてきた。
一昨日のイベントのことは口止めをされたわけではないが、なんとなく伏せたまま文化祭でちひろとラップバトルをするということだけを説明した。勿論、パンツを見てしまったことについては一切触れていない。
光一は目を大きく見開いて、驚いた様子を見せた。
「なんだよ、どういう風の吹き回しだ? てか文化祭に誘ってたの、俺の方が先だよな?」
そう言われ、少し申し訳ない気持ちで達也は苦笑いを浮かべるが、光一は気にせず言葉を続けた。
「ま、中学からの親友との友情と、クラスで一番かわいい女の子からのお誘いだったら、そりゃ後者を取るか……悲しいけど、これが現実だな……」
そういって光一は悲劇のヒロインよろしく涙を浮かべるふりをした。
「えっと、なんかごめん」
達也は感情のこもらない声で謝ったが、多少なりとも罪悪感を感じているのは事実だ。
「え、いや、でもさ。有志の時間ってことは俺らの部活発表の後ってことだよな。……てことはさ、両立できるじゃん。いや、俺、頭良すぎじゃん。送るから、練習しとけよ」
そういって光一はポケットからスマホを取り出す。
「え、何を?」
「俺らの音源。もちろんオリジナル曲だよ。ほい、送信完了」
そう言われ、スマホをみると音源データが一つ転送されてきている。
「いや、やらないよ」
「はやっ! いや一回聞いてみてから決めろよ! それにしても、達也がラップねぇ……」
「……なんだよ」
「こんなこと言ったらあれだけど、似合わないよな。あはは」
「わかってるよ、そんなこと」
一昨日のイベントでも思ったことだし、DVDに出演していたラッパーをみても思った。どれも達也とは違う人種であり、あそこにいるだけで相当浮くことは自分でも容易に想像できる。
「ま、頑張れよ。楽しみにしてるわ」
そういって自分の席に戻る光一を横目で見ていると、チャイムが鳴り、先生が教室に入ってきた。
放課後になると、すぐにきららが話しかけてきたので、達也は昨日の動画の感想を伝えた。
「でしょ! すごかったでしょ! もっとたくさんすごいバトルがあるんだけど、全部は無理だから厳選したんだ」
きららがどんなもんだいといった様子で胸を張り、前のめりで言葉を続けた。
「あのバトルはね。番組の初期から登場していたラスボスの鬼丸が、引退する前に自分の想いを全て、モンスター代表であるZ指定にぶつけるの! 本当に熱い展開なんだよ! 生で見たかったなぁ……番組はもう終わっちゃったんだけど、録画してたの何度も見返してるんだ。というかクリームピーナッツ好きだったら、もしかしてあのバトル知ってた?」
きららの話によると、そのラスボスと戦ったZ指定というモンスターが、クリームピーナッツのMCを担当しているらしい。ラジオではその情報を得られなかったため、達也は素直に首を横に振る。
「いや、知らなかったよ」
「そっかぁ。でも田中君にもそのバトルの熱さが伝わってよかった!」
「……うん、なんか他のバトルは結構な貶し合いをしてるのに、あのバトルは、感謝とかお世話になった気持ちを伝えてる感じがして、すごく響いた感じ……全然詳しくないのに、こんなこというの恥ずかしいけどね」
「そんなことないよ! 感想はどんどん言っていこう! 絶対笑わないし!」
達也の発言にきららは真剣な表情を見せる。達也はその真剣さに少しの気恥ずかしさと嬉しさを感じた。
「……ありがと。ところで、今日は何をするの?」
「色々考えたんだけど……これをご覧ください!」
達也の質問に待ってましたと言わんばかりの笑顔をきららが浮かべ、鞄から取り出したものを机の上に広げた。
「なにこれ? 地図?」
机いっぱいに広げられたのはこの街の地図だった。達也たちが通学に利用している京都市の地下鉄を中心に手書きで書かれており、まるで中学生のフィールドワークの製作物のようだ。随所にかわいらしい文字で注釈が書かれている。
「さ、田中君はどこに行きたいですか」
そういって、きららは達也に地図のどこかを指定するよう促した。注釈が書かれているポイントはいくつかあり、それらは二重丸で囲まれている。
「いや、どこに行きたいって……これ何の地図?」
「いいからいいから」
何の説明もないきららに達也は少し不満を覚えつつ、指示に従い地図の一か所を指さした。
達也が示したのは三条。おしゃれなカフェやファンシーなショップが多く、中高生の女子に人気のエリアだ。達也はよく翔子の付き添いで訪れるため、なんとなくその場所を選んだ。すると、きららの笑顔がさらに広がった。
「お、いい場所を選ぶねー。ちょっと待ってね。調べるから」
「え、何を?」
達也の質問には答えず、きららはスマホを取り出し、SNSで何かを調べ出した。すぐに調べ終わったようで、「じゃあ行きますか」と言いながら、きららが鞄に手をかけた。鞄につけているゆるキャラらしきキャラクターが、それに合わせ大きく揺れる。
「え、今から? どこに?」
「そ、今から! どこって田中君のご指定の場所だよ!」
そう言い放ち、きららは早く準備するよう達也を急かした。
(昨日も思ったけど、鈴木さんはかなり強引だぞ……)
確かに指定したのは自分だが、半ば強制だ。その強引さへの不安が伝わったのか、きららは達也の肩をポンと叩き、行きながら説明するからと教室を出た。
「はあ……仕方ないか……」
結局、達也はその強引さに押され、きららに続いて教室を後にした。




