パンツと部活③
「ごめん! お待たせ!」
そんな音たちをぶった切るようにきららが教室に飛び込んできた。達也を待たせまいと走ってきたようで、その肩は呼吸に合わせて上下に小刻みに揺れている。
「ゆっくりでよかったのに」
「いや、そういうわけにはいかないよ! わたしが引き止めてるんだし、田中君の時間を一秒でも無駄に
してはいけないと思い、走ってきました! でもごめんね。それでも待たせちゃって。いや、先生全然動いてくれないんだよ。話も長いし。今日、用事とか大丈夫だった?」
「うん。何にも予定はないよ」
「そっか、よかった! ありがと!」
「先生の用事はなんだったの?」
真面目なきららが呼び出される理由は達也にはすぐには思いつかなかった。しかし、進路志望の紙を出し忘れるなど、抜けているところもあることを知ったため、何かしら知らない事情もありそうだなとも思う。
「うん、部活について聞いてきたの」
「部活動?」
「そう、部活動」
「鈴木さん、何か部活入ってたっけ?」
達也の疑問にきららがぽかんとした顔をする。そしてふふと笑った。
「もう、田中君、何言ってんの?」
達也は頭に疑問符を浮かべた。
「部活作ったらって言ってくれたの田中君じゃん」
「……あぁ!」
昨日の記憶が呼び起こされる。確かに帰り際にそんな提案をした。本当に軽い気持ちの提案だったのだが、それで早速教師の元へと申請に行く行動力に驚いた。
「もう忘れないでよ」
「ごめんごめん」
きららがわざとらしく、頬を膨らませる。
「それで先生のところに行ってたんだ」
「うん、部活ってどうやって作ったらいいかわかんなかったから、とりあえず先生に聞こうと思って」
「なるほど」
「で、部活を作るのにはまず部員が五人必要なんだって。あと顧問。顧問はごっちが引き受けてくれるからあとはメンバーなんだけど、田中君、誰か興味ありそうな人知らないかな」
きららが机に頬杖をつきながら達也に尋ねる。ちなみにごっちというのは達也たちの数学担当の教師だ。生徒からの質問に答えるとき、考え込んでいるのか必ず目を閉じることが特徴であり、よく生徒にもいじられ、慕われている。後藤勝でごっち。
「いや、思い当たらないな……」
(なるほど、これが僕を引き止めた理由か……。力になってあげたいけど、頼る相手を間違っているような気がする……)
きららの期待に応えるべく、達也は頭を巡らせた。
友人の顔が思い浮かんでは、消えていく。そもそも友人の数が多くないため、結論に至るまでに時間はかからなかった。せっかく頼ってくれたのに、何の力にもなれそうになく、なんだか申し訳ない気持ちになる。
「そっか……ありがと!」
きららは一瞬表情に影を落としたが、すぐに笑顔になり、達也に向き直った、
「地道に増やしていくしかないよね! 徐々に注目を集めないと!」
(注目か……そういや諏訪原がなんか言ってたな)
きららのその言葉に、ふと昼休みの光一との会話を思い出す。
「文化祭とかは?」
「文化祭?」
「いや、出し物で注目を集めるとかさ。もうあんまり期間ないかもしれないけど」
達也たちの高校はクラス単位、部活単位での出し物の他に有志でそういったパフォーマンスを行う時間
が設けられている。その時間の枠内であれば、申請すれば誰でもステージ上で発表ができる。勿論時間の限りはあるため、応募多数の場合は抽選になるのだが、例年、申し込み数は少ないため、実質当確だった。
尚、達也たちのクラスの出し物は売店でたこ焼きを販売する予定だ。だけどシフトを調整すれば、きららが今からパフォーマンスをすることも可能に思えた。
「有志の枠で出て、昨日みたいなパフォーマンスをすれば興味を持ってくれる人も出てくるんじゃないかな」
「なるほど……え、それめっちゃいいじゃん! 田中君、やっぱ天才だよ!」
「いや、褒めすぎだって」
きららの顔が達也の提案で一層笑顔になった。
「えー! 全校生徒の前ってことでしょ! きっと見つかるよね、仲間!」
「うん、昨日、鈴木さん本当に格好良かったし、いけると思う」
「そう? えへへ、照れますなぁ……。でももっと練習しなきゃ……あと三人、興味持ってもらわないとね」
(……ん? あと三人?)
既に誰かあたりをつけているのだろうか。きららの交友関係を考えればあり得る話ではあったが、なんだか嫌な予感がする。
「あと三人って……誰か既に誘ったの?」
きららはにんまりと笑う。そして達也に向かってゆっくりと指を指した。
「わたしと田中君、で、あと三人だよ」
「……いやいやいやいや!」
きららがあまりにも屈託のない笑顔で言ってきたため、一瞬自分が間違っているような気持ちにさせられたが、すぐに拒否の意を示す。その笑顔を見るタイミングがこんな状況でなければ、きっと幸せな気持ちになれただろう。
しかし、きららは達也の言葉を遮り、話を続けた。
「だから、今日から一緒に練習しよ! あと三週間だよ! ファイト、オー!」
「いつの間にか文化祭に僕も出ることになってない⁉」
「当たり前じゃん! 一人でバトルはできないよー! もう!」
「無理だよ! 無理! 絶対に無理!」
あまりの強引さに先ほどよりもはっきり拒否の言葉を述べる。
MCバトルは昨日見ただけだが、とても自分にできるとは思えない。
台本のないステージ上での即興力、堂々と自分の意見を主張する度胸、相手を貶す精神力、そのどれもが自分にはないものだと達也は思った。ましてや文化祭まであと三週間しかない。誰がどう言おうと無理なものは無理なのだ。
「大丈夫だよ! わたしが教えるし! ……っていっても教えられる程上手くはないんだけどね……いや、でも大丈夫! だから一緒にやろ」
きららが根拠も何もない大丈夫という言葉を武器に勧誘を続けてくる。
ちらと彼女を見ると上目遣いになっており、達也以外の男子なら脳死で了承してしまう程の破壊力があった。
実際、達也も違うお願いだったら二つ返事だっただろう、しかし、今回ばかりは安請け合いはできない。
達也はきららの妥協点を探る。




