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第二四話 クァワウィーの過去 その五 正しさが生む争い

「まずいことになってしまったね……私としては、オンヌァイトの言い分も、マンキシの言い分も分かってしまう……さてと……どうしたものかね?」


 マンキシとオンヌァイトは今にも剣で斬り合いを始めてしまいそうな雰囲気だ。

 右子はマズいと思いながら、お互いを納得させる方法を考える。


「……どちらも正しいね……異なるのは、感情と使命――と言ったところか……」


 感情を優先させたマンキシと、王国に仕える者としての使命を優先させたオンヌァイト。

 オンヌァイトの方が賢い選択に見えるが、感情も大切な筈である。キャワウィーの純粋な願いを機械的に疑うだけなら難しいことではない。しかし、キャワウィーは言うまでもなく意思を持った人間である。機械的に疑うのは残酷だと、マンキシは瞬時に思った。


 もちろんオンヌァイトもその残酷性は理解しているのだが、感情を殺してでも論理的に考え、使命を果たす方が重要であると信じた。


「キャワウィー様の言った、運命の人に会いたいと言う願いが邪気を生んだわけなどない! あんな小さい子のキャワウィー願いが邪気を生むわけが無いだろ! そもそもフトゥーノ王家は幼い子なら邪気を生む心配は無いとして祈願することは認められていただろうが!」


 怒鳴りつけながらオンヌァイトの右腕目掛けて西洋刀を振り下ろす。


「認められてはいます。ですが、絶対に大丈夫という保証は初めから何処にも無かった筈です!」


 反論と同時にマンキシの西洋刀を自身の西洋刀で受け流す。


「ああ! 絶対に大丈夫なんて誰も言っていなかったな! 何故なら! 初めから誰も心配なんてしていなかったんだからな!」


 今度は、オンヌァイトへの攻撃ではなく、オンヌァイトの持つ西洋刀の腹の中心部分を突く。


「あっ!」


 マンキシの西洋刀で突かれたオンヌァイトの西洋刀へ掛る力はかなりのもので、オンヌァイトは西洋刀を持っていられず手を放してしまう。


「……キャワウィー様は、悪くない。この支笏湖と王国の御神体が繋がってしまった原因は、必ず他の理由がある」

「――マンキシ……」


 剣で敗北したオンヌァイトはこれ以上何も言えなくなってしまった。


「マンキシ。お前少し落ち着け」


 呆れながら右子がマンキシとオンヌァイトの間に割って入ってくる。


「右子……お前は信用できない! クァワウィー様とキャワウィー様の前に都合良くお前のような者が現れるか!」


 マンキシからすると、別の世界に迷い込んだ護衛対象の前に現れた、未知の戦闘技術を持ち自分たちの国の先祖の深い関わりがあるという謎の女である。

 そんな者と迷い込んだ世界ですぐに出会うなど、偶然的すぎであり、怪しすぎる。


「ちょっとマンキシ! 私と意見が食い違って苛々してるのかもしれませんが、右子さんに当たるのは違いますよ!」

「オンヌァイト! 負けたお前は黙っていろ! この三十代の女! 怪しいだろ! なんで偶然フトゥーノ王国の先祖と関わりのある左門家の人間と初めに出会うんだよ! 右子――お前の企みだろ!」


 マンキシは一度疑い出すと、とことん疑い続ける。

 幼い頃、弟のモンヴァーンが自分のお菓子を食べたと疑い始めた時は、モンヴァーンが泣き出してしまう程しつこく「お前が食べたんだろ!」と問い質したりしていた。


「マンキシ。私たちがこの場所で出会ったのは霊力レベルでしっかりと意味のあることなのだ」

「霊力レベルだぁ? 抽象的すぎる!」


「アホが。否定から入らずしっかりと思考しろ」

「――お前を敵とみなす」


 右子の話を碌に聞きもせず西洋刀を構える。


「マンキシ。お前、頭に血が上るとアホになるのだな……」


 もはや言葉で分かり合うのは無理だと悟った右子は、拳を構える。


「三十代女! ここだとクァワウィー様とキャワウィー様、あとついでにお前の息子も巻き込んでしまう。少し移動するぞ」


 完全に敵認定し、名前で呼ぶのを止めた。


「ほほう……私を三十代女など、どう考えても挑発のような呼び方をしておいて、息子のことを心配してくれるのだな」


 アホだと思っていたが、根は良い人なのだと右子は思った。


「黙っていろ! 三十代女ァ! お前は敵だ! オンヌァイト! 子供たちを頼んだぞ!」


 つい数分前まで剣で喧嘩をしていたというのにも関わらず、オンヌァイトのことは信頼している。


「……はあ。分かりましたよマンキシ。クァワウィー様とキャワウィー様をお守りするのは当然のことです」


 ため息を吐きながら了承する。


「おい! 右郎君のことも守れよ!」


 さも当然のことのように言う。


「おいマンキシ……そんなに優しいお前なら喧嘩する必要ないだろ……やはり冷静に話し合おう」


 自分の息子のことを気にかけてくれるのなら、やはり根は相当に優しいのだと右子は思う。


「うるっせぇ! 三十代女は敵だぁ!」


 根は優しいが、表面上の言葉遣いは乱暴であった。


「くっく。それでは行こうか」


 この乱暴な言葉の裏では優しい心を持ち合わせていることを思うと、右子は思わず笑いが込み上げてきてしまう。


「ああ。可能な限り離れたいところだ」


 マンキシは右子の笑いに気づくこともなく、とっとと湖沿いを走って離れていく。


「……なんというか、アホと言うより、小学生男子の様だな……」

「あ、あはは……マンキシは、幼い頃から剣の腕が天才的でして、その関係で同年代の子よりも大人と接する機会が多く、精神年齢がちょっと……なんと言いましょう……」


 オンヌァイトはマンキシより二歳年下の幼馴染であるが故に詳しかった。


「バグっているのだな……」

「バグですか……確かに、精神がバグっていると言う感じがしますね……今はバグっていますが、年下である私や弟のモンヴァーンくんと接してきた過去から、子供には優しいんですよ、マンキシは……」


 フトゥーノ王国には龍霊術を用いたコンピューターが存在しており、プログラミングも人間がする。プログラミングで例えば特定の変数に整数を加算したいところ、誤って減算してしまうと、意図しない処理をしてしまう。例えばヒットポイントの回復アイテムでそれをしてしまうと、アイテムを使用するとダメージを受けたかのようにヒットポイントが減算されてしまう。それも回復のアニメーションを再生しながらかもしれない。

 コンピューター側は命令された通りのことを実行した。間違えたのは人間の方である。これを、バグと言う。

 そのため、バグという言葉が異世界人である筈のオンヌァイトに通用したのである。


 言ってしまえば、マンキシの脳はどこかの時点で間違った方向へ成長してしまった。マンキシの脳は成長した通りの行動発言をしているだけなのだろう。


「あの様子ですと、右子さんと戦わないとマンキシは納得しないでしょう……」

「仕方がない。悪いが、うちの子のこと、特に何もないと思うが、宜しく頼む。オンヌァイト」


 面倒だと思いつつ、右子は小走りでマンキシに着いて行くのだった。

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