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【長いチュートリアルが終わって】

三角締めは完全に入っていた。


当初の作戦では、カウンターを狙いながら、五ラウンドまで逃げて、僕が倒れたら追撃にきた皇に、この技を仕掛ける予定だった。


しかし、雨宮くんのこともあって、僕は三ラウンドと四ラウンドは正面から殴り合ったんだけど……


結果的に皇を怒らせ、

予想以上に作戦にはまってくれる形となった。


皇はとんでもない力で、僕の手を引き剥がそうとするが、僕も死に物狂いで離さず、両足に力を込めた。


「がっ、がぁ……がっ」


皇は呼吸が苦しくなってきたのか、口から空気が漏れているみたいだった。


目の動きもおかしくなっていく。それでも、皇はギブアップすることはなかった。


このままだと、意識を失ってしまうんじゃないか?


僕はレフェリーの方を見る。

そろそろ止めた方がいいのでは、というアピールだったのだが、


レフェリーは動揺した様子で、ケージの外を見たり、こっちを見たりを繰り返していた。


たぶん、誰かの指示を仰いでいるんだ。


この試合を止めて良いものかどうか。止めれば皇の負けが確定する。止めなければ、皇は意識を失う。最悪の場合は、後遺症が残ったり、死ぬことだってあるんじゃないか?


それでも、皇が負けるなんて、

彼らのシナリオにはないことなのだ。レフェリーとしては、皇がピンチになったとしても、止めてはならないのだろう。


「諦めろ、皇! お前の負けだ!」


僕だって人を殺したいわけじゃない。ギブアップを呼びかけるが、皇が聞いてくれなかった。いや、もしかしたら……


既に聞こえていないのではないか。


どうしよう、力を弱めるべきだろうか。

ダメだ、ここは非情になれ。

だけど……。




僕が悩んでいると、

突然、体育館の照明がすべて真っ赤に変わった。


「な、なんだ?」


体育館内にブザー音……いや、警告音だろうか。


サイレンらしい音が鳴り響く。


「緊急事態。緊急事態。オクト国民は、すべての活動を一旦停止し、この放送を聞いてください」

「え?」


僕が三角締めを解くと、

皇はぐったりしているが、意識はまだあらしく、咳き込んでいた。


殺さなくて良かったけど……

この場合、どうなるんだ?


謎の緊急放送が続いた。


「アッシアから我が国へ宣戦布告が出されました。現在、アッシアのコトソビダルブ港に軍艦と兵士たちが集結との情報。数日中に、イロモアへ進軍すると見られています」


どういうこと?

確か、イロモアって十年前、三枝木さんがアッシアと戦った、北の方にある街のことだよな。


つまり、アッシアが攻めてきた、ってこと?


「これを第二次オクト・アッシア戦争の開始と見なし、現時点で暫定勇者の資格を持つものは勇者に繰り上げ。スクール在籍中の勇者は、ただちにオクト城へ集結。任命式の後、この戦争に参加することを命じます」


体育館の中が、人々の不安で溢れるように、ざわめいた。


「会場の皆さん、落ち着いてください」


しかし、その声が人々の不安を停止させた。マイクを持って、ケージの中に入ってきた人物が。銀色の髪の毛をまとめ、ドレスを身にまとった姿は、アニメで見るお姫様みたいだ。


でも、どこかで見たことある気がする……。


確か、ハナちゃんが勇者になったとき、ケージに入ってきた人だ。


「私はフィオナ・サン・オクト。ただいま緊急放送であった通り、我が国は再び戦争状態となりました。そのため、この対戦は中止。現在の暫定勇者を繰り上げ、勇者の資格を与えます。皇颯斗、立ちなさい。そして、私と共にオクト城へ」


「ま、待ってください」


そこに入ってきたのは、ハナちゃんだった。ハナちゃんは厳かな様子で、女性の前に膝を付く。


「恐れながら申し上げます。この戦い、あと数秒あれば勝負は決まっていました。そして、勝者が神崎誠であることは明らか。それは、ここにいたすべての人々が証人だと感じています。どうか……」


「勇者、綿谷華ですね」


ハナちゃんの言葉を遮るように、その女性は言った。


「私がこの戦い、見ていなかったとでも?」


「いえ、決して……そんなつもりは」


謎のお姫様は、振り返ると僕の目の前へ移動した。


「神崎誠。貴方の戦い、最後まで見させてもらいました。その実力、勇者に等しい……とは言えませんが」


い、言えないのか。

一瞬、期待しちゃったよ。だが、話は続くらしい。


「言えませんが、対戦結果を見る限り、暫定暫定勇者のレベルはあると、私には見えました」


ざ、暫定暫定勇者?


暫定が一個多いぞ?


「勇者の資格を与えられるか、まだ分かりませんが……今は優秀な勇者が一人でも多く必要です。貴方も私と共にオクト城へ来てください」


「え? あ、はい」


何がどうなっているのか、よく分からない。


よく分からないけど、これだけの美人から一緒に来いと言われたら、行くと答えるしかないじゃないか。


僕がその手を取ると、体育館の中が歓声に満ちた。


「神聖な勇者決定戦を見守っていた皆さん。私、フィオナ・サン・オクトが宣言します。ここに、皇颯斗という新しい勇者が誕生したことを。それから……」


フィオナと名乗る女性はこちらを見てから、改めて僕らを見守る人々へ言った。


「新たな暫定暫定勇者が誕生したことも、宣言しておきしょう」


僕はセレッソの方を見る。


セレッソが笑顔であれば、たぶん目標は達成し、世界を救うためのミッションは継続する、という意味だと思うのだが……。


え、なんかめちゃくちゃ微妙な顔しているんだけど!


なんだよ、あの引きつった苦々しい笑顔は……!


僕、どうなっちゃうんだろう?

ちゃんと勇者になれるのか?


この世界、ちゃんと救えるのかな?

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。


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