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第一九話 肉体分離編 その一二 約束のメモ用紙

『ドォオオオオオン!』


 激しい戦闘音が鳴りやまない。


「一体どんな戦い方したらこんな音するんだよ! 零くんおれより一歳年下だけど、なんて世界に足を踏み入れているんだ……」


 色々とツッコミを入れてしまっているが、右郎自身もあのレベルの戦いを求められるのだろうなと、不安になってくる。


「不安になってきたが、現実感がなさ過ぎて不安と言う感情がもうよく分からなくなってきた……いや、右半身だけ異世界に召喚されているし、異次元の戦いも、おれはすぐに受け入れるんだろうな……」


 この独り言は、現実を見るだけではやはり辛く、心を誤魔化す意味が強かった。


「ぶっ飛んだ戦闘音を聞いて、逆に冷静になってきたかもしれない」


 戦闘音に不安を感じていたが、その不安は凄惨な光景のショックを和らげることになった。


「……大分、落ち着いてきた」


「良かったです! 右郎くん。こっちの世界からは応援することしかできませんが、頑張って、危機を乗り切ってください」

「ミギロウ。お前は俺が駆け付けるまでの間、クァワウィー王女殿下を命懸けで守って見せた。自身を持て! お前なら凄惨な光景を受け入れ、魔物共からの危機からも脱せる」


 右郎が落ち着いて来ると、クァワウィーとモンヴァーンはすぐに気がつき、応援をした。応援することしか、できない――。

 二人は右郎の味方だが、地球へ干渉できない以上、右郎の様子を鑑賞し、応援することしかできない。


「……キミ――」


 二人の応援で元気を得ながら、少女の遺体へ、何度も左足でジャンプし、近づいて行く。


「キミとの約束。果たすよ」


 少女の傍まで近づくと、三年前、ヒダリトの施設で最後に交わした言葉を思い出す。


『うん! 本名の知らないヒダリーとの』


 その時の満面の笑みは、今でも鮮明に思い出せた。


「名前の知らないキミとの、約束だった……」


 落ち着いてきたと思っていた右郎だが、目の前の遺体と、思い出した満面の笑みを比べてしまい、救い難い悲しみに襲われる。

 涙が流れ出てくる。止まらない。


「――涙……大丈夫ですか! 右郎くん!」

「……ミ、ミギロウ……」


 二人にとっては、右郎が何を見て、なぜ涙を流しているのかが分からない。見えていないから。

 二人には、右郎は突然涙を流したようにしか見えないのだ。

 それでも、悲しい目に遭ってしまったのだろうと、二人は予想する。見えないから、予想するしかできない。


「クァワウィー。モンヴァーン。大丈夫だ――三年前の思い出を、思い出しちゃって……辛いけど、どうしても、果たさないといけない約束なんだ」


 クァワウィーとモンヴァーンへ向けて言った言葉だが、自分自身と少女に対して、必ず約束を果たすという宣言の意味でもあった。


「じゃあ、ちょっと失礼するよ。きっと、キミは持ってきてくれている。常に、持ち歩いてくれていたんだろうな……」


 少女のスカートの左ポケットから、グチャグチャで血の付いた折りたたまれた紙を取り出す。


「入れてある場所……一発で正解してしまった。やっぱり、持ち歩いていてくれてたんだな……おれも、なんだ……」


 そう言いながら、右郎は自分のズボンの左ポケットから、メモ用紙を四つに折りたたんだ紙を取り出す。

 これは、三年前に少女から渡された、少女の名前が書かれているであろう紙である。


「おれは左手しかないから、二つ同時に開くのは無理そうだ。先におれのから開くよ」


 少女に対してそう言いながら自分のポケットから取り出した紙を開いていく。

 少女に声など届きはしないだろうが、少女に声が届くつもりで言った。


「開いた。次はキミのを開いてみるよ」


 紙を開き終えると、中に書いてある内容を一切見ずに少女のポケットから取り出した血塗れの折りたたまれた紙を開き始める。


「濡れたり固まったりで、開きにくいな……」


 血が固まっている。まだ完全に乾いてすらいない。

 紙が破けてしまわないよう慎重に開いていく。


「よしっ! ん? あれ? なんか二枚あったぞ?」


 少女の持っていた紙は、なぜか同じような紙が二枚重なっていた。


「え?」


 まさか自分以外の誰かとも似たようなやり取りをしたのだろうか……そんな考えがよぎる。


「キミは、可愛いもんな……同年代の子からも、さぞかしモテたんだろうなぁ……」


 完全に自分を卑下し始めてしまう。


「――しっかりしてください右郎くん!」

「……よ、よく分からないが、しっかりしろミギロウ!」


「あ……」


 二人にしっかりするよう促され、我に返る。


「ありがとう二人とも。落ち着け、持ち歩いているということは、おれへの気持ちを忘れたわけではない。再会してからの様子を見ても、忘れられているわけなど絶対にない!」


 自信を持ち、少女を信じて血塗れの紙二枚を開いていく。


「今度こそ、開けたぞ」


 まずは血塗れの紙から見ていく。







 ――あ……良かった。おれの名前だ……。


 血塗れの紙には「左門右郎」と書かれていた。

 血塗れなのと、グチャグチャなので、大分読みにくいが、三年前に右郎自身が書いたもので間違いない。


 ただ、そうなるともう一枚の血塗れの紙は何なのかと言うことになる。


「もしかしたらお使いのメモとか、何の関係もないメモ用紙かもしれないよな……」


 思い出の……約束の紙だが、夢の無いことを言えば、実際普通の、ただのメモ用紙なのだ。普通に有り得るだろう。


 そう、思いながら開いていく。







 ――な……なんで! ど、どういうことだ。


 そこには、どういうわけか「佐藤逆瑠」と書かれていた。


 右郎の持っている紙に「佐藤逆瑠」と書かれている筈だと右郎は思っていた。


「いや、意図は分からないが、自分の名前を書いてポケットに入れていただけかもしれない」


 焦りながら自分のポケットに入っていた紙を見てみる。






 ――ん? ん? ん? んん? どういう……ことだコレ。


 そこには「くぁわうぃー・おーじょ・ざ・ふとぅーの・らいとうぃすてりあ」と、子供のような文字で書かれていた。

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