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#10 剣士レン 3

 レンは早朝に宿を出ると食事を求めて街の屋台通りへと向かった。


 ある程度以上の宿であれば食事が付くのだが、この街にはレンと同じような冒険者が多いのだろう。早朝からいくつもの屋台が軒を並べ、そこに多くの冒険者が群がっていた。このような屋台を訪れる冒険者たちの懐事情など似たようなものなので、どこも非常に安価やすい。銅貨数枚で腹を満たすことができる。

 屋台で提供されるのは殆どが魔物肉を扱ったもので、それに固いパンでも付いてくれば良いほうであった。


「串焼き三本ください」

「あいよ、いつもありがとね!」


 いくつか食べているうちに贔屓の屋台というものは自然とできる。レンが目を付けたのは魔物肉の串焼きにタレをたっぷりと付けて提供してくれる屋台であった。威勢の良い中年女性が一人で切り盛りしているらしい。

 だいたい屋台であっても美味いものは高い。この屋台はレンの懐が許す範囲で、量と味を満足させてくれる屋台であった。


「僕、このタレが好きなんです」

「あら、気に入ってくれて嬉しいわ。ウチは肉の下処理もしっかりしているからね。ただ、どうしても手間かけてるから高価(たか)くなっちまう。男の人だと量が足りないって人もいるけど、坊やみたいに小柄だとちょうど良いのかもね」


 串にかぶりつくレンに、屋台の女性が笑顔で説明してくれた。


 レンが屋台をいくつか食べ歩いた感想として、この世界の食事は決して不味いということはない。むしろ美味しい店が多かった。

 どうやらこのストラーラの街では魔物肉が安価なようで、屋台の殆どはそれである。魔物肉というのは本来旨味が少なく、それでいてスジが多く、決して良い肉ではないのだが、人間というのは食に情熱をかけるものである。下茹でをして灰汁を取ったり、細かく刻んでミンチにしたりと、それぞれの屋台が工夫を凝らし美味い魔物肉を提供していた。


――ただ、バリエーションが全然ないんだよな。


 単品としては絶品とすら言える食事を提供してくれる屋台群であったが、日本という食に恵まれた世界からやってきたレンとしては不満がないわけではない。何しろどの屋台をみても魔物肉ばかりである。それも串焼きや煮物が殆どであった。


――まさか野菜を食べたいと切望する日が来るとは。


 そうした屋台においては根菜が入っていれば上等なほうで、葉物野菜など見かけることすらない。新鮮な野菜が希少なのでる。

 理由は少し考えただけでもわかる。


――街の周辺にある畑には魔物が出没するわけだから、貴重なのはわかるけどね。


 ストラーラの街の周辺には農地が広がっているが、その殆どは小麦畑のようであった。野菜などを育てているところは稀で、要するに容易に魔物に荒らされてしまうのでそういった作物の栽培が困難なのであろう。小麦畑にしても半分くらいは魔物に荒らされてしまうのを前提として育てているのだという。

 だが、新鮮な野菜や果物を食べたいという欲求は人間にはあるようで、ストラーラの街には菜園や果樹園が多く作られていた。その殆どが建物の屋上にある。


――それで建物の上に緑があるのか。


 当初、表通りの左右に並ぶ四、五階建てくらいの建物の屋上から緑が覗く様子に不思議な異世界情緒を感じていたのだが、理由を知ればそれなりに切実なものであった。いみじくも窓辺に小さな鉢が並べられている光景すら見かける。もちろん観賞用の花を育てているわけではない。

 この街は周囲に魔物が溢れているのだから、魔物肉が一番安価な食料であろう。次いで小麦や根菜といったものは他の街から輸送ができるので手に入り易いほうとなる。そして、一番高価なのが新鮮な葉物野菜や果物といったものであった。

 なので、まだ初心者冒険者であるレンは毎日の食事が魔物肉となっていた。


――美味いことは美味いんだよ。

――さすがに飽きてきたけど。


 そういった意味でも早くレベルを上げて、生活レベルも上げたいレンであった。




◇◇◇◇◇




 屋台の裏にて異世界情緒溢れる街並を眺めながら、レンは串焼きにかぶりついていた。肉汁が溢れ、タレが地面に滴るが、それを咎められるようなお上品な街ではない。レンの周囲にも似たような感じで屋台で買ったものを食べている冒険者の姿が見られた。

 そんな中、レンは串焼きを食べつつ、異世界から転生した自分の境遇を思い返していた。


――不満がないわけじゃないけど、なんとかこの世界でもやっていけそうかな。


 ここ数日、この街で生活してみたレンの感想であった。

 異世界などというところに飛び込んで、当初はおっかなびっくりなことが多かったが、なんとか生きて行ける手応えを感じていた。


――何より、楽しい。


 そして、レンはこの異世界での生活をそれなりに楽しめていた。

 前世では肩身の狭い思いをしていたが、この世界は違う。自由自在である。少し寂しい気持ちもなくはないが、それ以上に魔物を倒して稼いで生活していくということに、レンは心躍らせる日々を送っていた。


――ゲームの世界に転生した。


 正確に言えばプレイしていたゲームと酷似した世界に転生したのだが、レンはそこに左程の違いを見出していなかった。




――――――――――――――――――――




名前:レン(種族:人間、年齢:16歳)

レベル:1(クラス:剣士)

VIT:0(F)

ATK:0(F)

DEF:0(F)

INT:0(F)

RES:0(F)

AGI:0(F)

スキル:異空間収納Ⅰ、システムウィンドウ、異世界言語


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