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倒した魔物が消えるのは、僕だけのスキルらしいです  作者: 桐山じゃろ
第二章

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34 消えた国王

 アニスさんと第一王子には一旦休んでもらいたかったが、聞きたいことがたくさんある。

 せめて、ルルムさんが用意してくれた温かい飲み物を皆で飲んでから、お二人に事情を聞いた。

 まずは、あの貴族たちの異様な暴れっぷりに関してだ。


「騒がしいとは思っていたが、まさかそんなことになっていたのか……」

「私、城へ連れてこられてすぐに牢に入れられたから、貴族たちのことはよく知らなくて」

 お二人共、あの騒ぎのだいぶ前から地下牢にいて、貴族が互いに傷つけ合っていたことは把握していなかった。

「じゃあ確認は僕達でするとして……。他に要救助者の心当たりはありますか?」

 アニスさんは「わからない」と首を傾げ、第一王子は「思い当たらぬ」と首を横に振った。

「他になにか、気になることは」

 僕の再度の問いかけに、第一王子が重苦しそうに口を開いた。


「父の……陛下の安否がわからぬのだ」


 スルカス国王は既に亡くなっていると聞いている。

 しかし、第一王子は「死体を確認していない」だそうだ。


「無事ではいないと、覚悟はできている。貴族たちの異常事態を解明、解決するのが先だとは重々承知だが、できれば、父についても調べてもらえないだろうか」


 僕が「はい、出来る限り」と応えると、第一王子は頭を下げた。




 再び、フェリチとスルカス王城へ飛んだ。

「ディールさん、体調に問題はないですか?」

 フェリチが心配そうに僕を見上げている。

「どうしたの急に」

「ドラゴンの魔力を使っているとはいえ、転移魔法は高等魔法です。ご負担にならないかと」

「平気。ドラゴンの魔力は僕の力とはまた別にあるみたいな感じなんだ」

 極端な例え方をすると、僕の鞄の中に魔力の塊が入っていて、そこから転移魔法につかう魔力を引き出している、という感覚なのだ。

「無理はなさらないでくださいね」

「大丈夫だよ」

 笑っている場合ではないが、なんとか笑顔を作ってみせた。

 するとフェリチが顔を真っ赤にしてしまった。

「フェリチ?」

「ななななんですかっ。でぃっ、ディールさんが問題ないならいいんですっ! 行きましょう!」

 フェリチは杖を両手で握りしめながら、急に走り出した。

「待って、危ないよ」

「あっ、ふぁっ、はいっ」

 ぴたりと止まったフェリチの真横を、炎が横切った。

「フェリチっ!」

 座り込んでしまったフェリチに駆け寄った。

 ざっと見たところでは、炎に当たった跡はない。

「す、すみません。あの、常に防護魔法を掛けてありますから……」

「でも吃驚したよ。気をつけていこう」

「はい」


 僕とフェリチは隠形魔法で身を隠しながら、暴れまわっている貴族の攻撃に当たらないよう、通路の端を進んでいる。

 貴族たちは相変わらず、手当たり次第に攻撃を繰り出している。

 いつから始めたのか詳しくはわからないが、貴族たちの顔色を見るに、数日はこの状態なのだろう。

「皆さん、もう魔力が残っていないのに魔法を撃っていますね」

 魔力がないのに魔法を撃つということは、命を削っているということだ。

「一番まともそうなのは……わからないな。適当に動きを止めるか」

 通路の突き当りで雷の魔法を撃ちまくっている貴族の背後に周り、首を極めて落とした。

 こいつにも隠形魔法をかけてもらい、城の外へ担ぎ出した。


「ん……うう……?」

 貴族を叩き起こすと、貴族はうめき声を上げながら覚醒した。

「気分はどうですか? 吐き気や頭痛などは?」

 話しかけているのはフェリチだ。

 尋問は僕がやると主張したのだが、フェリチが「ディールさんは貴族がお嫌いじゃないですか」と尤もなことを言われてしまい、フェリチに任せることにした。

「あ? ああ、吐き気も頭痛もない。ここはどこだ? 君は誰だ?」

「ここはスルカス城の外で、私は通りすがりの者です。貴方は先程までご自分がどこにいて、何をされていたか覚えていますか?」

 フェリチが誰に対しても敬語なのは知っている。でも、見知らぬ貴族相手にまでそこまで丁寧にしなくても……などという考えが過り、僕が尋問しなくてよかったと改めて思った。

 僕なら初手から喧嘩腰で接していただろう。

「ええと確か、貴族制の廃止を止めようとする貴族を止めるためにスルカス城へ入って……むぅ、そこからの記憶が曖昧だな。王が倒れたあたりは覚えているのだが……」

「では、国王陛下が亡くなられたというのは、本当なのですか」

「誰かの剣が胴を貫いていたから、ご無事ではないだろう」

「そうですか。ご自身がお城の中で、魔力切れにもかかわらず魔法を放っていたことは?」

「ああ、この倦怠感は魔力切れか。魔力がなくなる前に魔法を使うことなんて止めるはずだ。私は一体何をしていたのだ」

「他の貴族の方やお城の方に攻撃を続けていました」

「何だと!?」

 貴族が勢いよく立ち上がったので、僕は念の為、フェリチと貴族の間に入った。

「ディールさん、大丈夫ですよ」

「ディール!? 君が黒眼の英雄ディールなのか!?」

「あっ」

 フェリチが青ざめたが、時すでに遅し。でも、どうせいつか気づかれることだ。

 フェリチに眼で「気にしないで」と伝えた。

「そうです、僕はそのディールです。貴方がた貴族が僕の大切な人を人質にして僕をおびき寄せようとしている、と耳にしたので、ここへ来ました。人質は先程解放して、安全な場所へ移しました。この件に関して何か……」

 僕が言い終わらないうちに、貴族は今度はがばっと座り込み、地面に手と額を擦り付けた。

「すまない! 私ひとりが謝って済む問題ではないが、まずは謝らせてくれ!」

 僕とフェリチは顔を見合わせた。




 この貴族は、ファーヴォ・フルマ伯爵。

「今更言い訳にしか聞こえないだろうが……」

 そう前置きしてから、フルマ伯爵は弁解を始めた。


 スルカス国王が「王政と貴族制の廃止」をした時、貴族は真っ二つに分かれた。

 賛成派と反対派は、意外なことに半々だったらしい。

「元々、ドラゴン討伐を果たした英雄を国外に追い出すなど論外。英雄殿が民に寄付した報酬に集ったのは反対派の連中だけだ。爵位を渡そうとしたのも、君の気持ちを全く考えない一部の貴族の提案だった。……止められなかった私も同罪と言われてしまえばそれまでだが」

 フルマ伯爵の話が本当だとしても、本人の言う通り、僕を追い出す原因となった貴族たちを止められなかった。

 だから、やっぱり貴族は嫌いだ。

「僕のことは今はいいです。それよりも、城の状況をどうするか、です。騎士団や兵団はどこに? 町の人たちは?」

「騎士団と兵団は、貴族の鎮圧をしているはずだ。町の人たちとは、どういうことだ?」

「貴族の相手に騎士や兵士は見当たりませんでした。町は今、廃墟になっていますよ。誰もいません」

「何だって!?」

 反応を見るに、本当に想定外な様子だ。

「これは……どこから手を付けたらいいか……。ディール殿、無理を承知で頼みたいのだが」

「城内の鎮圧ですね。フェリチ、魔力まだ残ってる?」

「十分あります」

「睡眠魔法を頼む。ただし、限界まで魔力を使わず、余力を十分残した状態までで。残りは僕がなんとかしてみる」

 フルマ伯爵にやったように一人一人極めて落とすのは不可能かもしれないが、相手は瀕死と言って差し支えないほど弱っている。手加減して殴れば気絶で済むだろう。

「わかりました」

「では行ってきます」

「すまない、頼んだ。私は使用人たちと連絡がとれないかやってみよう」

 通信魔道具の連絡先を交換して、伯爵と一旦別れた。


 フェリチと二人で、三度城内へ入る。

 貴族たちは死にかけになりながらも、まだ戦っていた。

「本当に何が起きてるんだろう……。フェリチ」

「はい!」

 フェリチが杖を両手で捧げて魔法を放つと、貴族たちが次々にばたばたと倒れていった。

 予想以上に広範囲に届いたようだ。

「フェリチ、ちゃんと余力残してる?」

「はい。皆さん弱ってらっしゃるので、効きが良いのです」

「なるほど。……よし、あとはなんとかなるかな」

 今度は僕が動く番だ。


 軽く床を蹴るだけで、驚くほど素早く動けた。

 嫌な予感がしたから、当初殴ると決めた強さの10分の1の力で貴族を殴ったら、壁まで吹っ飛んでしまった。

「フェリチごめん! 治癒魔法!」

「はいっ!」

 やりすぎた相手には治癒魔法を使ってもらい、次は20分の1の力で殴る。貴族は転がって気絶するだけで済んだ。

 あとは、同じくらいかもっと弱い力で次々に貴族を殴り倒して……一時間も経たないうちに、城中から僕とフェリチ以外の足音が消えた。

「なんとかなったか……」

 走り回って攻撃を避けながら一人ひとり殴り倒して回るのは、骨が折れた。

 体力はまだまだあるが、緊張が解けた途端にどっと疲れが出た。

 そこへ、フェリチの治癒魔法が降りかかる。

「お疲れさまでした、ディールさん」

「ありがとう、フェリチ。誰か一人、弱そうな人……あの人でいいや。治癒魔法で起こしてみてくれる? フルマ伯爵みたいに正気に戻ってくれたら良いんだけど」

「やってみます」


 フェリチが弱そうな人に治癒魔法をかけると、その人はフルマ伯爵と同じように、うめき声を上げながら目を覚ました。

「……おや、私は一体……」

「気分はどうですか?」

「ああ、うん、頭がぼんやりしている……気分は、そう悪くない」

 どうやら正気の様子だ。

 ただ、フルマ伯爵と同じような問答をしてみたところ、この人も最近の記憶を無くしていた。

 そして、僕がディールだと知ると、これまたフルマ伯爵と同じような反応をした。


 そうこうしているうちに他にも何人か目を覚まし、僕に気づき、城内と城外両方の現状把握に走ってくれた。


 しかし数名は、僕と知るや憎々しげな視線を寄越してきた。


「おい黒眼、妙な真似はするなよ。こちらには……」

 アニスさんを攫った記憶を持った人がいた。

「聖女アニスなら保護済みだ。脅しは効かない」

 僕が睨みつけると、そいつは顔を真っ青にして押し黙り、推定「廃止賛成派」の人たちに囲まれて小さくなった。

「申し訳ない、英雄ディール殿」

 フルマ伯爵と同じように謝罪してくる人もいた。

「僕のことはもういいです。誰か、こうなる前の記憶がある人や、ありそうな人を知りませんか」

 僕が尋ねると皆、首を横に振った。

「何が起きたかさっぱりわからないな……」

「フルマ伯爵の方はどうなったのでしょうか」

「聞いてみようか」

 城の騒ぎは静まり、賛成派の人たちが反対派の人たちをより分けて縛り上げてくれたので、僕達は原因追及と町の人の行方探しに注力することにした。



「こちらは済みました。そちらはどうなりましたか?」

「使用人たちと連絡が取れました。なんでも、町の中で『ドラゴンだ!』という声がしたので、皆、町の外へ逃げたとか」

「ドラゴン!?」

 慌てて臭いと気配を探したが、そんなものはどこにもない。

「町が瓦礫だらけになっていたのは?」

「それは私達貴族たちがやったようです。ドラゴンの目撃が先で、私達が暴れ出したのはその後です」

「貴族たちは、ドラゴンを見た覚えは?」

「少なくとも私はありません」

 町の人たちの行方とドラゴンは間接的につながっているが、貴族の暴走とはまた別なのか?


 通話を終えて後ろを見ると、僕が通話を終えるのを待つように、数人の貴族が跪いていた。

「何か?」

 僕が声を掛けると、一人が頭を下げたまま喋りだした。

「英雄ディール殿、こんなことをお願いするのは筋違いであると重々承知なのですが……」

「御託はいいので手短にお願いします」

 あとはスルカス国王の詳細な安否だけ確認して帰りたい。

 僕はこの国と完全に縁を切ったつもりでいる。

 事後処理は、この国の人たちがすることだ。

 そういう意味で突き放すように告げたのだが……彼らは僕の想像とは違うことを頼んできた。


「スルカス国王陛下の行方が知れません。大怪我を負っているのは確実なのです。どうか、陛下を探していただきたく」


「何故それを僕に?」

「地下牢に不当に監禁されていた聖女アニスとともに、第一王子も消えております。これは、ディール殿が保護したのだと推察しました。であれば、第一王子からも同様の命令……いえ、頼み(・・)を聞いておられるのでは、と」

 流石貴族なだけあって、的確に察していた。

「僕は一度はこの国を追い出され、自らの意思で国を出ました。故に、この国とは関わりたくありません」

 一応、前置きしておいた。

「第一王子に頼まれたのは事実です。だから、僕の意思で陛下を探します。貴方がたの依頼は受け付けません」

 関わりたくない、と言った時の貴族たちは下を向いてしまっていたが、僕が自らの意思で陛下を探すと言ったときには、苦々しいほど明るい表情になった。

「協力は惜しみませんので、入り用のものがあれば何でもお申し付けください」

 一番欲しいのは陛下の情報だというのに、誰も持っていなかった。

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