第二六話 クァワウィーの過去 その七 メスガキキャワウィー
「クァワウィーさま、泣いていますね!」
右子がマンキシを追ったあと、オンヌァイトはクァワウィーの泣き声に気づき、急ぎテントへ向かう。
「大丈夫ですか! クァワウィーさまぁあああ!」
テントのチャックを開けるのもまどろっこしく、西洋刀で入口を斬り破いてしまう。
「うわぁああああ! や、やややっやっばい人がききき来たぁああ!」
見ず知らずの女騎士がテントを西洋刀で斬って侵入してくる。そんな展開、五歳の右郎にとっては恐ろしすぎて、叫び出してしまう。
「ああああ! おおおお落ち着いて下さい! というかミギロウくんと言いましたね。うちの王女二人に抱き着かれて! いいいいいかがわしい! 誰の許可を得て頭を撫でているのですか! クァワウィーさまを泣かせて! 不敬にも程がありますよ!」
オンヌァイトが侵入した時点で、クァワウィーとキャワウィーは右郎に抱き着き、右郎は二人の頭を撫でている状態であった。
オンヌァイトからすると出会ったばかりの少年にそこまで気を許していることをあまり良く思わず、つい五歳児相手に大人げない発言をしてしまったのだ。
「あ! おんぬぁいと!」
侵入してきたオンヌァイトに対して、キャワウィーは無邪気に名前を呼んだ。
急に右郎とオンヌァイトが大きな声を出したわけだが、それに対して怖がる様子はない。既に姉のクァワウィーが大声で泣いてしまっている時点で、大きな声に慣れてしまったのだ。
「クァワウィーが、泣いたの、おれのせいじゃ……わぁあああああん!」
右郎はオンヌァイトの大人げない発言を、自分を否定されたかのように受け取り、悲しくなって泣き出してしまう。
泣き出しながらも、クァワウィーとキャワウィーの頭を撫で続けるのは止めなかった。
「ああああわわわわわ! 泣かないで下さいよぉおお!」
自分が悪かったことをオンヌァイトは理解しているが、泣いている子供への接し方が良く分からない。
普段からクァワウィーとキャワウィーの護衛をすることはあったが、王城でも遠出をする時であっても王妃。詰まり二人の母親や、お世話担当のメイドたちが居た。護衛はあくまで護衛でしかない。オンヌァイト一人で子供をあやすのは極めて困難。
「と……言うか……キャワウィーさま! どうか、どうか、泣かないで下さいね! お願い致しますよ! ほんと私、今の時点でどうしたら良いのか、わっかんないんですからね!」
マンキシは元より役に立たないが、右郎の母親である右子ならこの状況を変えられるだろう。
しかし、現在戦闘中である。呼んでも来ないだろう。
オンヌァイトは絶望しながら血迷い、二歳児のキャワウィーに泣かないでと必死に頭を下げて頼み込んだ。
「きゃーきゃっきゃっきゃー!」
必死なオンヌァイトを見て、キャワウィーは面白かったらしく、指を指して高らかに笑う。
「きゃ、きゃわうぃー……さまぁ……」
明らかに二歳児に馬鹿にされているが、泣き出されてしまうよりも余程マシであるとオンヌァイトは思った。
しかし……。
「うわぁああああああ!」
匙を投げた。
「もう嫌ですぅうう! 王妃さまお助け下さい! 大泣きする子供の相手なんて無理ですぅ! 右子さん帰ってきてください! マンキシの阿保馬鹿ァ! 押し付けてやりますぅぅう!」
大の大人が子供たちと一緒になって泣き出してしまった。
「きゃっ~きゃっきゃっきゃあ~! おんぬぁいと! おとななのに! ざぁこ! きゃはは!」
雑魚なんて、どこでそんな暴言を覚えて来たのか謎だが、キャワウィーは泣きわめく二〇代女性に対して暴言を吐きながら高らかに笑い続ける。
「うわぁああああん! オンヌァイトとマンキシ! 西洋刀でケンカしないでぇええええ!」
「あああああ! オンナキシコワァアアアイ!」
「マンキシぃいいいい! 助けてくださぁあああい! 押し付けますぅううう!」
テントの中で泣きわめく六歳児と五歳児と二〇代女性。
その声は当然、テントの外にまで届く。
「きゃは! ねーねーもぉ! ひだりーもぉ! おんぬぁいともぉ! みぃんな! ざぁこ! キャーキャッキャキャァアア!」
三人の泣き声の中に、甲高い馬鹿にするような声が混ざっているのだった。




