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#46 白い翼 3

 冒険者ギルドの三階。

 普通は上級冒険者しか入れないような高級なカフェのような場所で、レンは〈白い翼(アリス・アルビス)〉の付与術士エイムアルと向かい合っていた。

 レンの傍らには受付嬢ミルフィアが付き添っている。


「我々としても少々行き詰っているところがあってね。新進気鋭のS級クランなどと評価される向きもあるが、他のS級クランと比較されると劣っているのは間違いないんだ。少しでもヒントになることがあるなら聞きたい。そういう話だよ」


 エイムアルが淀みなくレンに告げた。

 レンの隣でミルフィア嬢が少し驚いたような顔をしていたので、S級クラン〈白い翼(アリス・アルビス)〉にも悩みがあるなどということは世間から見れば驚きなのかもしれない。


「君がどうして我々〈白い翼(アリス・アルビス)〉の一軍パーティーを見て、『火力が足りない』と思ったのか? それを聞かせてはくれないか?」


 重ねてそう問われるとレンとしても答えないわけにはいかない。


「少し失礼なことを言うかもしれませんよ?」

「構わない。少し睨んでしまった者もいたが、とりあえず今は私しかいないからね。怒ったりしないよ」


 エイムアルのその言葉に、レンは大きく息を吐いた。

 そして、ぽつりぽつりと語り始める。


「えーっと、僕が〈白い翼(アリス・アルビス)〉の皆さんを見たのは、ギルドホールに皆さんが初めて来た時のことでした。全部で七人いたと思います。うちエイムアルさんは一軍パーティーを抜けたということなので、一軍パーティーは六人ということで合っていますか?」

「合ってる」


 レンの疑問にエイムアルは即答した。


「パーティーの筆頭になるのは先頭を歩いていた白い鎧の男性でしょう。装備が一番充実しているように見えました。リーダーの方は〈白翼の守護者〉という異名があると聞きましたので、あの方がそうだったのでしょう。おそらく職業クラスは〈守護者ガーディアン〉。

 それに防御職のように見える女性の方が居ました。

 六人パーティーで盾役が二枚。順当なところだと思いますし、防御面に不安はありません」


 急に語りだしたレンにミルフィア嬢などは驚いた様子であった。それまで少し緊張していた様子から明らかに雰囲気が変わったように感じられた。

 それを興味深そうに見ていたエイムアルであったが、興味深いと感じたのは彼の雰囲気のことか、それとも話の内容であったか。


「リーダーの方と同じくらい装備が充実していると思ったのが、エルフの女性の方でした。おそらく水系統の魔法職。彼女がメインアタッカーになるでしょう。

 ただ、水魔法は攻撃、回復、補助とバランス良く柔軟に使い分けできるのが本来の持ち味です。攻撃に専念させなら本来の持ち味を消してしまいますが、他に魔法攻撃が得意そうな方がいなかったので、彼女をメインアタッカーに据えるしかないと思います」


 そんなレンの説明にエイムアルは反応しない。

 ただ、内心では正確なレンの分析に感心していた。


「一方で補助魔法については充実していると思いました。エルフの女性、それに符術士ですかね。他にもいかにも補助職の方が居ましたが、あそっか、エイムアルさんは一軍パーティーでないということでしたっけ。だけど、補助魔法を使える人が1パーティーで2人もいるなら十分だと思います」


 そして、レンは〈白い翼(アリス・アルビス)〉の問題の核心に切り込む。


「物理攻撃のメインアタッカーは双剣士の女性の方だと思います。ただ、双剣士は癖の強い職業です。手数で攻めるタイプなので、敵の防御力が低い、または数が多いような場合には滅法強い。ですが、防御力の高い敵に当たった場合には苦戦すると思います。特にボス戦ではタイプによっては非常に苦労するはずです。

 もう一人攻撃役が居たと思いますが、その方はすみません、あまり印象に残っていないのです。装備的に他の方々よりもう一段、いや二段くらい落ちるように思いましたので。

 というわけで、全体的に見て防御力が万全なのに比べて攻撃力がイマイチなのかなあと。魔攻は本来攻撃職に向いていない人が務めているし、物攻は癖が強すぎる。ちょっとバランスが悪いかなあ、というのが正直な感想でした」


 と、そこまでレンは気持ち良く語ったところで、ふと我に返った。気が付けばエイムアルとミルフィアが驚いたような顔でレンのことを凝視していた。

 慌ててレンは恐縮した態度に戻る。

 しかし、もはやエイムアルはそんなレンの態度など気にしていいなかった


「面白い意見です」


 エイムアルはそう言った。


 とても正直な感想であった。

 レンの論評は現在の〈白い翼(アリス・アルビス)〉が抱えている問題を見事に指摘していた。

 特にエイムアルが感心したのは、エルフ女性が本来攻撃職でないという指摘であった。物理攻撃については攻撃力不足がかねてより課題と感じていたが、魔法攻撃についてはエルフ女性の高い魔力で不足を感じていなかった。

 しかし、指摘されてみれば確かに攻撃魔法は彼女が本来得意としているものではない。


――彼女の能力が高いからどうにかなっていただけで、知らず知らずのうちに過剰な負担をかけていたのかもしれませんね。


 そんな新しい気づきがあった。

 そして、エイムアルはもう一歩踏み込んだ質問をレンに投げかけてみた。


「もし、我々〈白い翼(アリス・アルビス)〉が抱えているそうした問題を解決するなら、どうしたら良いと思う?」


 そんな疑問に恐縮した態度に戻っていたレンは言葉少なくなっていたが、それでもちゃんと答えはした。


「手っ取り早く解決するなら、専門の攻撃職を入れます。物攻と魔攻を兼ねそろえた職業が理想です。そうですね。魔法戦士あたりでしょうか」


 その回答にエイムアルは大きく頷いた。

 レンが装備が二段落ちると言った少年。その彼の職業がまさにその〈魔法戦士〉であった。


――我々がやっていることは間違っていなかった。


 それを確認できただけでも今日の会談は有益なものだったと思った。

 そして、エイムアルはこの面会のもう一つの目的を思い出した。そして、それは先ほどの気づきと同じくらい、いや長い目で見ればそれ以上に有益となり得る可能性を秘めている。


「君は実に面白いですね」

「あ、いえ。失礼なことばかり言ってしまって」


 ひたすら恐縮してみせるレンであったがもう遅い。


「レン君、もし良かったら、〈白い翼(アリス・アルビス)〉に入ってみないかい?」


 そう尋ねた。

 ようするに引き抜きである。


「えっ!」


 レンの隣で声を上げてしまったのはミルフィア嬢であった。せっかくストラーラの冒険者ギルドが育成している転生者を引き抜かれては溜まらない。〈白い翼(アリス・アルビス)〉は現在はストラーラで活動してくれているが、本来の拠点は別の街である。

 だが、そんなミルフィアの心配は杞憂に終わりそうでした。


「嬉しいですけど、僕が〈白い翼(アリス・アルビス)〉に入るって言ったら、あの睨んできた人って大丈夫でしょうか?」


 という疑問にエイムアルは「ああ」と声を上げた。

 迂闊なことにそれに関してエイムアルは何も考えていなかった。この会談が始まる前は、これほどこの少年に興味を惹かれるとは思っていなかったということもある。


「それは私も心配になってしまうねえ」


 それで、この話は終わってしまった。




――――――――――――――――――――




名前:エイムアル(種族:人間、年齢:28歳)

レベル:48(クラス:付与術士)

VIT:35(D+)

ATK:21(D-)

DEF:27(D)

INT:77(A)

RES:84(A+)

AGI:47(C)

スキル:付与魔法(風)Ⅲ、補助魔法(音)Ⅱ、魔力譲渡、洞察、魔力強化Ⅰ、精神強化Ⅰ


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