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#62 青石のダンジョン、再び 1

 〈東の木漏れ日亭〉5階、ユリーシアの自室(アトリエ)

 そこでレンとユリーシアはいつもの会話を繰り広げていた。


「ユリーシアさん、薬草はここに」

「ありがとう。レン君はこのあとどうするの? またギルドの図書館?」


 レベルが15と5に上がった二人であったが、その後も以前と変わらない生活が続いていた。

 ユリーシアが薬草採取を行い、それをレンが護衛する。ユリーシアの荷物がいっぱいになるとレンがそれを持ち、ついでに倒した魔物の素材も持ち帰る。


 だが、以前から変わったこともある。 

 大きく変わったのは採取する薬草の種類だ。以前は下級ポーションしか作れなかったユリーシアが、スキル〈錬金術(薬)〉を取得したことにより中級ポーションまで作成できるようになった。それにともない素材となる薬草も大きく変わった。

 もっともユリーシアの販売網では中級ポーションなど高価過ぎて売れることなどないのだが、それでもユリーシアは中級ポーションを作っていた。


 そして、ユリーシアは一度だけ大きな怪我をした者を診た時に、下級ポーションと偽って、それを使ってみた。


――今まで直せなかった怪我でも直せる。

――やっぱり下級と中級では効果が全然違う。


 使う機会は滅多にはないものの、それが嬉しくてユリーシアは中級ポーションを作り続けた。未だ低品質なものしか作れていないので、練習という意味合いもある。


 また、変わったのはユリーシアだけではない。


「ユリーシアさん、少し相談があるのですが」

「どうしたの? 急ぎの用?」

「いえ、全然急ぎではないので夕食の時にでも」


 レベルが5に上がった頃からか、それとも主神プラウレティーネと会話した頃からか。いつからかレンの顔付きが変わってきたような印象をユリーシアは受けていた。

 以前はコロコロとよく笑いつつもどこか不安げな少年であったが、どことなく凛々しく、表情が落ち着いてきたように感じる。地に足が付いてきたのだ。


 そして、その日一緒に夕食を取っていた時にレンが告げて来た。


「以前攻略した〈青石のダンジョン〉にもう一度挑みたいと思っています」

「〈青石のダンジョン〉に?」


 ユリーシアはレンと一緒にパーティーを組んでから、少年が初めて強く自分の意志を主張してきたと思った。

 その主張をユリーシアは穏やかに受け入れた。


「ミルフィアさんに相談はしている?」

「もちろんです」

「それなら大丈夫かな」


 以前は黙ってレベル違いのダンジョンに挑んでいたレンであったが、もはやそのような心配もない。互いの信頼感が育っている。

 そして、夕食後ユリーシアはレンを自室(アトリエ)に連れ込んだ。この日作ったばかりの中級ポーションを手渡す。


「レン君。ダンジョンに行くなら、これ持って行って」


 いまだ低品質であるが、それでも多少調整した下級ポーションよりも回復力は高い。

 それを受け取ったレンの手を、ユリーシアの両手が包む。


「危ないことしちゃ駄目だよ」

「はい」


 出会った頃は自分よりも背の低い小柄な少年であった。その少年がいつの間にかユリーシアとあまり変わらないくらいの高さになっていた。

 実際に背が伸びたのか、それとも背筋が伸びただけか。

 いずれにせよ、ユリーシアは少年が少し逞しくなったと感じた。




◇◇◇◇◇




 翌日、レンは〈青石のダンジョン〉へと向かった。


 以前〈青石のダンジョン〉を攻略した時はレベル4であった。

 現在はレベル5。レベルは1つしか変わらないが、それ以外のところで変わったことは多い。


 まず、スキル〈身体強化Ⅰ〉が増えている。これはステータス値のATKとDEFを一割ほど増強する効果がある。従来はステータス値の恩恵と言っても「身体の調子が少し良いかな」程度でしかなかったが、この〈身体強化Ⅰ〉を得てからは、はっきりと「身体能力が上がった」という実感を得られるようになった。

 具体的には筋力が上がって、多少の方向転換や切り替えしなど、強引な動作を身体能力に任せて行えるようになった。

 また、防御面では明らかに魔物からダメージを受け難くなっている。肌にしても骨にしても、明らかに常人と比して怪我し難くなった。


 さらに、装備も充実した。

 大枚を投げ打って購入した剣もさることながら、防具も新調した。これはグレーター・レッドウルフ戦で殆どの防具が破損したこともあり、またミルフィアからの提案で冒険者ギルドからの出資を受け入れた結果でもある。

 動き易さを重視するレンは、軽量な革鎧一式を購入し、頭部には新たな鉢金(はちがね)を購入した。その鉢金(はちがね)は魔石をはめ込める魔道具となっており、風魔法により遠距離攻撃に対して一定の防御を行ってくれる。

 さらに、身代わりの石も再購入して補充し、装備としては万全を期していた。


「これでグレーター・レッドウルフを倒したレン君が大事に至ることはないでしょうね」


 と、受付嬢ミルフィアも太鼓判を押してくれた。




◇◇◇◇◇




 そして、新装備と共にレンは〈青石のダンジョン〉へと向かった。


 途中の野営も慣れたものとなっている。

 ユリーシアと共に何度か野営を経験をしている。一人は若干寂しいものの、もはや「何をしたら良いか」などと戸惑うことはない。


 やがて、〈青石のダンジョン〉へとたどりついた。

 このダンジョンを攻略したのは、ほんの数カ月前のことでしかないのに、随分と懐かしい気持ちにさせられる。


 ダンジョンへと足を踏み入れる。


「ゴギャッ、ゴギャッ!」

「ギャッ、ギャッ!」


 さっそくゴブリンの群れが現れたが、レンは流れるような動作で斬り伏せた。

 装備の差だけではない確かな膂力の違いを感じる。


――よし。


 ゴブリンを相手に不安はない。

 だが、油断することなく、静かな自信を持ってレンは〈青石のダンジョン〉を潜っていった。


 時折現れるゴブリンの群れに落ち着いて対処しながら、地下へと歩むこと数時間。

 〈青石のダンジョン〉の5層に到達した。


――いよいよ、赤い弓兵(レッドサジタリー)と再戦か。


 以前は大変に苦労した〈青石のダンジョン〉のボスである。

 前回はレベル4であった。いまはレベル5。1つしか変わっていないが、もはや以前のレンではない。


 5層を探索すると何度かゴブリンの群れと遭遇する。問題なくそれらを片付けながら、さらに奥へと進んでいく。

 そして、青い洞窟の広間に出た時、それを見つけた。


――いた。


 と、同時にレンは駆け出した。


――突貫!


 通常のゴブリンの群れに囲まれた赤いゴブリン。だが、彼らはレンの突撃に気づくのが遅れた。

 ゴブリンの血飛沫を巻き上げながら迫る冒険者の少年。

 このレッドサジタリーはまだ経験が浅かった。一瞬どのように対処するべきか戸惑う。だが、その戸惑いが命取りとなった。


 少年の剣が赤いゴブリンに襲い掛かる。

 レッドサジタリーは間に合わないと、自らの弓で防ごうとした。


――組太刀、太刀落とし。


 が、レンはその弓ごと、レッドサジタリーを斬り裂いてしまった。

 崩れ落ちる赤い弓兵。

 他の通常のゴブリンは既に倒れている。

 つまり、これで終わりであった。


 あれほど苦労したレッドサジタリーに快勝したことで、レンは自分の確かな成長を実感した。


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