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#33 兆候 2

 その後、レンとユリーシアは職員から随時発表される情報に耳を傾けたりしていたが、それも昼頃となると目新しい情報はなくなった。

 冒険者ギルドがスタンピードの兆候を発表したのは、この日の朝である。既に半日近く経っており、ホールに押しかけている冒険者たちの数も少しずつ減り始めていた。


「私たちもそろそろ帰りましょうか?」

「そうですね。ここに残っていても、できることはなさそうですし」


 ユリーシアとレンがそんな会話をしていた時である。

 中央ホールにいる冒険者たちの人垣が割れた。入口のほうからやってきた冒険者のために自然と道を開けたらしい。

 何ごとかと思ってレンとユリーシアが入口のほうを見ると、そこにはいかにも特別な装備に身を包んだ冒険者の一団がやってきた。


「〈白い翼〉! アリス・アルビスの連中だ!」

「〈白い翼(アリス・アルビス)〉ってS級クランの?」

「さっきギルド職員がスタンピードなんて起こさせないって言っていたのはこれか。〈白い翼(アリス・アルビス)〉を雇ったのか」


 そこにいたのは白い重厚な鎧に身を包んだ長身の騎士を先頭にした、いかにも手練れそうな冒険者たちの集団であった。

 先頭の騎士に続き、同じく白い鎧に大盾を持った女性騎士や、高価そうな魔法の杖を持った魔術師。美しくも強烈な存在感を放つはエルフの女性。それに双剣士や魔剣士といった者たちが総勢7人。ぞろぞろとストラーラの冒険者ギルドの中央ホールへと入り込んできた。

 そして、ホールの真ん中で立ち止まると、彼らは周囲を見渡した。


「へえ、ストラーラの冒険者ギルドは綺麗だね」

「新興の冒険者都市ですからね。このギルドの建物も新しいのでしょう。ここの領主、エベリア伯はこの街を『始まりの街』の一郭に定着させたいと考えているらしいですよ」

「ふーん、でも新興の都市だからだろうね。ここの冒険者のレベルはそんなに高くないかな」


 その集団の一人が周囲を睥睨へいげいするように見渡し、やや失礼な発言をした。

 だが、それを咎められるような冒険者はここにはいない。


「まあまあ。ストラーラはこれから伸びてくる都市でしょう。ここの冒険者が伸びてくるのもこれからですよ」

「それに余所からここに拠点を移したクランもあるってさ。〈鉄狼〉の連中はいまストラーラを拠点にしてるって」

「へえ、連中最近見ないと思っていたらそんなことになってたんだ」


 そんな彼らを遠巻きに眺めていた冒険者の中に、レンとユリーシアの姿もあった。


「有名な人たちなんですか?」

「有名よ。〈白い翼〉、アリス・アルビスっていう新興のクランで、ここ数年で一番勢いのある冒険者クランって言われているわ。クランリーダーのアクアリートって人が何年か前にS級の魔物を一人で倒したとかで有名になったの。〈白翼の守護者〉って異名があるのよ」

「ああ、あの人かな」


 彼らの中央に白い鎧と白い大楯の男性騎士の姿があった。先ほどホールに入ってきた時に先頭を切っていた人物なので、彼がリーダーで間違いはないだろう。


――あの白い鎧と盾はユニーク装備だな。

――このブルジョワジーめ。


 レンはそのクランリーダーの男の装備を見て嫉妬した。

 ゲーム時代は微課金勢だったレンは、ランキング争いにおいて常に重課金勢に遅れを取っていた。ランキング上位に入るとユニーク装備を貰えたりするのだが、レンはいつも善戦するものの遂にユニーク装備を手に入れることは叶わなかった。

 というわけでプロレタリアートたるレンとしては、そのような高価な装備に身を包んでいる人物を見ると、ふつふつと嫉妬心が芽生えてしまうのである。


 ともあれ、レンとしてもそのような幼稚な嫉妬心だけで生きているわけではない。

 その〈白い翼(アリス・アルビス)〉と呼ばれるクランの面々の装備を見て、冷静に評価を下していく。


――クランリーダーは〈白翼の守護者〉なんて異名なんだから、クラスは〈守護者〉だろう。で、隣の女性もタンク職みたいだからタンク二枚か。

――メインアタッカーはあのエルフの女性かな。でも、装備的には水魔法っぽいけど。

――それに珍しいのがいる。あれは符術士か? タンクとかバッファーがやたら充実しているのな。

――他にも双剣士とか魔術士もいるみたいだけど、装備は一段落ちるか。


 久々にゲーム時代のような一線級クランを見て、レンとしても少し興奮させられた。彼らの装備を見ているだけでも楽しい。

 だが、彼ら〈白い翼(アリス・アルビス)〉の装備にレンは若干の物足りないものを感じた。やや、バランスに欠いているように思えたのである。


「少し火力が弱いかな」


 ぼそりと呟いてしまった。

 だが、その一瞬ギルドホールの喧噪に隙間のようなものがあったのだろう。どうしたものかレンの呟きが思いのほかギルドホール内に響いてしまった。

 レンの呟きにホールにいた人々が振り返る。その声は〈白い翼(アリス・アルビス)〉の者たちにも届いたらしく、その一人がレンを酷く睨みつけた。


――あ、しまった。


 慌ててレンはユリーシアの影に隠れた。


 そんな時、〈白い翼(アリス・アルビス)〉のもとにギルド職員であるミルフィアがやってきた。


「〈白い翼(アリス・アルビス)〉の皆さんですね? お待ちしておりました。ギルドマスターのほうから今回の件について詳しくお話させていただきたいと思いますので、これからギルドマスタールームのほうにご案内致しますが、よろしいでしょうか?」


 そうして〈白い翼(アリス・アルビス)〉の面々は冒険者ギルドの奥のほうへと消えていった。

 彼らの姿が見えなくなると、ユリーシアの陰に隠れていたレンは、ほっと一息ついた。


「レン君、なにしてるのよ?」

「ごめんなさい」


 レンはユリーシアに酷く呆れられた。


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