アーシェラ・メルテ・ワイヤード
「つかれたあ！」
初めての労働だからと3人に一番風呂を進められたユーリは、女将の温めた湯船で一日の疲れをほぐしていた。
なんとなくまだ慣れないため、裸を見ないように目を閉じている。
特に手入れをしていない美しい金髪の長髪は、その重さで湯船に沈み身体に纏わりついていた。
なお身体を洗うときは、自分は女の子であると言い聞かせて冷静さを保った。
「今日は色んな事があったもんね」
男の時と話し言葉が変わっていることにユーリは気づいていなかった。
異世界転生、美少女化、異世界の街並みの見学、魔法学校への入学、酒場での労働、そして、アーシェラ・メルテ・ワイヤードとの出会い。
「・・・アーシェラ様」
イマイチしっくりこない。最初に呼び捨てにした事が刷り込みになっているのだろうか。
どちらにしても、今日の経験のなかでユーリの頭の中はアーシェラの事が最も印象付けられていた。女将のテーティス達の方が密接な感じもするが、彼女の存在は衝撃が大きすぎた。
しかしそれは異常な程複数の属性を持っているから、という訳ではなく。
「なんか喧嘩みたいになったのがやだ。折角仲良くなれると思ったのに・・・」
今朝のように一緒に魔法について話をしたり、食事をするのもいいだろう。酒を飲むかどうかはわからないが、この国では17歳から飲酒可能という事なので、一緒に飲めば仲も縮まるかも知れない。
（でも、女の子同士ってどうやって遊んだりするんだ？お茶？）
綾瀬悠里の記憶を振り返ったが、良い案は出てこなかった。そもそも、上級貴族を遊びに誘っていいものなのだろうか。
それに、100歳の女性が自分のような若造と仲良くしてくれるものだろうか。
ここ数年、ユーリは新しい友人を作ったことはなかった。最後に仲良くなったのは誰で、いつかイマイチ覚えていないほどだった。他人に興味がなかったのだろう。自分でも冷たいと思う。
いや、学生の頃は少ないがそれなりに友人が居た。女子とは距離があったが、会話ができない程ではなかった。
「まずは、会う機会をつくらないとね」
考えようとしたが、これ以上長風呂をすると湯が冷めてしまう。早いところ交代したほうがいい。温めなおすのは疲れるからやらないという話だったし。
湯船から出る前に再度、彼女の名前を口にしてみる。
「・・・アーシェラ様」
やはりしっくりこなかった。
「う～・・・」
ユーリは唸った。誰かが聞いている訳では無いが、意を決して声を発する。
「・・・アーシェラ。・・・のバカ」
何故か無茶苦茶に恥ずかしかった。自分の中でしっくりきたからか余計に。
目を開けて窓の外を見上げると、闇の中に大きな月が浮かんでいた。
