表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/65

#18 青石のダンジョン 2

 その後、レンは数時間もの間〈青石のダンジョン〉内を探索した。

 その僅か数時間で遭遇したゴブリンは実に80匹以上。その全てをレンは一人で倒した。


――やはり、ダンジョンの効率の良さは圧倒的だ。


 ダンジョンではゴブリンと遭遇する時は一度に3、4匹まとまっいることが多い。しかも、一時間に二度、三度と遭遇する。


 また、他の冒険者と魔物の取り合いになることもない。

 一度だけ倒したゴブリンから魔石を取っているところに他の冒険者パーティーがやってきたことがあったが、彼らはレンに会釈すると直ぐにどこかに行ってしまった。

 ダンジョンまで来れる実力のある冒険者パーティーである。ストラーラ近辺にいる冒険者たちと違って余裕があるのだろう。


 そのように〈青石のダンジョ〉はレンにとって良いことが多かったが、悪いこともなくはない。


――さすがに、ダメージは避けられないか。


 ゴブリンと戦うこと数度。その間レンは二回ほど負傷した。一回はゴブリンの石斧で手首を強打され、もう一回は投石に気づかず顔面に食らってしまった。やはり群れを相手にすると多少の負傷は避けられない。


 この世界ではステータスのDEF値によってある程度身体が保護されているが、レンはレベル1の紙装甲なのですぐにダメージが通ってしまう。もっとも大怪我というほどではなく、出血はあったものの少し痛む程度のものであった。

 だが、痛みで集中力が乱れてはいけない。それに紙装甲だからこそ万全の状態を維持したい。ということで、攻撃を受けた箇所は街で買った廉価ポーションをかけて回復させた。


――この廉価ポーション、なるべく飲みたくはない。


 レンは転生直後、ホブ・ゴブリンと戦った直後これを飲んだことがある。また、このダンジョンを訪れる前にも使い勝手を調べるために、自らの身体に傷をつけ、実際にどの程度の回復量かを確認していた。

 そして、十分な回復量があることと同時に、味が酷いことも再確認していたので、浅い傷であれば傷口に直接かけるだけで済ませた。


――ともあれ、さすがに集中力が切れてきた。


 ダンジョンに数時間もいたレンであったが、常に一人で周囲を警戒しつつ、しかも戦闘も、となると消耗が激しい。なにしろゲームとは違い一度の失敗で取り返しのつかないことになってしまう。そうした環境で長時間活動するのは想像していたより堪えるものであった。


――そろそろ外に出ようか。


 そう思った矢先であった。


 がっ!


 レンは頭部を強打された!


「なっ!?」


 驚いて周囲を見たが誰もいない。

 と、足元に石ころが転がっていた。


――しまった! また投石か!


 思ったのも束の間。


「ゴギャ! ゴギャ!」

「ギャッ!」


 少し離れたところにゴブリン数匹がレンのほうを見て喜んでいた。投石が当たったことが余程嬉しかったと見える。


「痛ってぇ。だけど、やっぱりゴブリンは馬鹿だな」


 そのまま物陰に隠れて投石を続けられるほうが厄介だった。だが、ゴブリンは攻撃が当たったことに喜び、姿を現して近寄ってきた。

 間接攻撃を当てたあと直接攻撃に切り替えようというのだから、あながち間違った行動でもないのだが、レンとしてはそのほうが組みし易い。


 しかし、迎え撃とうするレンの視界が赤く曇る。

 驚いて目元に手を当てると、べっとりと血が付いていた。投石を受けた額から結構な量の血が流れていた。


――そんな、たかが投石で!?


 たかが投石。されど投石は立派な攻撃手段の一つである。

 レベル1のレンは防御力らしい防御力がない。対してゴブリンたちはATKが高いことで有名な魔物である。その結果、投石を受けたレンの額はぱっくりと割れ、結構な出血となっていた。

 幸いなことに骨にまでダメージは行っていないようで身体を動かすに支障はなかった。

 だが、赤い血がレンの焦燥感を募らせる。


――っく、視界が……。


 額から流れる血が目に入り、視界を邪魔する。

 だが、レンの事情にゴブリンが構ってくれるはずもない。


「グギャ! グギャ!」


 不愉快な声を上げゴブリンが襲ってきた。

 しかし、視界に気を取られていたレンは複数のゴブリンを一度に相手しない位置取りを忘れてしまっていた。

 慌てて退いて距離を取ろうとするレン。

 追いすがるゴブリンたち。


「うおおおぉぉぉ!」


 不利を悟ったレンが逆に突撃を敢行。ゴブリンたちの間を割っての突破を図った。

 擦れ違いざまに剣を斬りつけ一匹のゴブリンを仕留める。だが、それと同時に別のゴブリンから背中を打たれた。


「ぐあっ!!」


 息が詰まったがそのまま駆け抜け、ゴブリンたちから距離を取ることに成功。

 見ればゴブリンを一匹倒し、残るゴブリンは四匹であった。全部で五匹。この〈青石のダンジョン〉に来て最も多いゴブリンの群れであった。


――落ち着け! 落ち着け!


 額から流れる血がレンに死の恐怖を想起させる。

 一方で危機的状況による興奮もあった。

 だが、そうした諸々は判断を狂わせる元である。


「ふぅ」


 深呼吸を一つ。

 向かってくるゴブリンに対して冷静に対処しようと、軽快な足さばきで動き始めた。

 と、レンがすっ転んだ。

 洞窟の岩に足元を取られたのである。

 未だに冷静になりきれていないことを自覚する。


「くそっ!」


 慌てて受け身から跳ね起きる。

 が、既にゴブリンとの距離は目と鼻の先だ。

 剣を横に薙ぎ牽制。だが、牽制のつもりがそのまま突っ込んできたゴブリンが斬られた。

 しかし、間髪入れず次なるゴブリンが突っ込んでくる。

 剣では間に合わず蹴りを入れて距離を取る。が、自分も体勢を崩して後ろに転ぶ。

 そこに残るゴブリンが殺到してきた。


「ぐああああああぁぁぁ!!」


 もはや技術の問題ではない。

 レンは本能に任せ、やたら滅多と剣を振り回した。




◇◇◇◇◇




 時間にして一分とかかっていなかったであろう。

 結果としてレンは五匹のゴブリンの群れを倒すことに成功した。


――ひとつ歯車が噛み合わなかっただけでコレか。


 レンは酷い有様となっていた。額から流血。背中と腕に打撲。洞窟内を転げ回ったこともあり、土と血で全身が汚れていた。

 それでも生き残ったのだから良いだろう。一歩間違えば足元に転がっているゴブリンとレンの立場は逆になっていたかもしれない。


 ともあれ、反省は後である。

 ストラーラで廉価ポーションを大量購入している。全部で十本も購入したそれは、出立前の検証に五本を消費し、またこの日既に二本を消費していた。残るは三本。


――回復薬(これ)、足りるか?


 少し不安に思いつつも額と背中と腕にそれぞれ廉価ポーションを振りかける。

 それと同時に口にも含む。擦り傷も含めれば負傷は広範にわたっており、今回は飲んだほうが良いだろうと判断した。


「ぅうあああぁ……」


 予想はしていたが、大変に刺激的な味であった。不味いというよりは刺激が強過ぎるのである。


――これでまた一日くらい味覚が無くなるんだっけか?


 舌がひりひりするような感覚に()()()()()()と思ったものの、それと同時に全身から痛みが退いていくのを感じた。ポーションの効果は劇的なものであった。


――さすがファンタジーの世界。


 魔法アイテムによって回復したレンは水筒の水で目に入った血を洗い流し、なんとか常態へと復帰することができた。

 そして、今回の出来事を反省する。


――少し無理をし過ぎていたか。

――集中力が切れていたところに不意打ちを喰らった。そのうえ、ゴブリン五匹は今日出会った群れで一番多かった。

――悪い時には悪いことが重なるものだ。


 一番の原因が何かと言えば、レンは長くダンジョンに留まり過ぎたのだろう。ゴブリンを大量に倒せることに気を良くしたレンは、自分の体力に見合わない時間探索を続けてしまったのである。

 そんな些細な判断ミスの代償がこれであった。


――もう帰ろう。


 悩むまでもなくレンは撤退を決断する。

 廉価ポーションで傷を回復したとはいえ、レンの足取りは重かった。

 だが、今回のダンジョン探索で得た成果は目覚ましいもであった。倒したゴブリンは88匹。予想される経験値ポイントは実に176ポイント。草原で狩りを続けていたならば一ヶ月近く必要なポイントであった。


――ダンジョンに来ない手はない。だが、リスクは高い。


 しかし、そのリスクは承知の上である。承知の上でリスクを取って、いまその代償を支払ったのだろう。死ななかったのだから許容範囲である。


 そして、レンは再びダンジョンの前のキャンプ地で一泊し。一日をかけてストラーラの街へと帰った。街で気力を養って、再びこのダンジョンに戻って来るために。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ