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第四〇話 龍脈異常編 その四 佐藤逆瑠の正体

「な、那深嬉ネェちゃん……なんで、キャワウィーちゃんの名前が、そこで……どういう、ことだよ――」


 那深嬉は、逆瑠の遺体の前で、キャワウィーさんと言った。

 これが何を意味するのか、右郎は解らないフリをしたかったが、つい「キャワウィーちゃんの名前が」と口にしてしまった。

 右郎の声は、右半身も左半身も関係ない。どちらからも発せてしまう。


 クァワウィーに、聞こえてしまった……。


「右郎くん……キャワウィーの名前って……どういうこと?」


 クァワウィーは、那深嬉と当時の話をしようとキャワウィーの名前が出たのかと思ったが、右郎の動揺ぶりを見るに、そういうわけでもなさそうだと分かる。


「……クァワウィー…………」


 とは言え、右郎自身確証がなく、那深嬉に聞いてみるしかない。


「――那深嬉ネェちゃん……」


 声を震わせながら質問する。


「右郎様。そうですね。覚えていらっしゃらないのも無理ありません。ヒダリト社であなたには隠していましたから」


 那深嬉はそう言いながら罪悪感があるといった表情をする。


「隠してた?」


 ヒダリト社が隠していた。それは詰まり、社長であり父親である右蔵が息子である右郎に隠していたことに他ならない。


 父親に対しての不信感が膨らんでいく。


「何か理由があるんだろうけど、納得がいかない。説明してくれるか?」


 怒り混ざりの声で那深嬉に言ってしまう。


「右郎くん。わたしが居るからね」


 右郎の目を真っすぐ見ながらクァワウィーが右郎の右手を握る。


 何故、右郎が怒り混ざりの声を出したのか。クァワウィーには分からない。分からないが、那深嬉との会話で何かがあったのだろうと言うことは想像がついた。


 右半身としか接触できないクァワウィーにできることは、安心させてあげること。


 左半身で何かがあろうとも、右半身は安心させてあげようと、クァワウィーは考えた。


「クァワウィー、ありがとう。それで、那深嬉ネェちゃん……」


 クァワウィーの言葉で、右郎は冷静に戻ることができた。


「右郎様。ハッキリと、断言致します。キャワウィー・オージョ・ザ・フトゥーノ・ライトウィステリアさんと、佐藤逆瑠さんは、同一人物です。逆瑠さんは、クァワウィーさんの妹さんだったのですよ」


 静かに、ゆっくりと話す。


「那深嬉ネェちゃん……」


 那深嬉はゆっくりと話していたが、右郎は心配だった。

 ネェちゃんが焦っているように見えたのだ。


「理由があるんだろ? 不満だが、怒らないよ」


「右郎様……ありがとうございます――」


 右郎の声によって、那深嬉は耐えられず泣き崩れてしまう。


 那深嬉にとっても、キャワウィーは大切な友人だった。

 ()()()()()()()()()()()()()が、思い出深い出来事も、たくさん。あった。


「キャワウィーさん……」


 那深嬉は悔やむ。もっと早く来れていたらば、救えていたかもしれない。

 自分の、ヒダリトの技術は人を救う為にある。


「これでは……なんの為の力なのか……」


 ひたすらに、悔しむ。


「那深嬉ネェちゃん……」


 右郎は、見ていることしかできなかった。


 戦えない自分が何かを言っても、逆に悔しさを増大させてしまうと思ったのだ。


「那深嬉ちゃんに、何があったの?……」


 クァワウィーが心配そうにする。


「クァワウィーには、言っておいた方が、良さそうだな……」


 妹は行方不明どころか、右郎の傍に居た。

 そして、既に亡くなってしまっている。


 このことを、クァワウィーに伝えなくてはならないだろう。

 だが、そのまま伝えるのは残酷すぎる。

 いや、誤魔化すことこそが駄目なのだが、そういうことではなく、覚悟が足りないだろう。


 右郎は那深嬉の悔しむ姿を見て、覚悟が決まっている。しかしクァワウィーは地球の状況が見えないため、そのような覚悟など持てている訳がない。


「……モンヴァーンを呼んでくれるか?」


 とりあえず、モンヴァーンと相談するのが良いだろうと右郎は思った。


 一人で判断するのも辛く、残酷な事実を伝えたことによるクァワウィーの精神的ダメージも、右郎だけでなくモンヴァーンも居た方が良いだろうという考えだ。


「……モンヴァーン? 分かりました……」


 クァワウィーは何故モンヴァーンが必要なのか疑問に思ったが、真剣に頼まれた以上、良く解らないけど、とりあえず呼んだ方がいいかな? と思い、部屋を出て行った。


「……何気に、右半身一人きりは初めてかな……いや、半人きりと言った方が正しいのかな?」


 そう、右郎は異世界に召喚されてから、殆どクァワウィーが傍に居た。居なかったのは、モンヴァーンに担がれている最中と、この来客用寝室へ到着し、クァワウィーが来るまでの間だけだろう。


 ――異世界で、直ぐに幼馴染と再会できていたってことか。


 ()()()()()()()()()()()()()とは言え、途轍もない縁だと言えよう。



「どうも~。お久しぶりですねぇ、右郎様」


 クァワウィーのことを考えていると、左耳から耳に付く声が聞こえて来た。


 左々木である。


 いつの間にか気絶した零をお姫様抱っこしたまま救急車内へ乗り込んできていた。

 左々木は那深嬉と同様に、ヒダリトエンジンを搭載したスーツを着用している。

 スーツの見た目だが、さながら近未来を彷彿とさせる鎧の様だ。


「那深嬉さ~ん。なぁに泣いてるんですか?」


 無神経に聞いて来る。


「左々木てめぇ! 帰れ!」


 右郎は我慢ならず、暴言を吐いてしまう。


「ミ、ミギロウ……」


 何と言うタイミングか、クァワウィーがモンヴァーンを連れてくるのと同時だった。


 モンヴァーンが入室したタイミングが、丁度「帰れ!」と右郎が発した瞬間であった。


 モンヴァーンは自分が何か気に障ったのかと落ち込む。

 屈強な男だが、意外に繊細であった。


「モンヴァーン、違うと思いますよ。右郎くん、左側の世界で、帰っていただきたい存在が居たんだよね?」


 クァワウィーは大体の事を察してくれる。


「そうなんだ。左々木のヤツが現れやがって、ネェちゃんに酷いこと言いやがったんだ。許せねぇよ」

「ええっ! それは帰れ! だよね! 許せないよ……那深嬉ちゃん大丈夫かな……」


 二人揃って左々木を悪者扱いする。


「右郎様ぁ。左々木のヤツだなんて、酷いじゃないですかぁ?」


 左々木が零をお姫様抱っこをした状態のままで、右郎に顔を近付ける。


「コイツ、昔より一層キモ……ウザく、なってる気がするな……」

「おおおやぁ? キモっとか言い掛けましたかねぇ?」


 思わず悪口を言ってしまう右郎だったが、それに対して左々木は妙に楽しそうであった。


 ――気持ち悪いヤツだな……お姫様抱っこされてる零くんが哀れで仕方がない。


「右郎様。大丈夫ですよ。左々木はおちゃらけてるだけと言いますか、根は良い人なのですよ」


 突然、那深嬉が左々木の肩を持ち始める。


「嘘だろ……」


 右郎はショックだった。


「左々木、ネェちゃんに何しやがった!」

「何もしてませんってー」


 本気で怒る右郎に対して、左々木はへらへらとしている。


「そんなことより、ライトウィステリアのクァワウィーさんに説明してあげなきゃいけないのではないですか?」


 左々木はクァワウィーのことを認知していた。

 そしてキャワウィーが逆瑠であった事実を伝えなければならないことについても知っていた。


「お前に言われるのは尺だな……いや、待て、お前の口からクァワウィーの名を出すんじゃねえよ!」


 それは流石に理不尽である。


「なになに? わたしのこと知られてるの?」


 クァワウィーにとっては、見えない世界の住人が自分の名を口にしたらしいと言うことで、不思議な気分だった。


「まあいい。とりあえず本題だ。クァワウィー、覚悟して聞いてほしい」

「告白?」


 ワザとらしく聞く。

 クァワウィーは告白という訳ではないとは思っていたが、何となく、言いたかったのだ。


「恋愛のじゃないからな」

「ちょっと期待したんだけど……」

「だったらモンヴァーン呼んでないから」


 そう、モンヴァーンにまず相談する必要があった。


「モンヴァーン。先に伝えとく」

「なんだ?」


 右郎は歩けないため、モンヴァーンが右郎に近寄る。


「よく聞いてくれ」

「ああ」


「実は、地球で殺された逆瑠と言う子の本当の名前は、キャワウィー。クァワウィーの実の妹だった」


 小さめの声で、囁くように伝える。


「……な……すると、キャワウィー様は、な、亡くなられた……そういう。こと……だな?」


 多少動揺するも、モンヴァーンは戦場にて仲間の死を数多く経験済みであるが故に、受け入れることができた。


「……そういうことだから、クァワウィーにはどう伝えるべきか、迷ってて……」

「なるほど……これは、悩みものだな……」


 モンヴァーンも悩む。


 騎士団長だからこそ、悩む。

 仕える王女を傷付けたくないのだ。


「右郎くん。モンヴァーン。わたしは、大丈夫。覚悟は、できています」


 クァワウィーの目は真剣であった。

 知りたいのだ。自分が知るべきことを――。


 そして、右郎とモンヴァーンを困らせてしまい、申し訳ないと言う気持ちも強くあった。


「……分かった。伝える。クァワウィー、悪いが、恐らく大丈夫ではない。クァワウィーは、耐えられないと思う。それでも、必ず伝えないといけないことだ」

「耐えられなくても、右郎くんが居るでしょ?」

「信頼してくれてるんだな……」


 しかし右郎は複雑であった。

 信頼してくれているのは素直に嬉しいが、それでも辛い思いをさせてしまうだろうから……。


「伝えるよ」


 そう言って、右郎はクァワウィーに伝えた。


 実は逆瑠はキャワウィーでした。と言うことを――。








「……これは、なる……な、なる……なるほど……これは、だいじょうぶじゃ……ない……みぎろうくんが、あんなに、言う。わけ……だね……」


 大粒の涙がぽろぽろと流れる。


「もう、キャワウィーに、逢えないってことだよ……ね……?」


 膝から崩れ落ちる。


「クァワウィー王女殿下……」


 モンヴァーンは、見ていることしかできない。

 何と、声を掛けたら良いのか、思いつかない。

 いや、思いついたとしても、それはモンヴァーンの役目ではない。


 ――いわなきゃ……よかった。


 それは、右郎の役目である。


 ――こんなに、こんなに、なるクァワウィーの姿……くっ!


 どうしようもない現実に、右郎は怒りを覚える。


「世界、救ってやる。異世界()地球()も、両方――」


 左右に居る仲間たち、そして、キャワウィーへ向けて、宣言した。



連続投稿はここまでです。

とりあえず、ネット小説大賞にどこまで通用するのか試します。

一次選考だけでも通過するのか、まだそこに至れるほどのレベルではないのか。


時間は掛かっても、いずれ夢は叶えたいところです。


投稿してから気が付いたことですが、三人称視点は難易度が高いと感じました。人にもよりけりかとは思いますが、以前、実話をもとに書いた短編があるのですが、その時は無意識に一人称にしていました。実話だからすらすら書けたのだと思っていたのですが、恐らくそれもありますが、一人称というのが大きかったように思います。

今作も、もしかすると一人称の方が合っていたかもしれません。

特に、『右郎の過去』なんかは心の声だらけなので、一人称がピッタリだったなぁと、今にして思いますね。

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