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パンツと部活②

 

 女子の輪の中にいたはずのきららが達也に話しかけてきた。

 

 普段接点のない二人の会話に聞き耳をたてるよう周囲の意識がそこに集まっていく。横にいた光一と真由も例外ではなく、突然の訪問に驚いたようで、目をぱちくりさせている。


「え、あ……うん」


 あまり注目されることを好まない達也は最低限の返事で時間があることだけを短く伝えた。


「よかった! それじゃぁ放課後付き合ってください」


 そう告げ、きららは再び元いた輪の中に戻っていった。


 周囲の女子たちが達也との関係を囃し立てるが「そんなんじゃないよー」と軽くかわしている。

 男子も同様だ。周囲のざわつきの中、何人かの男子がきららとの関係について、達也に尋ねてきた。

「おい田中! どういうことだよ!」


「まさかお前、鈴木さんと……?」


「諏訪原だけじゃなくて……お前もそっち側だったのか……」


「違うって! なんもないから!」


 一様に見当はずれなことを言ってくる男子たちに、それぞれきっちりと否定の言葉を真摯に伝える。光一がそんな達也の様子を見て、「真面目だねぇ」と言ってきた。


 午後の授業はあっという間にすぎていった。数学と古典の授業だったのだが、達也の頭は放課後、きららに何の話をされるのかということで頭がいっぱいで、普段面白いと思っている教師のジョークも小難しい数式も一切入ってこなかった。普段話をしない女子生徒と話をするだけで、授業を疎かにしてしまう自分を自己嫌悪している間に、ホームルームも終わり、気づけば放課後になっていた。


「ごめん、田中君! 職員室行ってくるから、ちょっとだけ待ってて!」


「え、あ、うん。わかった」


 そうきららに言われた達也は主人を待つ犬のようにおとなしく自分の机で彼女の帰りを待った。


「じゃあな、達也! また何の話だったか教えろよ」


 そういって光一も教室を後にした。バンドの練習が忙しいようだ。


 気づけば教室にいるのは達也だけとなっていた。午後の授業とはうってかわって、何もせずにただ待つ時間というのは永遠のように感じられる。本でも読んで時間を潰そうとしたが、この後のことが気になって、文章が何一つ脳みそに入ってこなかった。


 一体何の話をされるのだろうか。達也は頭を巡らす。十中八九昨日の出来事関係しているだろう。他に思い当たる可能性は皆無だ。


(いや、でも……なんだ? 全然わかんないや)


 少ない可能性を絞り出した結果、筆頭候補に挙がったのは口止めだ。


 昨日のできごと、要するにラップをやっていることをクラスメイトや他の人にはやはり知られたくないと思った結果、とりあえず達也からその情報が漏れるのを防いでおこうと、話をする機会を設けた。


(でもそれならメッセージを一通くれたらいいだけだよな……)


 もう一つはラップの話をもっと一緒にしたいという可能性だ。


 昨日の彼女のリアクションから察するに、これまで周囲にそういう話しができる人間がいなかったようだった。達也の受け答えのせいでもあるのだが、やっと見つけた趣味の合う仲間と思われている可能性が高い。だがこちらの可能性についても、わざわざ放課後呼び止める程かとも思う。


 結局、もうすぐわかるだろうとぼんやりと窓の外を眺めながら、達也はきららを待つことにした。思えば放課後の教室で一人きりになるなんて初めてかもしれない。


 窓の外からは様々な音が聞こえてくる。蝉の鳴き声。生徒たちが部活に励む声。グラウンドを運動靴で駆け回る音。管楽器の練習音。そのどれもが少しずつ入り混じりながら、達也の耳に微かに聞こえてきて、なんだか心地よくなる。


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