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渡り鳥

 アーシェラと気まずい雰囲気になってから数時間後、ユーリは冒険者通りを朝とは逆方向に歩いていた。

 二人と別れて受付に戻った後、施設の見学と身体測定などで数時間が経過していた。今は昼を過ぎているようで、通りの両脇に点在する喫茶店の屋外座席でお茶を楽しむ人々が多くみられた。

 アーシェラとはあの後会話はなかった。

 別れ際にケント教諭が目配せしてきたためユーリは一応感謝の言葉を伝えたが、アーシェラは軽く手で挨拶を返すのみで振り返ることもなかった。

 冷静になったユーリはその態度に一抹の寂しさを感じたが、魔法学校に通っていれば関係を修復する機会はいくらでもあるだろうと、気持ちを切り替えた。

 (俺の態度も良くなかったしな・・・)

 まずは、受付で渡された推薦状をもって今朝の店に行き、女将に雇用の交渉をする。

 従業員を募集している店舗については、同時に手渡された紙にかなりの数が記載されており、その中にアーシェラの言っていた『渡り鳥』という酒場もあった。

 記憶を頼りに店を探す。確かこの冒険者通りと港への道、街の外郭を囲う通りの重なる十字路を西に曲がった辺りとなる筈だった。

 (大体この辺だけど、アーシェラ様の言ってた『渡り鳥』のすぐ近くって感じなのかな)

 地図と従業員募集のチラシを見る。『渡り鳥』付近の店舗で、酒場やレストランは存在しない。記憶と少しずれているのか。

 「でも、やっぱりこのパターンは・・・」

 喫茶店と土産屋、酒屋といった店舗を抜けた先に一つの看板が立っていた。朝、あの店内で見たものと同じ形の二つ折りの看板。

 「やっぱりそうだよなあ・・・」

 異世界転生の物語で予習した展開通り、その看板には羽ばたく一羽の鳥と『渡り鳥』の文字が描かれていた。


 「あ・・・いらっしゃいませ」

 ユーリが店の中に足を踏み入れると、店員の女性が反応した。今朝見た、赤かかった茶髪のスタイルのいい女性だった。朝とは違い給仕服を着ている。

 店内に客は2名しかおらず、空いたテーブルには空の食器が置かれたままになっていた。奥に女将の後ろ姿が見える。

 「あれ、貴女は今朝の・・・」

 どうやら顔を覚えられたいたようだ。

 「女将さーん!」

 給仕の女性が声を張る。今は客が少ないため声が通るが、混んでいる場合はこの距離だと届かないだろう。あまり、声を出すことが得意ではないタイプにも見える。

 ユーリ自身は学生時代に居酒屋でバイトをしたことがあり、大きな声を出すことは割と得意だった。 

 「フラン、どうしたんだい?まだ、ランチは出せるよ」

 言いながら振り向くと、一瞬驚いた顔を見せたがすぐに歯を出して笑った。

 「あはは!アンタ、確かにいつでも来るようにいったけど、さすがに早すぎないかい。観光する時間もあったろうに!」

 「あはは・・・」

 観光をするという発想はなかった。確かにこれだけ広い街だ、見るところはいくらでもあるだろう。

 しかし、それよりも先に交渉をしなければならない。従業員募集をしている事はあったが、具体的に必要なスキルや待遇は変化するため現地で確認するようにとの事だった。

 特に、住み込みできる部屋の提供があるか、あるとしたらどのような人物が何人利用しているかといった情報は必ず目視で確認するように、と何度も繰り返された。「わかっていると思いますが、貴女は女性なんですから」と念押しもされた。

 この『渡り鳥』の女将は信用できると、ユーリは確信していたが。

 「えーっと、従業員募集を見たんですけど、ここで働かせていただく事って、可能でしょうか?」

 あまり緊張せず、ユーリは魔法学校から提示された推薦状を取り出した。

 直後、食事中の客二人が何事かと振り返る。理由は、木造の壁を揺らす程に響く大きな女将の笑い声に驚いたためだった。

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