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#56 主神プラウレティーネ 2

 ユリーシアと共に礼拝堂に通されたレンは、八柱の神像を見上げた。

 この世界に来た当初こそうろ覚えだったレンだが、現在ではこの神々ことを知っている。少なくともどの神像がどの神か程度にはわかる。図書館に通った成果である。


 主神プラウレティーネ

 宣託神アデルロラン

 自然神ベネスティン

 能力神ケアシェル

 技術神ダウェルファス

 巡見神ウォイルス

 放浪神ジプアリウ


 主神と七柱の眷属たち。この世界を司る神々である。

 眷属たちにはそれぞれ役割が与えられており、例えば技術神はこの世界におけるスキルを司っている。同じく能力神はステータス値を司っている。いずれも冒険者からは信奉者の多い神である。


 神殿の礼拝堂。

 そういった神々の像にレンとユリーシアは囲まれていた。ただそれだけのことであるが、それなりに神々しい雰囲気がある。

 隣を見ればユリーシアが膝を突き、神に祈っていた。


――真似をすれば良いのだろうか?


 前世から信心深さなど欠片もなかったレンである。だが、神殿とは良くできたもので、そんなレンでも神に祈りたくなるような雰囲気を(かも)し出していた。

 片膝を突き、見様見真似で神々に祈ってみる。


――えーっと、異世界の神様こんにちは。どうかスキルをください。


 と、レンの視界が突然がぼやける。

 気づけばレンは白い世界に立っていた。




◇◇◇◇◇




 何もない。どこまでも続く白い世界。

 そこは転生する直前、いつか見た白い世界とそっくりな世界であった。

 神々のいる場所。白い精神世界である。


 と、目の前に女性の姿が現れた。とても美しい女性であった。


「異世界の勇者レン、この世界〈アビサス〉によく来てくれました」


 その女性の姿は、先ほど中央に鎮座していた神像の姿そのままであった。前世でプレイしていたゲーム〈エレメンタムアビサス〉においても頻繁に目にした女神でもある。


「プラウレティーネ様?」

「私のことを知っているようですね。私はこの世界〈アビサス〉を司る神、プラウレティーネです。魔を打ち払うため、この世界に貴方が来てくれたことを感謝します」


 とても優しそうな女性神であった。

 長くウェーブのかかった金髪が優雅に揺れていた。完璧なまでに整った造形美が、それが神という存在であることを物語っている。しかし、その美しさは決して近寄り難いようなものではなく、むしろ温かく包み込むような親しみ易さを持っていた。


 そして、そんな主神とともに、いま二人気になる姿があった。

 プラウレティーネの斜め後ろ。そこにレンの良く知る女神の姿が。白い唐絹に緋袴という古代日本風の装束に身を包んだ女性である。レンをこの世界へと転生させた女神アマテラスであった。

 さらに、その隣には先ほどレンとともに神に祈っていたはずのユリーシアの姿が。彼女のほうはとても戸惑っているようで、放心するように(たたず)んでいた。


 二人のことも気になったが、まずは主神プラウレティーネから言葉を賜る。


「レン、貴方がこの世界にきてくれたことに改めて感謝します。転生して既にいくばくかの時間が経っておりますので、この世界のことはある程度知れたでしょう。この世界〈アビサス〉には魔物が溢れており、人類が生きる領域を脅かしております。それこそこの世界に住む人類が滅ぼされてしまう可能性すらある程に。このような困難な世界に来てくださったことに感謝を。そして、今後とも貴方の力をこの世界にのために役立てていただきたいのです」


 そうプラウレティーネは深々とレンに向かって頭を下げてみせた。

 この世界の主神が、である。

 その誠実な姿勢にレンはとても感銘を受けた。


「プラウレティーネ様、言われずとも僕はこの世界のためにできることをしていくつもりです。そのために転生してきたのですから」


 レンの言葉にプラウレティーネは顔を上げ、明るい表情を見せた。


「ぜひよろしくお願いいたします」


 そこには優しくも、この世界の行く末を憂う主神の姿がそこにあった。

 元よりレンはこの世界のために戦うつもりであったが、主神からこのように改めてお願いされたならば、やる気も湧いてこようものである。


 が、そこでレンの表情が妙なものとなった。


「あの、その……。ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」


 と、不自然に話を止める。

 不思議そうにするプラウレティーネに対して不敬なこととは思ったが、どうしてもレンは放置しておくことができなかった。この世界の主神を前にしているというのに、ふざけた人物がふざけたことをしていたのである。


「そこ、おかしい!」


 びしっと指さした先にいたのは女神アマテラスであった。

 彼女は先ほどからプラウレティーネが真面目な話をしている横で、レンに向かって手を振っていたのだが、反応がないとみるや踊ってみせたり、カクカクと妙な動きを見せていたのである。

 プラウレティーネがとても真面目な話をしているというのに、わずらわしいことこの上ない。


「なんにも喋っていないわよ! 静かにしてたじゃない?」

「視界がうるさかった」

「酷い言い草! 転生以来の再会なのに感動とかないわけ!?」

「いや、その感動を茶化してきたの、お前じゃん」


 数カ月振りとなる女神と転生者の再会であったが、とんだ茶番となってしまった。

 そんな騒々しい二人を見て、主神プラウレティーネはとても驚いた様子であったが、やがて彼女も一緒に笑ってくれた。


「こんな会話をする転生者と神は初めて見ました」


 口元に手を当てて上品に笑うプラウレティーネ。

 それに対して腰に手をあてて胸を張るアマテラスであった。


「そうでしょう。そうでしょう」

「べつに褒られてはいないんじゃないかな?」


 そんなアマテラスにレンは突っ込みを入れた。


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