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チェストとバスト

 アーシェラの持論が展開された後、ユーリたちは休憩時間を過ごしていた。

 穏やかな午後の日差しが窓から差し込むためか、午前中は寒かった室内が今では温かく感じられる。

 「おいしい紅茶ですね」

 くつろぎながらフランがアーシェラの淹れた紅茶を褒める。

 「そうだろう?王国の方から、茶葉を取り寄せているんだ」

 苦みのある紅茶は香りこそよいが、ユーリには美味しいのかどうかはよくわからなかった。慣れれば美味しく感じるのだろうか。今まで甘ったるいペットボトルの紅茶しか飲んだことがない。

 それでも、付け合わせに出された香ばしいクッキーと紅茶苦みの相性はなかなかのものだった。

 「そうだ。アーシェラ様、明日もマカレルサンドをお持ちしますね」

 「え?そんなに毎日マカレルサンドは食べたくないかな。それに、気持ちはありがたいけど、ユーリの時間を奪ってしまっているのも心苦しいからね」

 意外な回答だった。ユーリは毎日牛丼でも問題なかった。たまにハンバーガーやラーメンを挟んでいたが。

 「それなら、冬野菜のサンドイッチはどうでしょうか?どちらにしても、わたしもユーリちゃんもお弁当を作るので、アーシェラ様の分を作る事で手間は増えませんから」

 フランの提案にユーリもいい案だと思った。こちらの方こそアーシェラの時間を奪っているのだから、何かしらお礼はしたい。

 「いいのかい?実はボクも、学食のメニューに飽きてきたなと思ってたところなんだよ。100年食べ続けてるとね」

 アーシェラの冗談のような物言いに、三人とも声を出して笑った。



 休憩も終わり、実技のため体育館に移動していた。初日に利用したものよりも少し小さい。何故かぬいぐるみや可愛い小物が置かれていた。聞くと、女子生徒の気分を向上させるための実験という話だった。

 (別に男でもぬいぐるみを可愛いと思うから、実験としてはイマイチな気がするけど)

 今日は身体を動かすためにブレザーから体操服に着替えている。元の世界の体操服にも似ており、下半身は少し短めのハーフパンツだった。

 古の密着型ブルマーではなかったことに心底安心した。ちなみに、20世紀初頭のブルマーは膝辺りまで丈があったらしい事を、ユーリは何故か知識として覚えていた。露出としては今履いているものの方が高いため、原初のブルマーの方がよかったかも知れないと思う。

 「うん。ユーリもフランも小さな傷の回復は問題ないね。フランはもう少し修練を積めば大きな傷も癒せそうだ。光の魔法が得意な感じがするね」

 ユーリの方は特化したタイプではないようで、覚えるのは早いが強い力を発揮するには時間がかかりそうだった。

 「でもすごいよユーリちゃん、こんなにすぐに傷を癒やせるようになるなんて。わたしなんて何か月もかかったんだから」

 「うん、ユーリは確かに覚えが早いね。制御力が高いからだと思う。でも、フランは外で学んだんだろう?この場所で練習していれば、一週間以内には使えるようになってたと思うよ」

 「あ、ありがとうございます」

 ユーリとフランは目を合わせてから、アーシェラに礼を言った。

 「じゃあ、フランはそのまま回復魔法のイメージを膨らませて貰うとして、ユーリは剣と属性魔法についてやっていこうか」

 「え、魔法だけじゃなくて、もう剣を使うんですか?」

 てっきり、まずは魔法の習得だけに集中するものだと考えていた。

 「うん。キミはまずは護身用の技術を身に着けたいって言ってただろ?確かに素手だけでもいいけど、相手を攻撃するイメージは武器を持っていた方が掴みやすいからね。実際に何かあったときに使うのは、剣じゃなくて棒切れとかでもいいんだ。キミの細腕で屈強な男性にダメージを与えるイメージはつかないだろ?」

 「た、確かに」

 正直、思った以上にユーリの身体に腕力が無い事はここ数日で身に染みていた。『こんなに重いもの持てな~い』を自身が体験した今、女性の荷物を持つという行為が下心からだけのものではない事をユーリは理解した。男としてのレベルアップを感じたが、今のユーリは女性のものだった。

 「まずは水から・・・っと、こんな感じかな」

 アーシェラの左手の指先、右手に持つ細剣の先から水の刃が噴き出す。目で促され、ユーリは見様見真似で指先に意識を集中させた。

 「すごい短い・・・」

 指先から伸びる水の刃は爪の先の長さ程もなかった。これでは引っ掻くくらいしかできない。

 「うん。やっぱりユーリは制御力が高いね。ボクでも最初は半日くらいかかったよ。3歳の頃、悔しくて泣いたものさ」

 褒めているのか自慢なのかわからない事をアーシェラが言ってきたが、素直に褒められた事にしておく。

 続けて雷の修練に入ったが、そちらも威力は無いがすぐに行使することができた。まずは雷の出力を上げる事が良いと考えたが、その時点でユーリの魔力がほとんど尽きてしまったようで、その後は剣と体術の修練にシフトしたのだった。

 


 「あつい・・・」

 防護カバーが付けられた実剣を振り回すのは、非常にハードだった。途中から木剣に持ち替えたが、ユーリは全身汗まみれとなっていた。今度は体力が尽きた。

 「がんばったからね。じゃあ、今日はそろそろ終わりにしようか。少し身体を落ち着かせる間に、身体強化について少し教えておくね。これは早いうちに知っていた方がいいから」

 「えっと、身体強化の基本はケント先生に教えてもらいました」

 「おや、そうなのかい。少し応用になるけど、肉体の防御についても履修済みかな?」

 先日聞いたのは、身体強化による筋力のフォローや移動速度の補助だけだ。

 「いえ、それはまだです。フランは?」

 「わたしは村で少し。怪我の防止にもなるからって」

 フランは村出身だったようだ。少し野暮ったさがあるその風貌に納得した。この街に上京して垢ぬけていってしまうのだろうか。とユーリは心配した。

 「そっか。じゃあユーリ、まずはボクの腕、二の腕、胸の順に触ってくれないかい?」

 胸、バスト、おっぱい。何故。

 唐突なアーシェラの発言にユーリは狼狽えた。アーシェラは不思議そうな表情をみせる。

 「あ、アーシェラ様。ユーリちゃんは少し恥ずかしがり屋なので、アーシェラ様の胸を直接触ったりするのが恥ずかしいんじゃないかなと・・・。だよね、ユーリちゃん」

 ユーリは頷く。

 「んー、そうかい?別に気にする事じゃないんだけど。じゃあ、この棒でいいから突いてみて」

 (棒で突くのもなかなか変態的じゃないか?)

 しかし、これも授業の一環とアーシェラに触れていく。腕、二の腕。

 「あ、硬い・・・でも、腕の方が二の腕よりも硬い感じがします」

 「だろう?」

 この流れなら胸に触れる必要もない気がしたが、腰に手を当てて胸をこちらに突き出すアーシェラに気圧され、ユーリはアーシェラの決して小さくはない胸を棒で触った。

 「え、うそ・・・凄い硬い?」

 感覚としては、金属などよりプラスチックなどの合成樹脂を固めたものに近い。二の腕よりも硬く、想像していた感覚と全く違っていた。

 「うんうん、いい反応だね。これは、今日話をした身体への意識に関係しているんだ。ボクは毎日朝晩お風呂に入っていてね。その際に身体の状態をじっくり確認している。その際、胸の成長を毎日観察しているのさ」

 100年間、毎日。並々ならぬ意識ではあるが、アーシェラは100年間肉体が変化していないのではなかっただろうか。

 (そうか。成長が止まってしまった事を、悩んでいるのかも知れない)

 何故かアーシェラはフランの方を見つめながら言っていたが、ユーリはその理由はよくわからなかった。フランの方がお姉さんっぽいからだろうか。

 「それじゃ、ユーリの番だね。できるかい?」

 「はい。やってみます」

 「触るね」

 腕、二の腕と意識を集中させると、アーシェラが軽く触れてきた。

 「うん。やっぱりユーリはどんな魔法も筋がいいね」

 続けて、胸に意識を集中する。

 「触っても、大丈夫かな?

 「はい。大丈夫です」

 少し恥ずかしい感じはしたが、女性に触られる分にはそれほど気にならない。

 「・・・ユーリ、ちゃんとやってるかい?」

 「え?」

 集中は解かず、意識をアーシェラの触っている場所に移動させた。アーシェラの指先がユーリの胸に沈み込んでいる。

 「あれ?」

 「うーん・・・。ユーリ、キミは自分の身体をちゃんと意識できてないね。成長した身体を意識するのは、確かに恥ずかしいかも知れないけど、恥ずかしい事じゃあないよ。ボクはキミをとても魅力的だと思うから。まずは、自身を持とう」

 「う、うん。ユーリちゃんは、とっても可愛い女の子だよ」

 (そうか!男の俺が意識できるのはチェストであって、バストじゃあない!)

 女の子として褒められた事が恥ずかしく、自分が男であったことを強く意識してユーリは自我を保った。

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