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第三〇話 クァワウィーの過去 その一〇 左々木、やらかす

「取り合えず、クァワウィーさまたちが泣き止んで下さって良かったです」


 目に見える問題は解決したが、根本的な問題は解決しておらず、オンヌァイトは真面目な顔をする。


「那深嬉ちゃん。右子さんと、マンキシって言う私の仲間が戦っている筈なんだけど――」


 那深嬉はヒダリトの人間だと自己紹介しており、オンヌァイトはそれなら右子のことも知っているのだろうと考え、質問した。


「勿論。そのことに関しては把握しております。詳しい状況までは分かっていないのですが、右子様が危険な目に遭っているとして、社長が私と左々木と言う男を送り込みました。左々木は……実力は折り紙付きなので心配要りません」


 左々木の名前を言う時に少し嫌な顔をしながら、那深嬉は歩いてテントの外へ出る。

 数秒遅れてオンヌァイトも着いて行った。


「これは……」


 外へ出ると、微かに衝撃波の様なものを感じた。


「戦闘の余波ですね。この程度ならちょっと力強い風と言う感じです」


 那深嬉は大して心配していない様子だ。


「那深嬉ちゃん……これ本当に大丈夫なの?」


 那深嬉とは対にオンヌァイトは少し心配気味だ。


「大丈夫ですよ、オンヌちゃん。待ちましょう」


 微笑しながら言って、那深嬉はテントへ戻って行った。




「……マンキシ――」


 しかしオンヌァイトはやはりマンキシのことが心配で、テントには戻らずその場に立ち尽くす。






「オンヌちゃん?」


 那深嬉が戻ってこないオンヌァイトのことが気になり戻ってくる。


「那深嬉ちゃん。どんな戦い方してるのか想像もつかないから、やっぱり心配で……」


 戻ってきてくれたことにオンヌァイトは少し喜ぶ。



 だが喜んだ直後――。










 突然空が強く光り、オンヌァイトと那深嬉。そしてテント内に居るクァワウィーたちの視界が真っ白に染まる。


「何! この光は――」

「さ、左々木さん! 何やって――」


 突然の光に二人は瞬時に反応した。


「……」


 大して子供たちは驚いて口が開かなかった。


 そして、光に遅れて轟音と体に軽い痛みが走る程の衝撃波が届く。


 全員耳を塞ぎ、転倒しないように全身を使って踏ん張る。


「マンキシィイイイイイイ!」


 そんな中、オンヌァイトはマンキシが心配で叫ぶ。


「くっ! 右郎様!」


 オンヌァイトは叫ぶだけだったが、那深嬉は自分の体など二の次と言う勢いで、走ってテントへ戻る。


「う……うわぁああ!」

「きゃぁああああ! ねーねー!」


 テント内では、耳を塞ぎながら辛そうにしている右郎とキャワウィーの姿があった。


 同じく辛そうにしている辛そうにしているクァワウィーは、右郎とキャワウィーを抱きしめていた。


「右郎くん。キャワウィー。大丈夫だよ……」


 クァワウィーは一番年上だからと言うのと、今度は自分が右郎を助けたいという思いから、涙目で強がっていた。


「右郎様を守って下さり、ありがとうございます」


 強がっていたクァワウィーに那深嬉が声を掛け、後ろから抱きしめる。

 轟音でかなり声が聞き取りにくいため、結構大きな声でハッキリと言った。


「う、ううう」


 クァワウィーは那深嬉のことをほぼ知らない。

 それでも、何となく信頼できると思い、瞬時に安堵し泣き出す。


「大丈夫ですよー。この音は数秒で収まりますからね」


 実際、この轟音がしてから一〇秒程度で、あと五秒程で収まるところなのだが、クァワウィーたちには驚きと恐怖から、体感時間が数倍に跳ね上がって感じている。






「収まった様です」


 那深嬉は轟音が収まったことを確認すると、クァワウィーたちに伝えた。


「……あ、ありがと…………なみき、おねぇちゃん」


 クァワウィーは那深嬉に感謝し礼を言う。

 那深嬉の名前はオンヌァイトとの会話から覚えていた様である。


「そんな、感謝される様なことでもありませんよ。今の光と音はわたくしの仲間がやらかしたものですから、寧ろ申し訳ないのですよ」


「ん?」


 那深嬉は罪悪感を感じ謝るが、六歳のクァワウィーには良く分からなかった。


「……那、深嬉ちゃん」


 声を震わせながらオンヌァイトもテントへ戻ってくる。


「那深嬉ちゃん。クァワウィーさまとキャワウィーさまを頼んだよ!――」


 戻って来るや否や、そう言って再びテントを飛び出す。


「え? オンヌちゃん――」


 オンヌァイトの予想外の行動に那深嬉は驚き、オンヌァイトを追う。


「まさか戦いに参戦するつもりなのですか?」

「そうだよ。那深嬉ちゃんの仲間がどんな人か知らないけど、マンキシが危ない――」


 全力で光が発生した方角へ向けて走り出す。


 マンキシの剣の腕は凄いが、あくまで凄いのは剣の腕。先程の光と音を発生させることは幾ら何でもできないとオンヌァイトは知っており、那深嬉の仲間がとんでもない力を有していると言うことが容易に想像できたのだ。


 少し仲良くなった那深嬉の仲間とは言え、信用ができず、兎に角マンキシのことが心配でたまらない様子。


「オンヌちゃんを追いかけたいところですけど、右郎様たちを置いていく訳にはいきませんね」


 難しい顔をしながら携帯電話を取り出し、左々木石太へ電話を掛ける。


『トゥルルル。トゥルルル――』


 数秒呼び出し音が鳴る。


『那深嬉さんではありませんか。どうされましたか?』


 とても落ち着いた声で左々木が電話に出る。


「左々木さん。先程の光はなんですか! 守るべき右郎様を怖がらせてしまいましたよ!」


 異様に落ち着いた声に那深嬉は苛立ち、怒鳴りつけてしまう。


『おっとすみませんでした。しかしこのマンキシという男、中々にしぶとく――うぉおおっと! マンキシさん、まだ抵抗しますか? やりますねぇ。那深嬉さん一旦通話切りますねぇ』

「ちょっと! 左々木さん――」









『ツーツー』


 那深嬉の話をまともに聞きもせず、左々木は一方的に通話を終了した。


「左々木……」


『ツーツー』


 残った話中音が一層、那深嬉を苛立たせる。


「左々木石太ぁあああああ!」


 感情のままに携帯電話を砂の上へ叩き付ける。


「あ……やってしまいました」


 落ちて砂まみれになった携帯電話を見て冷静になる。


「はぁ……若くして四天王に選ばれた私ですが、もっと精神的に成長しないと……いけませんね」


 割と直ぐ感情的になってしまうことを気にしており、反省しながら携帯電話を拾う。


「ああ、砂まみれですね」


 軽く砂を砂を落としながら、壊れていないか一通りボタンを押してみる。


「大丈夫そうですね。アスファルトじゃなくて良かったです」


 安心しながら、今度は左門右子に発信する。


『トゥルルル――』


 先程の左々木石太よりも素早く右子が出る。


『う……な、那深嬉ではないか。右郎のところへ……向かってくれて、ありがとう』


 電話越しだが、右子の苦しそうな声が伝わってくる。


「お義母様。右郎様のことでしたらこのわたくしにお任せ下さいませ」


 苦しそうな声ではあるが、感謝を伝えられたことに那深嬉は歓喜した。


『……それで、何かあったか?』

「はい、お義母様。そちらに左々木石太が居るかと思うのですが、大丈夫なのでしょうか……先程、左々木の放った物凄い光と音と衝撃波。恐らくヒダリトエンジンを暴発させたのだと思いますが、近くに居て……大丈夫だったのですか?」


 右子はスーツの反動で全身に激痛が走っている状態である。

 そんな状態で、先程の衝撃波を食らったとすると一溜りもない筈であり、那深嬉は心配でたまらなかった。


『問題ない。私から離れた位置に移動して戦ってくれているのだ』

「え? あの左々木がそんな気遣いできたのですね」


 那深嬉は左々木石太のことを性格に難があるとして苦手にしていたのだが、少し関心したのだった。

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