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【ファーストステージ開始】

勇者任命式、当日。


「おい、誠。そろそろ行くぞ」


「分かっているよ、ハナちゃん!」


僕は旅行用バッグを担いで、部屋を出た。きっと、すぐに戻ってくる。それこそ、海外旅行に出掛けるような気持ちで、部屋の鍵を閉めた。


ハナちゃんと一緒に電車に乗り込み、まずはアボナダタークのクラムへ向かう。下畑さんをはじめとするクラムのみんなに挨拶をして、次はアスーカサへ向かう予定だ。


「それにしても、誠も運があるのかないのか、よく分からないやつだな」


とハナちゃんは苦笑いする。間違いなく、先日行われた勇者決定戦のことを言っているのだ。


「本当にそうだよ。僕、ちゃんと正式な勇者になれるのかな……?」


「どうだろうな。でも、今回は駄目だったとしても、誠ならすぐに勇者になるだろ」


電車の中に朝日が射し込み、ハナちゃんが光に包まれる。僕はそんな彼女の横顔を見つめ、一時の幸せを噛み締めた。


クラムに到着し、挨拶を済ませる。みんな笑顔で送り出してくれたが、どこか妙な雰囲気だった。何というか、拭い去れない暗さがあるのだ。


その理由は、アスーカサでみんなに挨拶するとき、三枝木さんが語ってくれた。


「三枝木さん、今まで本当にありがとうございました」


ハナちゃんと一緒に頭を下げる。他のみんなは「無事で帰ってこいよ」とか「無理するなよ」とか、そんな言葉を笑顔で返してくれたが、三枝木さんは違う。


「できれば……貴方たちを戦争に行かせたくはなかった」


三枝木さんの呟いた意味が理解できず、ぽかんとしていると、彼は深く溜め息を吐いた。


「貴方たちを不安にさせないためにも、こんなこと言うべきではないのかもしれない。しかし、私は話しておきたい。私が経験した戦争は、地獄でした。もう二度と繰り返してはならない。何度もそんな風に感じる瞬間がありました。だから、私たちの世代で終わらせるべきだった。それなのに、こんなことになってしまって、本当に申し訳ない」


「そんなの、三枝木さんのせいじゃないですよ。私たちがちゃんと魔王を倒してくれるから、大人しく待っててくれ」


ハナちゃんの笑顔に三枝木さんは返す言葉が見つからないみたいだった。


「三枝木さん、必ず帰ってきます。僕たちには、女神セレッソの加護があるので、なんとかなるはずですよ」


その女神様は朝から見当たらないのだが、あいつは何か秘策を持っているようだった。それが何かは分からないが、それを信じるしかない。三枝木さんもセレッソの秘策について頭を巡らせたのか、小さく頷いた。


アスーカサのみんなに挨拶も終わったので、ユビスのクラムへ……と思ったのだけれど――。


「よかったー! 間に合った!」


僕たちの方へ駆け寄ってきたのは、雨宮くんの姿だった。


「雨宮くん! どうしてここに?」


「もちろん、見送りだよ。神崎くんがユビスに来るのは知っていたけど、大淵さんが時間もないだろうから、こっちからアスーカサへ行こうって」


雨宮くんの後ろには大淵さんやユビスのみんながいた。


挨拶が終わった後、雨宮くんが教えてくれた。


「オヤジさんの件、上手く行きそうだよ。それが終わったら、たぶん僕たちもイロモアで合流することになると思う」


イロモア。

これから僕たちが向かう戦地だ。


「オヤジさん、すぐ退院できると良いね。って言うか、雨宮くんも戦場へ行くの?」


「そりゃそうだよ。戦争状態だからね。勇者科のみんなは戦士として、神崎くんたちを援護するために送り込まれるんだよ」


「じゃあ、背中のそれは?」


さっきから気になっていた、雨宮くんが背負っている長細い黒い何か。雨宮くんが手に取ってみせてくれた。


「ああ、これ? ライフルだよ」


「ら、ライフルって……銃、だよね?」


ゲームで見たことがある、銃身が長くてスコープがくっ付いているやつだ。


「そうそう。もしかしたら、僕って魔弾使いの適正があるかも、って分かったんだ。皇くんの言う通り、僕は勇者の素質はなかったかもしれないけれど、こっちなら活躍できるかもしれない」


「そう、なんだ」


と相槌を打ちつつも、魔弾ってなんだ?という疑問が強く、思わず首を傾げてしまう。


「おい、誠! 思ったより時間がないぞ!」


だが、ハナちゃんの呼びかけられ、僕は魔弾について質問することはできなかった。


「分かったよ! 今行く」


「神崎くん、無事でいてね。お互いこの戦争を生き抜いて、また一緒にスクールで会おう」


「もちろんだよ。雨宮くんも、無理はしないでね」


僕とハナちゃんは電車へ乗り込み、オクト城へ向かった。ドアが閉まって電車が発進するとき、三枝木さんの姿を目にする。三枝木さんは両目を閉じ、手を組んでから祈るように目を閉じていた。


そうか、僕たちは戦争に行くんだ。


少しだけ実感すると、全身を駆け巡るように鳥肌が立った。思わず、緊張で黙り込んでしまう僕の横でハナちゃんが笑った。


「びびっているのか?」


「少しね。戦争に行く、っていう実感は……まだないけれど。自分が死ぬかもしれないって、そういう覚悟も難しいなぁ」


「ばーか、お前は死なねぇよ」


「え?」


「私が守るからな」

「は、ハナちゃん……」


何てカッコイイんだ。

こんなに可愛いのに、男前でもあるなんてずるいぜ。ここは、僕にかっこつけさせてくれよ。


でも、ハナちゃんさ――。


「なんでそのセリフ知っているの?」

「はぁ?」


この異世界にやってきたばかりのとき、セレッソは言った。僕にとって最初のステージのボスはアッシアの魔王だ、と。そして、そのアッシアとの戦争が始まる。ついにファーストステージも終盤ってわけか。


……っていうか、まだファーストステージなの?


ここまで、かなり苦労したような気がするんだけど、まだファーストステージって。


セレッソのやつ、僕にいったい何をさせるつもりなんだ?

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに新章開始ですね。誠とハナちゃんの一歩進んだ感じが、とても爽やかでした。
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