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#57 主神プラウレティーネ 3

 アマテラスの登場により場は少々砕けたものとなってしまったが、白い世界での会話は続く。


 丸いテーブルと椅子。そこにプラウレティーネ、アマテラス、レン、ユリーシアの四人が囲む。

 茶番があったこともあり、レンは既にかなり緩んだ態度となっていた。一方でいきなり神々と同席させられたユリーシアは無表情で固まっていた。あるいは放心していたのかもしれない。


「こちらの世界に来てわかったと思いますが、〈アビサス〉には魔物を溢れています」

「はい」

「その魔物によって、この世界の人類が滅んでしまわないかと真剣に危惧しているのです」

「そこまで、ですか?」


 レンはプラウレティーネの言葉を少し意外に感じていた。この世界の主神たる美しい女神様は、真剣にこの世界の存続を憂いているらしい。

 レンとしても、転生してきたこの世界が厳しい世界だとは感じていた。命をかけている冒険者たちや、貧民街で厳しい生活を強いられている人々を見ている。少なくともレンが元いた世界に比べれば格段に命の危険がある世界であろう。

 だが、それが人類の存続を脅かすほどのものかと言われれば、実感としては程遠い。


「人類が滅びるというのはさすがに言い過ぎでは?」


 レンの感覚としては、プラウレティーネが魔物と戦わせようと煽っているのかな、という印象であった。

 だが、この女神様は至って真剣なようである。


「我々神々は、この世界だけではなく、異なる世界のことを見ることができます。そして、我々は実際に人類が滅び、全てが魔に覆われてしまった世界が存在することを知っています」


 実例があるらしい。

 見ることのできない異世界のことを想像するのは難しいが、人類が滅び魔物のみが跋扈するようになった世界など、なんと恐ろしいことであろう。

 そういった先例があるならば、この美しい女神様が危惧するのも頷ける。


「魔物の発生は我々神々でも容易に予測できません。ですが、我々は過去を知っています。魔物の発生には波があるのです。人々がしっかりと備えているときはそれほどでもなく。ですが、人々が油断した時に限って大量に発生するのです。そして、悲しいかな。寿命の短い人間は魔物への備えを疎かにしがちです」


 そして、アマテラスが説明を引き継ぐ。


「他の世界を司っている神たちも、およそ似たような認識ね。いくつもある異なる世界。残念なことに、その下のほうから徐々に魔に侵されていっている。そして、それを止められる手段を現在のところ我々神々は持ち合わせていない。そして、次に滅びるなら、この世界〈アビサス〉だろうと、神々は思っている。だから、多くの異世界から優秀な者たちを転生させている」


――そういう話だったのか。


 今更ながらレンは自分がこの世界に来た背景を知った。ある程度の説明は聞かされていたが、そこまで深刻な状況の世界とは思っていなかった。

 もっとも、アマテラスは言い過ぎたと思ったか、補足を付け加える。


「ただ、仮に〈アビサス〉が滅びるとしても、貴方たちが生きている間はないでしょうね。魔物はとてもゆっくりと、少しずつこの世界を浸食しているから」

「ですが、少しずつですが、着実に浸食されているのです」


 そのアマテラスの説明に、悲痛なプラウレティーネの声が被さる。

 さらに、この世界の主神は言う。


「魔物の発生の仕方には、悪意を感じます」


 レンは視界の端でアマテラスを見た。視線を動かしもしない。

 アマテラスもまた、表情を変えずに真面目な表情のままであった。


――魔物の発生の仕方が不自然。


 その原因を調べることこそがアマテラスがレンに課した裏の任務であった。

 そして、この世界の主神もまた同じ疑問を抱いているらしい。


 魔物が発生すること自体は、この世界に満ちている魔素によるもの。どちらかと言えば自然現象に近いものと解釈されている。

 だが、そこに悪意のようなものを感じてしまうという。


「人々が油断しているときに限って、それも人類の生息域に打撃を与えるように、思い出したように魔物は大量発生するのです」


――意外と厳しい世界だったのだな。


 プラウレティーネの悲痛な声に、レンは改めてそう思った。

 だが、一方で思う。


「この世界が大変な状況というのはわかったんですけど。それならこの世界にいる冒険者をみんな高レベルにすることはできないんですか? それなら魔物への対処も難しくないと思うんですど」


 すぐに思いつく疑問であった。

 が、当然それができない理由はあるようだ。


「我々神々も無制限に力を使うことはできないのです。我々の限られた力を有効に使うために編み出されたのが、このレベル・スキル制度です。神々が人々に与えられる力には限りがあります。より魔物を倒す意志と能力を持った者に力を与える。それがこの制度です」

「なるほど」


 神といっても力には限界があるらしい。

 さらにアマテラスが再度補足する。


「もともとレベル・スキル制度は〈アビサス〉じゃなくて、別の世界で導入されたものなのよね。でも効率が良いってことで、いまでは下層にある世界の殆どで導入されているわね。ちょっとした発明よね」

「制度の発明ですか?」

「そうそう、そういうのって大事なのよ。だから〈アビサス〉は魔物からの浸食に何百年という単位で耐えているわけだし」


 レンも〈アビサス〉における魔物との戦いの歴史をある程度知っている。これも図書館での成果である。

 この世界の歴史を振り返り、さらに主神からお願いされたこともあり、レンは少しだけ考え込む。自分がこの世界に対してできることは余りにも小さいと感じた。だが、それでも何か力になりたいと思った。


 そんなレンに対し、あっけらかんとしたアマテラスの声がかかる。

 気負う様子のレンを解きほぐしてくれているのか、それとも天然なのか、真面目な空気を壊しにきた。


「ま、あんまり深刻に考えなくても、レンはゲームの時と同じように魔物を倒してくれれば良いのよ? プラウレティーネは『今回レベルアップして新しくスキルを与えるけど、これからも頑張って魔物と戦ってね』ってことを伝えたかったんだと思うわ」

「うわあ、なんか雑にまとめたなあ」


 ともあれ、言っていることは間違っていない。そういった諸々を伝えるためにレンはこの精神世界に呼ばれたのだろう。

 プラウレティーネが優しくも憂いた瞳をレンに向けていた。

 アマテラスも微笑んでいる。


――それなりに期待してくれているのかな?


 レンがこの世界に転生すると決めた理由は、そのように大それた目的とは程遠かった。もっと個人的な内面的な都合で転生を決めた。元の世界に居場所がないと感じていたからである。

 そして転生後、当初はゲームと酷似した世界に転生してきたという認識であった。ゲームの頃と同じところが多く、だがしかし異なることも多々あった。

 ただ、当初からレンはこの〈アビサス〉という世界で活躍できるであろう自信はあった。自分が培ってきたものが、絶妙にこの世界に合っていたように思う。もちろんそのような人選をアマテラスはしたのだろう。


 そんなレンに向かって、この世界の主神プラウレティーネが改めて深々と頭を下げた。


「貴方の力をこの世界のためにお貸しくださるように、改めてお願いいたします」

「はい、微力ながら」


 レンもまた頭を下げる。

 これだけのお願いをされたのなら、応えないわけにはいかない。


「あれ、なんか私の相手をする時とレンは態度が違うわない?」


 そんな神妙な態度にアマテラスが横から茶々を入れてきた。


「それは、だってプラウレティーネ様には敬意を払わないといけないから。アマテラスにはどうしてだろう。なんでか敬意を払いたい気持ちになれない」

「『様』! どうして私には『様』をつけてくれないの!?」

「日頃の行いかなあ?」

「私の日頃を貴方がどれだけ知っているというのよ!?」


 どうもレンにとってアマテラスは、神という存在にも関わらず気安くなってしまう。前世のテレビ番組とかネット動画が悪い影響を及ぼしているのかもしれない。

 そんな二人が掛け合いしている様子は、プラウレティーネやユリーシアを驚かせた。


 そして、アマテラスは天真爛漫に話題を変える。


「ところで、ウチのレンはまだ低レベルにも関わらず活躍しているでしょう?」

「はい、凄いと思います。当初はレベル1で転生させてきたので、あまり期待していないのかと思っていましたけど、この世界に適応するのが随分と早かったですね。これは以前に言っていた『仮想空間』というものの成果ですか?」

「そう、今回の私の試みは大当たりだったと思うわ。これから仮想空間で転生者を選抜するのがデファクトスタンダードになるんじゃないかしら?」

「うーん、貴女の世界は最上部にあるから下の世界からは見えないんですよね。私も貴女の説明は少々理解し難いものがありましたから」

「惜しいなあ。これ大発明だと思うんだけどなあ。ただねー、他の世界で仮想空間(VR)をどう実現させるかって問題があるからねー」


 などと白い世界にてアマテラスとプラウレティーネが会話を繰り広げる。


 そんな中、一人会話に加われず傍観していた者がいた。ユリーシアである。彼女は突然連れて来られ、繰り広げられる神々と転生者の会話に圧倒されるばかりであった。


 そして、ようやくそのユリーシアのことを思い出したか、アマテラスが彼女に触れる。

 

「あと、そうそう、ユリーシアさん。貴女にはね。お礼を言いたかったの。うちのレンと仲良くしてくれてありがとう。いきなりこんなところに呼んでゴメンね」

「いえ、そんな」

「知っての通り、彼はポテンシャルは高いわ。だけど、こう、ちょっと頼りないところがあるでしょう? 良い人と巡り会ったと思って感謝しているの。だから、今後ともウチのレンをよろしくね」


 親し気にユリーシアに語りかけるアマテラス。

 ユリーシアは恐縮するしかない。


――自由か! ユリーシアさんが困ってんだろ!

――勝手に僕の保護者みたいに振る舞うんじゃない。


 レンも呆れ気味であった。

 そして、自由なアマテラスがプラウレティーネに向かって予想もしなかったことを言い出す。


「でさ。ほら、彼女にもさ。なんか良いスキルを、どどーんってあげてくれないかしら?」

「さすがにそういうわけには……」


 神様同士の軽い冗談なのかもしれないが、冗談を装ってアマテラスがぐいぐいとプラウレティーネに詰め寄る。仮に冗談だったとしても、人間にとってはとても重大で影響のある話である。

 もっとも先ほどの話で、神であっても使える力には限りがあると言っていたので、さすがに無理な要望であろう。プラウレティーネも苦笑していた。


――押しの強い営業みたいだ。


 レンも微妙な面持ちでその様子を見守っていた。


 ともあれ、神々との会談もいつまでも続けられるものではない。

 最後にプラウレティーネがレンとユリーシアにこう声をかけてくれた。


「我々神々は貴方たちのことを見守っています。この世界の平和のために活躍してくれることを望んでいます」


 その言葉を最後に、レンとユリーシアの視界が霞む。

 そして、二人は現実世界へと戻っていった。




――――――――――――――――――――




名前:レン(種族:人間、年齢:16歳)

レベル:5(クラス:剣士)

VIT:4(F+)

ATK:7(E-)

DEF:5(F+)

INT:0(F)

RES:1(F+)

AGI:6(E-)

スキル:身体強化Ⅰ、異空間収納Ⅰ、システムウィンドウ、異世界言語


名前:ユリーシア(種族:人間、年齢:20歳)

レベル:15(クラス:薬草採取士)

VIT:9(E-)

ATK:8(E-)

DEF:23(D-)

INT:15(E)

RES:13(E)

AGI:11(E)

スキル:鑑定(薬草)、魔力操作Ⅰ、錬金術(薬)Ⅰ

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