第四二話 クァワウィーの過去 その一九 第四課長は左野零子
そう言えば、この小説の略称、決めていたのですがどこにも記載していませんでしたね。
そのままですが「おれの右半身だけ異世界に召喚された件」略して「おれみぎ」です。
今後とも「おれみぎ」をよろしくお願いいたします。
あらすじに記載するのが一番なのでしょうが、一応ネトコンに応募しているので、念の為あらすじはいじらないでおきます。ワンチャンあるかもしれないので……。希望は捨てない。
「左倉課長! 本社と連絡が付きました。社長は流石に来られないとのことですが、左野第四課長が全速力でこちらへ向かい出したようです」
一人の戦闘社員が、操縦室から飛び出し、走りながら那深嬉に伝えてくる。
「そうですか、わたくしがこの機体を守っていなければならない今、零子さんが来て下さるのはとても心強いですね」
那深嬉は左野課長の名前を聞き、一気に希望が出て来た。
左野課長のことを、非常に信頼しているのだろう。
「ええ。左野課長は、戦闘社員四天王第一位ですからね。あの左々木――。左々木課長を遥かに超える実力を有しておられます。彼女が到着し次第、全て解決することでしょう!」
戦闘社員たちからの信頼も厚い。
「戦闘のことは零子さんにお任せするとして、とりあえず、わたくしたちにできることをしましょう。このヒダリトスペシャル号ですが、一旦本社に戻しませんか? お義母様や左々木の治療にも、本社に戻った方がより設備も整っていますし、燃料の方も心配です。ずっと上空で停止していますから」
那深嬉は、このままここに居続けてもできることはないと考えた。
自分よりも戦闘力の高い左々木の負け様を見て、ヒダリトスペシャル号を待機させていても、できることなど何もないと思ったのだ。
「右郎様方のことを考えると、一旦戻った方が良いと言うのもその通りです。しかし、本社へ状況の報告などする必要はあり、やはり戻らない方が良いかと思います」
戦闘社員の意見は、那深嬉とは違った。
「なるほど……ですが、右郎様たちをこのままにしておくのは危険です。わたくしが飛んで、本社へ連れて行こうかと思います」
那深嬉は課長と言うことにはなっているが、一四歳であるため、やはり経験が浅く、こうして戦闘社員からの意見も素直に聞いた上で、自身の意見を言う。
「左倉課長。それでは戦える四天王がこの機内から居なくなってしまいますが……」
「大丈夫です。戦える四天王が一人ここに居る必要があると思っていましたが、考えてみれば敵はマンキシ一人。零子さんがマンキシの相手を始めたと解れば、それ以上このヒダリトスペシャル号へ危害が及ぶことはない筈です。それで危害が及ぶようなら、もうどうしようもありません……」
その様な状況になってしまえば、那深嬉が居たとしても為す術がない。
冗談交じりに、那深嬉は苦笑いをする。
「そうなると、右郎様方を本社までお連れする必要はなくなってしまいませんか?」
「いえ、この緊迫した環境から、遠ざけてあげたいのですよ……」
ヒダリトスペシャル号に居続けるのが危険と言うよりも、先ほどの左々木の、グロテスクな状態を、これ以上子供たちに見せたくなかったのだ。
既に医療室へ運ばれたため、これ以上グロテスクな姿を見ることは無いが、医療社員たちが慌ただしく動いていたり、他の戦闘社員たちも緊迫した雰囲気を放っている。
そんな環境に、幼い右郎とクァワウィー、キャワウィーを居させたくないのだ。
「何にしても、もう、間もなく零子さんは到着しますよ」
「え? 流石につい先ほど出発したばかり――」
那深嬉が真面目な表情で冗談を言ったかと思った戦闘社員だったが、目を疑った。
いつの間にか、左々木が飛び込んで破壊した壁から、長い黒髪をした三十代前半と思われる、那深嬉と同じ特殊筋肉補助スーツを装備した女性が、音もなく機内に乗り込んできており、那深嬉の左隣に立っていたのだ。
「――なっ!」
この戦闘社員は、左々木の部下である。これまで戦闘社員四天王第二位である左々木の戦いを見て来たが、それでも驚きを隠せなかった。
「左野零子と申します」
彼女こそが、戦闘社員四天王第一位にして戦闘第四課長の左野零子である。
「第一位とは、これほどなのですか……!」
存在を感じさせず、移動するなど、あのヘラヘラしている左々木には到底できないだろう。それもあって、零子の実力を誇張したように感じられた。
「零子さん!」
嬉しそうに微笑みながら那深嬉が零子に抱き着く。
「那深嬉ちゃん。ここまで良く頑張りましたね」
零子も優しく微笑み、那深嬉の頭を撫でる。
「え、へへ」
「あー! 那深嬉お姉ちゃん子供みたーい!」
「おかお、ゆるんであほーになってるよー」
「こらキャワウィー!」
これまで真剣な表情をしていた那深嬉が顔を緩ませ、甘え出したのだ。
右郎は、ついついからかってしまい、キャワウィーに至っては暴言を吐いてしまっている。
恐らく、先ほどまでは意味があって暴言を吐いていたキャワウィーだったが、今回に関してはただ暴言を吐きたかっただけである。
これはマズいと思ったクァワウィーはキャワウィーの口を手で押さえた。
「那深嬉ちゃんがお姉ちゃんかぁ……」
クァワウィーたちにとって、那深嬉はお姉ちゃん的存在なのは当たり前のことだったが、零子にとっては感慨深いことの様。
「むぅ……わたくしだって一四歳なんだから……」
那深嬉が頬を膨らませる。
零子とはまるで姉妹の様に見える。
「そうですね。社長の息子さんたちのことを、那深嬉。頼みますよ?」
那深嬉のことを姉の様に慕っている風な、右郎たちをチラリと見て、零子は撫で続けていた手を那深嬉の頭から放し、真剣な表情で一言頼んだ。
「うん。言われなくても、右郎様も、クァワウィーさんとキャワウィーさんのことも、わたくしに任せて」
自信満々に胸に手を当てながら言う。
「成長しましたね、那深嬉。灸徒たちのことは、わたくしに全て任せて」
那深嬉に背を向けて、左々木が突っ込んで来た穴へ向かって歩き出す。
あと一歩で外と言う地点で立ち止まり、特殊筋肉補助スーツの力を使い、宙に浮く。
浮く際に、騒音などは無く、しかし静かに床に風圧を発生させている。
『終わらせてきますよ。フィールド家の恥、マンキシと言う愚弟に、地獄を見せてやりましょう』
ニヤリと歯が見える様に笑い、目を見開きながら興奮気味な声でそう叫ぶ。
「ふっはっ! では、行って参ります!」
戦闘狂を思わせるような、少々怖い声を上げながら、超スピードで零子は飛んで行った。
「全く……零子さん相変わらず戦いになると人が変わるんだから……」
那深嬉はいつものことのように、額に手を当てながら呆れ果てる。
既に零子は視界で捉えられないところまで飛んで行っている。
「なっ! なんなんですか……あの人……これまで仕事上、第四課と関わることがなかったのですが、あんなに変と言いますか、とんでもない方だったのですか? 左野課長とは……」
左々木の部下の戦闘社員は、驚きのあまり混乱してしまっている。
「那深嬉お姉ちゃん……さっきのオバサン……こわい……」
「あれは、あほー。まちがいない!」
「うん……あのよくわかんないテンション……あほーだと、わたしも思った……こわかったよ……」
右郎とクァワウィーは完全に零子のことを怖がってしまい、しかしキャワウィーは暴言を吐くなど、逞しかった。




