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【女神様の共犯者】

惨めだ、

と僕は国会議事堂……


いや、オクト城を眺めながら、地べたに座り込んだ。膝を抱え、今にも泣き出してしまいそうだったが、何者かが僕の目の前で立ち止まった。


「威勢よく名乗ったのに、放り出された瞬間、見たぞ。笑いをこらえるの、大変だったよ」


「せ、セレッソ!」


見慣れた翡翠色の髪をなびかせ、馬鹿にするような冷笑を浮かべるこの女こそ、僕を異世界に召喚した張本人。


女神セレッソだ。


「どういうことだよ! 僕が任命式に出れなかったら困るのはお前だろうが!」


「それはその通りだが、笑えるものは笑えるんだ。仕方ないだろう」


がくっ、と肩を落とす僕。


「せっかくハナちゃんと並んで、勇者に任命されると思っていたのに、まさかの門前払い。雨宮くんにも、これから勇者として頑張るから的なこと言っちゃったのに。これじゃ、ただの勘違い野郎じゃないか」


なぜ、僕がこんな目に合うのか。思い返してみると、すぐに結論が出た。


「そうだ、あのお姫様のせいだ! 暫定暫定勇者だとか言って僕を呼び寄せたのに、何しているんだ! 王女様なんだろ? だったら、僕の名前を名簿に差し込むくらいの権限くらい、あるだろうが! 何やってんだよ、本当に!」


一人青空に向かって思いのたけを怒鳴り散らす僕だったが、セレッソはあくまで冷静。何としてでも、僕を勇者にしようとしていたくせに、どうしたんだ?


「なんだよ、やけに大人しいな」


「ん? ああ……。ついさっき罵詈雑言を浴びてきたばかりだったものでな。お前が喚いている姿を見て、そのときの疲れがぶり返しただけだ」


そう言われてみると、セレッソの顔はなんだか疲れている。何をしていたんだ、と聞く前に、セレッソが歩き出した。


「時間もないから行くぞ」


「行くってどこに?」


「決まっているだろう。お前が文句をたれているお姫様のところだ」


僕たちはオクト城の裏に回った。

特別な入り口なのか、さっきと違って警備も厳重。しかし、セレッソは証明書らしいものを一枚見せるだけで、僕を連れて門を通ることに成功する。


そういえば、初めてこっちの世界にきたときも、似たようなことがあったな。


「ここは、どういう入り口なんだ?」


「王族専用の入り口だ」


「お、お前……王族だったのか?」


「違う。王族から直接許可をもらえば、この出入り口を使用できる、というだけの話だ。まぁ、許可をもらえる人物は、それなりに限られているがな」


セレッソは慣れた様子で城の中を進んで行く。そして、強そうな護衛二人が立つ扉の前で止まった。


「私だ。中に入れろ」


「どうぞ」


中から返事があると、護衛のうち、一人が扉を開けてくれた。だだっ広い部屋の奥、パソコンに向かって激しくキーボードを叩く女性が。


黒いスーツに黒い眼鏡をかけたその人は、キャリアウーマンといった出で立ちだが、僕とあまり変わらないような年齢に見えた。


ちょっと性格がきつそうに見えるが、めちゃくちゃ美人だ。


「ちょっと待って。メールを一通だけ返すから」


「少しくらいは休め。体を壊したら元も子もないぞ」


「そうは言ってられないでしょ、戦争が始まったんだから。アキレムの大統領はもちろん、アニアルークの旧政府トップに支援を約束させないと、絶対にオクトは負ける。まったく、あと一週間は余裕があると思っていた自分を殴りたいわ」


セレッソが、きつそうなこの女性が座るデスクの傍にあるソファに腰を下ろしたので、僕もその

隣に座った。すると、きつそうな女の視線が一瞬こちらに。


「ちょっと、セレッソ。そのソファは王族専用。一般人を座らせないでよ」


え?

い、一般人って僕のことだよな……?


セレッソが僕を見る。


「だ、そうだ。立っておけ」


言われた通り、ソファから立つが、何だか引っかかる。あの人を人として見ないような視線……。慣れていると言えば慣れているけど、むしゃくしゃするぜ。


「セレッソ、あのメガネの女だけど、お前の親友だろ? そうじゃなければ、あの生意気な感じ、説明がつかない」


小声でセレッソに愚痴るが、きつそうな女には聞こえていたらしい。


「そいつ、私のことを生意気って言った? まさか国民から生意気って言われるなんて、夢にも思わなかった。むしろ、貴重な体験ってことかしら」


「安心しろ、フィオナ。こいつは国民じゃない。それに、お前を見たら生意気な女だと思うさ」


ん?

フィオナ?


どこかで聞いた名前だ。

いやいや、それよりも……。


「セレッソ、そんなこと人前で言って良いのか? 僕の素性は話すな、って」


「大丈夫だ。あいつはお前がこの世界の人間ではないことを知っている」


「……え?」


フィオナと呼ばれた女が、キーボードを叩く手を止めて、一息吐いた。


「よし、これで大丈夫でしょう。で、話って何?」


セレッソが答える。


「お前、任命式の出席者に誠の名前を入れ忘れていなかったか? こいつ、受付で摘み出されていたぞ」


「……あっ」


フィオナという女は一瞬、口をぽかんと開けたが、すぐに鋭い視線を僕の方に向けてきた。


「違う、忘れてたわけじゃない。こっちだって暫定勇者でもない人間を勇者にするため、何十人もいる関係者たちに話を通さないといけないの。殆どは済ませたけれど、お兄様とアインス博士はまだ。それを済ませないと、勇者の枠を一人増やすことだって難しいんだから」


「そうは言っても、やってもらわなければ困る。こいつが勇者になれなかったら……」


「もう! それは何度も聞いた! だって、周りはみんな皇の名前に傷を付けないことばかり考えているんだもん! それをひっくり返すことが、どれだけ大変か分かる? だいたい、貴方たちが皇の息子を倒せずもたついていたから、私が面倒なことになっているんじゃない! このポンコツ!」


フィオナは完全に僕を指さしていた。あ、あれだけ苦労したのにこの扱い。何者か知らないが、流石に黙ってられないぞ。


「これだけの短期間で皇を追い詰めたんだぞ。僕以外に、そんなことできるやついないんだからな!」


とは言っても、みんなの協力があって奇跡を起こせた、というだけなのだが、怒りのせいでどうしても強気な発言になってしまう。


しかし、フィオナは引き下がるどころか、目を細めてこちらを威嚇してきた。


「暫定勇者を倒した程度で偉そうにしないで。この国には貴方レベルの勇者は山ほどいるんだから」


「おいおい。お前、本当に分かっているのか?」


セレッソが呆れた調子で言う。


「アッシアの魔王を倒せるのは、この世界の外からやってきた誠だけだ。山ほどいる勇者と同じ――それ以下に見えるが、まったくの別物なんだぞ。もう少し丁重に扱ってやれ」


はっきりと言うセレッソに僕は驚きを隠せなかった。


「そ、それも言って大丈夫なのか?」


焦る僕だが、セレッソは何事もないといった様子で肩をすくめた。


「大丈夫だ。こいつはフィオナ。フィオナ・サン・オクト。お前が散々文句をたれていたお姫様で、お前をこの世界に連れてこいと私に命じた、張本人だ」


「……なんだって?」


驚く僕に、フィオナ……


フィオナ様は軽蔑するような視線を向けるのだった。

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