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倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです  作者: 桐山じゃろ
第二章

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39 セカンドライフ

 夜明けとともに起きたフェリチに、夜中の出来事を一通り話しておいた。


「わかりました。それで、あの、えっと、どうしたら……」


 困惑するフェリチの視線の先には、どこに隠していたのか、冒険者の装備をしっかり着込んで一緒に朝食を摂っているレンファの姿がある。


「ディールに何かあったら止めるのが俺の役目で、俺は腕を上げ続けなけりゃならん。ということは、ディールに着いていくのが一番近いだろう?」


 とは、レンファの言だ。


「そう……なんですかね。でも、レンファさんは、その……」

 レンファは、不可抗力とはいえ何人も手にかけている。

 レンファに会いに来て行方不明になっている人たちのことを尋ねられたら、いくら誤魔化しても怪しまれることは間違いない。

「人相と名前を変えれば問題ないだろう。まあ、人相は今のところ、これくらいしか出来んが」

 レンファは頭に被り物をし、左眼に眼帯を着けている。

 確かにぱっと見、レンファには見えない。

「名前はどうするんだ?」

「うーん……ドルフとでも呼んでくれ。曽祖父の名前だ」

「わかった、ドルフ」

「ドルフさん、改めてよろしくお願いします」

「おう、よろしくな」

 正直、こんな辺鄙な場所にひとりレンファ……じゃなくて、ドルフを置いていくのは不安だったので、目に届くところに居てくれたほうが気が楽だ。

 僕はドルフを受け入れることにした。


「じゃあ一旦、ドルフを家に連れ帰ってくる」

「は?」

「はい。行ってらっしゃいませ」

「どういうことだ?」

 転移魔道具を使い、僕とドルフはウィリディスの家の前へ到着した。

「な、なんだこりゃ!?」

「転移魔道具だよ。僕ともう一人くらいしか運べないからな。家の誰かに事情説明したら僕はフェリチと馬で一旦セスリスへ寄ってくる」

「最近は便利なもんがあるんだな……ああ、わかった」

 ドルフが転移魔道具について何か勘違いをしている様子だったが、一旦置いといた。


 家に入ってすぐにちょうどルルムさんがいて、「彼はここに一緒に住むことになった、ドルフだ。詳しい事情は後で」と話しておいたので、あとはルルムさんがよしなに取り計らってくれるだろう。

 僕はドルフをルルムさんに任せて、フェリチの元へ転移魔道具で飛んだ。


「おかえりなさいませ」

 フェリチは帰り支度万全状態で待ってくれていた。

「ただいま。準備は……済んでるのか、助かるよ。じゃあ、行こうか」


 セスリスの冒険者ギルドでは、レンファは言われた小屋におらず、周辺を探しても見つからなかったと伝えておいた。

 死んだことにしたら遺体を探しにくるかもしれないから、行方不明としておいたほうがいいだろうと、予め決めておいたのだ。

「なんと……一体どこに行ってしまったのやら……」

 ギルド長はすんなりと信じてくれた。

「では、こちらで探しておきましょう」

 まさかの提案に、僕は咄嗟に言い訳を考えた。

「ええっと……誰にも会いたくないから姿を隠したのではないかと。気持ちは少しわかります」

 嘘に嘘を重ねるって結構しんどい。

 隣でフェリチが、ぎゅっと両眼を瞑りながらこくこくと頷く。

 もしかしてフェリチは嘘を吐くとき、両眼を閉じる癖があるかな。

「なるほど、尤もですね。ですがまあ、もし見つかったり……これはありえないかも知れませんが、レンファ本人から会いたいとこちらに連絡があれば、お伝えします」

「お願いします」


 冒険者ギルドでの話を終えて家に戻ると、ドルフが出迎えてくれた。こざっぱりした服に着替えていたが、妙に疲れた顔をしている。

「おかえり、ディール。まさかこんな豪邸に住んでいるとはな」

「ただいま。何かあった?」

「ああ、あのルルムという侍女がな……」

 ドルフが着ていた冒険者装束は「洗ってない臭いがします!」とその場で剥ぎ取られてドルフ本人は下着姿で風呂にぶち込まれ、徹底的に磨かれたのだそうだ。

「やるなぁルルムさん」

「吃驚したが、さっぱりもした。部屋まであてがわれたが、良かったのか?」

「余ってたから丁度いいよ。リオさんとセレには会った?」

「まだだ」

「ふたりとも……部屋にいるな。リオさんから挨拶に行こうか」


 リオさんの部屋を訪れてドルフを簡単に紹介すると、リオさんは何故か眉間にシワを寄せて僕に迫った。

「彼は幾つだ?」

「聞いてないです。ドルフ、年齢聞いていい?」

「四十三だ」

「俺は三十九歳だ。どうしてドルフは呼び捨てて、俺は未だに敬称付きなんだ?」

「それは……リオさんが僕の上司だったから、癖で。ドルフは元同業者だから呼び捨てでいいかなって……」

「俺はもうディールの上司ではないぞ。むしろ居候だ。俺のことも敬称無しで呼んでくれ。ルルムも『ディール様は謙虚が過ぎます』とこぼしていたぞ」

 ルルムさんまで……。

「わかった、リオ。これでいい?」

「ああ。……すまんなドルフ。これから宜しく」

「よくわからんが、よろしく頼む」

 ドルフとリオはがっちりと握手した。


 次にセレのところに連れて行くと、セレは僕とドルフを一瞥して、僕に「耳をかせ」という仕草をした。

「訳ありー?」

 ひと目見ただけで、どこまで分かったんだろう。

「詳しくは後でゆっくり話すよ」

「んー、わかったー。よろしくねー、ドルフさん」

「どうしてここにセレブロム女史がいるのか知らんが……よろしく頼む」

 ドルフとセレはゆるりと握手した。

「ところでドルフさん、眼帯面倒じゃないー? 肌布つくろっかー?」

「あっ」

「その手がありましたね」

「?」

 セレの突然の提案に、手を打つ僕とフェリチ。ドルフは肌布の意味が分からず困惑している。

 セレはそんなドルフの手を引いて、自室の隅の、いつの間にか築かれていた小さな研究施設へと連れて行った。

「なにをす……んんん?」

「はいー、肌調べ完了ー。明日の朝には出来るよー」

 連れ込まれたときとは逆に雑に追い出されたドルフは、不思議そうにしながら自分の顔をさすっている。

「俺は何をされたんだ?」

「非接触型検査魔道具でお肌のつくりを調べられたのでしょうね。あとはセレさんに任せておけばいいですよ」

「は、はぁ……俺、結構長いこと冒険者やって色々見てきたと思ってたが……ここは刺激的な場所だな」

 ドルフは長嘆息した。




「そうか、スルカスでそんなことがあってここに。セレブロム女史の事情も把握した」

「セレでいいよぉー。こっちもドルフでいいー?」

「構わない。では遠慮なく、セレと呼ばせてもらう」

「はーい」

 夕食を摂りながらこちらの事情や状況をドルフに話した。

 今日の献立はドルフの好物にしたかったのだが、ドルフが「食に拘る余裕はなかったから、好物や食べられないものは特にない」と答えたため、様々な料理が所狭しと並んでいる。

 ドルフは鳥肉のクリーム煮が気に入った様子で、大皿ごと引き寄せて食べていた。

「酒はいける口か?」

「嗜む程度だな」

「よし」

 リオ、今宵はドルフの部屋で酒盛りするつもりだ。僕も参加させてもらおう。

「皆、それぞれに仕事をしているのだな。俺はどうするか……」

 リオと同じくらいの量を平らげたドルフは、匙を置いて腕を組んだ。

「急いで決めなくてもいいよ」

 僕が言うと、ドルフ以外の皆が頷いた。

「なにかしてないと落ち着かない性分でな。これだけの家だ、掃除するだけでも大変だろう? 仕事が決まるまでの間、せめて手伝わせてくれ」

 ドルフはルルムを見ながら言った。この家の家事を一手に引き受けてくれる人だと正しく認識している。

「そう仰るのでしたら、お願いします」

 というわけで、翌日からドルフは一時的に清掃人となった。


「ドルフー、これ着けてみてー」

 セレは宣言通りドルフ専用の肌布を作り上げて、ドルフに着けさせた。

 ドルフの詳しい事情はそれとなく話してあり、全員から「わかった」という返事を得ている。

「不思議な……布だな? こうか? おお……」

 ドルフの肌布は僕の眼だけを覆うのと違って、顔全体を覆い、顔の印象を変化させるものだった。

 これならドルフがレンファだとは見破れないだろう。

 ドルフ本人も、セレが持ってきた手鏡をいろいろな角度で見ながら、唸った。

「むぅ……少々男前は下がったが、これは良いものだな。ありがとう、セレ」

「どういたしましてー。まだ一枚しかないからー、大事に使ってねー」


 ドルフはこれでも、七匹のドラゴン討伐者だ。そこらの冒険者や破落戸では敵わないほどの実力がある。

 ドルフの実力が役に立ったのは、数日後だった。


 ウィリディス城で文官の仕事をしていた僕の通信機に、家から連絡があった。

「できるだけすぐ戻れませんか? フェリチさんのご両親を名乗る方が現れまして……」

 ルルムさんの声が深刻そうだったので、僕は上役に早退すると告げて、急いで家に戻った。


 戻った頃には、フェリチのご両親なる人達はもうおらず、フェリチがドルフにお礼を言い倒していた。




 フェリチの生い立ちは、これまでの日々で少しずつ聞いていた。

 簡単にまとめると、フェリチはパルヴァ伯爵家の長女として生まれ、魔力を持っているなら聖女になれと家を追い出されるように教会に入った。

 しかし何故か魔滅魔法だけが使えず、教会で下働きのようなことをさせられていたところへ僕のペアをやれという打診があり、教会も追い出されるような形で僕と組んだのである。


 魔力持ちの女性は教会に入った時点で聖女となり、貴族籍から外される。

 聖女を出した家は教会から「手切れ金」と呼ばれる大金を得て、聖女との縁を切る。


 そんなフェリチの元へのこのこやってきた自称両親は、フェリチに金の無心をしにきたのだ。


 パルヴァ伯爵家はごく普通の貴族だったが、フェリチの手切れ金に味をしめて子作りに励んだ結果、フェリチには弟が五人いる。ついでに兄も二人いる。

 七人の令息それぞれに金がかかる上、妊娠するたびに「次は女児が生まれる」と勘違いして散財した結果、パルヴァ家は現在取り潰し目前まで追い込まれているのだとか。


「縁は切れているはずです。お帰りください」

 フェリチはきっぱりと金の無心を断り、ついでに「ドラゴン討伐にはついていっただけで、自分は報酬をもらうに値しない。だから渡せる金など持っていない」と伝えた。

 すると自称両親たちは「これだけの家なら金目のものがあるだろう」と、家の中へ押し入ろうとした。

 フェリチは冒険者の中では非力だが、ただの貴族相手に力負けするようなことはない。

 しかし、相手は自称とはいえ両親で、人間だ。フェリチは攻撃魔法の使用に躊躇している隙に、突き飛ばされてしまった。


 これに憤ったのが居合わせたルルムとドルフで。

 ルルムは速攻で警備兵に連絡を入れ、ドルフは侵入しかけていた不審者二人を持っていた箒で制圧し、その場に釘付けにしてくれた。

 そうこうしているうちに警備兵がやってきて二人を連行、突き飛ばされたフェリチは軽傷で済み、セレの作った回復薬で怪我の痕も残らなかった、という話だ。


「ドルフ、ルルム、セレ、ありがとう」

 僕も三人に頭を下げた。

「礼ならフェリチからたっぷり貰ったよ」

 これはドルフだ。

「私は薬を提供しただけよー」

 セレは謙遜している。

「フェリチ様も良くも悪くも名が広まってきましたからね。ドルフ様がいてくれなかったらと思うと、肝が冷えます。何か対策を考えましょう」

「今日は吃驚したから遅れを取りましたが、次は自分で自分の身を守りますから」

 憤慨しているルルムを、フェリチがなだめている。

 そこへ、リオが帰宅した。

「ディールが早退したと聞いたが、何があったんだ?」




「ふむ。ところで『自称両親』とはどういうことだ? フェリチの両親とは別人なのか?」

 リオの問いは僕も疑問に思っていたところだ。

「私が教会へ送られたのが五歳の時ですから、お恥ずかしながら両親の顔を朧げにしか覚えていないのです。おふたりとも、髪も瞳の色も私と共通点がなかったので、確信が持てなくて」

 フェリチが銀に近い青い髪と眼を震わせて困惑している。

 自称両親は二人そろって茶髪に榛色の瞳だったそうだ。

「そもそもスルカスからここまで来るのにも金がかかる。そこまでしてフェリチの両親を騙る意味がわからない。本当に不審者だった可能性が大きいな」

 今後もフェリチが狙われるとなると、僕かリオが仕事を辞めて常に家に……いや、それよりも。

「ドルフ」

「何だ?」

「清掃人じゃなくて、護衛をやってくれないか」

「ははは、言われなくてもやってやるさ。今後、来客はまず俺が対応する。どうだ?」

「頼む」

「任せとけ」

 たのもしい護衛が誕生した。

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