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#40 パーティー活動 2

「レン君のことですけど、私なんかと一緒にパーティー組んでいて良いんでしょうか?」


 内心の不安を溜め込んでおくのも良くないので、ユリーシアはレン少年がいないタイミングを見計らって冒険者ギルドで相談してみた。

 相談の相手はいつものごとく、受付嬢のミルフィアである。


「え、そんなこと心配していたの?」


 しかし、ミルフィアの回答はそのようなものであった。何を今更、とでも言いたげ口調である。

 ただ、よくよく話を聞いてみればミルフィアとしてもユリーシアの気持ちが全く理解できなくもない。

 当初ミルフィア自身もレン少年をもっと優遇しようと考え、ギルドマスターから「他の冒険者たちと同じ扱いで良い」とたしなめられた経験がある。


「あんなに将来有望な冒険者がハンバーグ一つでコキ使われているのもどうかと思って」

「そこは本人が満足しているなら、それで良いんじゃない?」

「あと、ハンバーグが一つ増えたところで結局全部食べ終わると、凄く悲しそうな顔するんですよ」


 ユリーシアのどうでも良い情報にミルフィアはくつくつと笑った。


「ハンバーグくらい追加で頼めば良いんじゃないの?」

「最近ギルドの図書室に通い始めたみたいで。お金が惜しいみたいです」

「ああ、あそこは二、三回使うだけで銀貨一枚飛んでいくからね」


 と、相談のつもりがどんどん話が脱線していく。

 ともあれ、ユリーシアとしてはスタンピードの影響による一時的なパーティーとはいえ、あのように将来有望な少年と一緒にいることに疑問を感じていた。潜在的な実力が違い過ぎて、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。

 ミルフィアとしては話を聞いてあげるだけでも良いような悩みであったが、ここは「よろず相談窓口」である。アドバイスを与えることも忘れない。


「実のところ、シアちゃんがレン君とパーティーを組んでくれたことは、ギルドとしてはとても助かっているの。彼にパーティーを組ませようとはずっとしていたんだけど、これが結構難しくてね。シアちゃんと組ませるまでレン君はパーティーを組める相手がいなかったのよ」

「え、そうだったんですか?」


 そしてミルフィアは、レンのレベルと戦っている魔物のチグハグさから一緒に組めるパーティーメンバーが見つからなかった事情を伝えた。

 実のところユリーシアと組ませたのは苦肉の策であった。

 ユリーシアとレンがパーティーを組んだ時はスタンピードの大騒ぎの最中であったので詳しくは説明できなかったが、二人にパーティーを組ませた事情を改めて伝えることにした。


「レベル差があっても生産職と戦闘職だし、転生者の事情もシアちゃんなら改めて説明する必要もないから、実のところ最良の組み合わせだったんじゃないかって思っているのよ。それともう一つ。シアちゃんを一緒にいさせているのは、レン君のためでもある」

「レン君のため? 私と一緒にいることで?」

「そうねえ。それについて説明するなら、まず転生者というものについて話さないといけないわね」


 この〈アビサス〉という世界には他の異世界から転生者と呼ばれる者が頻繁に訪れる。このエルファード王国においては、年に一人か二人程度の頻度で転生してくるという。

 彼ら転生者はさまざまな異世界からこの〈アビサス〉に転生してくる。彼らがどうして転生してくるかというと、魔物に溢れ、あまりにも過酷なこの〈アビサス〉という世界を憂いた異世界の神々が、手を差し伸べるべく有能な勇者を送り込んでくるのだという。


「そういったわけで、この世界にやってくる転生者ってのは基本的に有能だし、冒険者としての活動にとても意欲的に取り組んでくれる」


 と、ここまでの説明はユリーシアでも知っているようなことである。というより、この〈アビサス〉という世界の人々にとっては常識のような話である。

 だが、ミルフィアの話にはその先があった。


「私も今回初めて転生者の担当になったから、今までの転生者がどんな活動をしていたか、過去の記録を調べてみたわ。シアちゃんには以前にも話したと思うけど、転生者って活躍する人ばかりじゃなくてね」


 過去数十年、エルファード王国で確認されている転生者、約百人程度の記録をミルフィアが調べたところ、S級冒険者を6人も排出していた。およそ二十人に一人程度の割合でS級冒険者となったわけで、この世界の住人が転生者に期待するのも道理である。

 残る転生者のうちA級やB級冒険者として活躍している者が二十人ほど。中には貴族として取り立てられ、冒険者としての活動を辞めてしまった者もいたが、彼らも順調なほうであろう。

 そして、やはりC級、D級冒険者に甘んじて燻っている者が数十人もいた。全体としてはやはりこの比率が一番大きい。もちろんC級、D級も冒険者としては一人前なのだから決して悪いわけではないが、期待値が高過ぎるのだろう。


「でもね、一番比率が大きいのはC級、D級冒険者じゃなかったの。どういう意味かわかる?」

「C級、D級でもなければ、E級? もしくは冒険者を辞めたとか?」

「そういう人もいなくはないけどね。それよりも魔物との戦闘で亡くなっている人が凄く多いの。転生者は本当に命をかけて魔物と戦っているから、命を落とす人がとても多い」


 ミルフィアが調べた範囲では、転生者のおよそ三分の一が魔物との戦闘で亡くなっていた。

 転生者は冒険者として結果を残す者が多いが、それはそれなりのリスクを負っているからであろう。リスクを負っているからには、当然そのような結果に終わる者も一定数発生する。


「今回レン君の担当になって良くわかったわ。転生者は危ない。転生者だからって死なないわけじゃないの。でも、才能があるのも確かだから難しいところよね」


 そこまで聞いて、ユリーシアとしても同意できるところが多々あった。

 レン少年はとても才能がある。それは間違いない。

 意欲もある。それも確かである。

 それで、彼の行動に危険がないかと言えば大いにあった。それどころか一歩間違えば死ぬような真似を頻繁にする。思い返せば、出会った当初レベル1でホブ・ゴブリンに挑んだ時、結果的に勝利したから良かったものの、血まみれになっての薄氷の勝利であった。


――何となく転生者は死なないものと思っていたけど、全然そんなことなかった。

――考えてみればレン君は廉価ポーションを大量に消費していたし、怪我をしなかったわけじゃない。常にギリギリの戦いを挑んでいたんだわ。


 そこまで考えたところでユリーシアは急に背筋に冷たいものを感じてしまった。いままで転生者だからと見逃していたレン少年の無謀な行動のひとつひとつが、本当に無謀な行動だったように思えてきたのである。

 いまでこそユリーシアとパーティーを組むようになって滅多に怪我をしなくなったが、それ以前の彼はなんと無謀な挑戦を繰り返していたことか。


「というわけでね。シアちゃんがレン君と一緒にいてくれるのは、私としては安心なの。戦闘が苦手なシアちゃんと一緒ならレン君も無茶な真似はし難いようだし」

「それは、確かにそうかもしれないですけど」

「こんなことを後から伝えてごめんね」


 思い返せばレンとパーティーを組んだ時、ミルフィアは「何をするかわからないレンをユリーシアが見てくれるなら安心」のようなことを言っていた。冗談めかしていたが、意外と真剣な本音だったらしい。


「わかりました。レン君を無茶をさせたくないというのは同意です。でもやっぱり、私の薬草採取にこのままレン君を付き合わせているのは、どうかな? って思うんですけど」


 それでもまだそんなことを言うユリーシアにミルフィアは苦笑した。以前から思っていたことだが、彼女は彼女で謙虚に過ぎるところがある。

 ともあれ、まだレンに対して引け目に感じるものがあるならばと、ミルフィアはカウンター机の下から一枚の紙を取り出して見せた。


「それなら一つ提案なんだけど、こういうのを二人で受けてみない?」


 そこには「依頼票クエスト」と書かれた紙があった。




◇◇◇◇◇




「僕とユリーシアさんのパーティーで魔物退治の依頼クエストですか?」

「そう、どうかしら?」


 後日、ユリーシアがレンをともなって冒険者ギルドを訪れ、再び受付嬢ミルフィアから話を聞くこととなった。


 冒険者が稼ぐ方法は大きく分けて二種類ある。

 一つは倒した魔物の死体を解体し、有用な素材を採取し、それを売るという方法である。これは現在のレンも行っているが、低レベル帯で倒せる魔物素材の価格など高が知れている。

 もう一つが冒険者ギルドから依頼クエストの仕事を受けるという方法である。依頼票クエストごとに賞金が決められており、依頼の達成とともにその賞金を得る。賞金の拠出元は、魔物を減らしたい領主であったり、魔物の発生に困っている一般の依頼者であったりとさまざまである。

 ほかにもユリーシアのように薬草を採取して錬金術で生計を立ててるような者もいるが、レンのような戦闘職の場合は、上記の二種類が主な収入源となる。


「依頼を受けるならレベル10から、D級冒険者になってからと思ってました」

「基本的にはそうね。でも、いまはこういう状況だから」


 現在のストラーラはスタンピードの影響により、どこもかしこも人手不足となっている。その上、低レベル帯で自信のない冒険者が活動を控えていることもあって、ギルドとしては各地で急増している魔物への対処に困っているのが実情であった。


「魔物、増えているんですか?」

「増えている。特にここ一ヶ月くらいでかなり」

〈白い翼〉(アリス・アルビス)では抑えきれない?」

「いずれ抑えてくれるとは思っているんだけど。そこは何とも。まだ依頼して一ヶ月も経っていないし。彼らもまだクランメンバーをストラーラに呼び寄せている段階だから」


 そのあたりについてはレンのような者が思い悩んでも仕方ないことであろう。

 ともあれ、そのような事情によりレンやユリーシアのようなE級冒険者であっても、現状では例外的に依頼を発行できるという。


「E級依頼っていう形になるから、そんなに難易度は高くないのよ。でも、レン君は魔物を倒してレベルアップしたいでしょう?」


 そう言ってミルフィアから提示されたのは、「東の森220番の魔物駆除」という依頼であった。内容を読めば、増えすぎている魔物の間引きが仕事の内容で、魔物の魔石1に対して銅貨1枚を対価として支払うというものであった。

 それほど報酬の良い仕事ではない。100匹倒して銀貨1枚程度の収入にしかならない。そして、〈東の森220番〉というところで発生している魔物は100から200匹程度という。

 だが、最近はあまり全然魔物と戦えていなかったレンにとっては垂涎の依頼であった。ユリーシアの薬草採取の護衛だけでは一日に10匹も狩れるかどうかという程度である。レベルアップに対する意欲は常にある。


「僕としては受けたいですが」


 と、レンはユリーシアの表情を伺った。

 現在のユリーシアは錬金術によって一日に銀貨2枚を安定的に稼ぐことができる。言ってしまえば、この依頼は割に合わない。

 だが、ユリーシアの返答は意外なものであった。


「レン君が受けたいなら全然良いよ」

「良いんですか?」

「事前にミルフィアさんとも相談していたことだからね」


 そう言ってレンに笑顔を向けるユリーシアとミルフィア。どうやら二人が自分のために相談して出てきた話なのだとレンは気づいた。

 気を使わせてしまったとは思ったが、せっかくの好意である。

 それに、レベルアップするためには魔物を倒すしかなく、この依頼を受けないという手はない。


「是非お願いします」


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