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【勇者決定戦①】

体育館の中から大音量のマイクが聞こえてくる。


「勇者科ランキング三位! 神崎誠の入場です!」


体育館の扉が開き、

僕が一歩踏み出すと、とんでもない歓声に包まれた。


てっきり、ブーイングの嵐が起こるのでは、と不安だったが、


なんだ僕を応援してくれる人もいるようだ。


「神崎ー、がんばれよー!」

「全力で行けよ、神崎ー!」


嬉しいじゃないか。

この期待に応えるような戦いを見せて、絶対に勝たなくては。


ケージに入ると、握手が起こったが、すぐに止んでしまった。もう少し応援してもらえたら、気合も出たかもしれないのにな……


と少しだけがっかりしていると、マイクを持った進行役の先生にスポットライトが当たった。


「続きまして、暫定勇者、皇颯斗の入場です!」


体育館の空気が、変わった。


歓声。大歓声。大々歓声。


僕のときとは、ケタ違いだ。

しかも、明らかに女の子の声の量が違う。もちろん、男の声も混じっているけど、


僕のときは女の子の声なんてなかったよな??


「皇くーーーん!」

「皇さまぁぁぁーーー!」

「ぎゃあああぁぁぁーーー!」


それはもう歓声ではない。カオスだ。


カオスの中、皇が真っ直ぐとケージへ向かって歩く。その顔は飽くまで涼し気。感情と言うものは感じられなかった。


ケージの中に入っても、歓声と悲鳴は止まらず、注意のアナウンスが流れる。やっと、静かになったところで、進行役の先生に再びスポットライトが当たった。


「それでは本日のラストマッチ。勇者決定戦を行います!」


あれ……?


確か、ここのアナウンスって

「暫定勇者決定戦を行います」

って言うべきなんじゃなかったか?


勇者決定戦、と言ってしまったら、挑戦者が勝つ可能性を否定しているようで失礼だから、という意味で。


くそ、誰もがこの対戦は、あくまで皇颯斗の勇者決定戦だと思っている……ということか!


「集中しろよ、誠」とセレッソ。


「体力の配分に気を付けろよ」とハナちゃんが。


「ここまできたら、やるだけです。がんばって!」


最後に三枝木さんが言葉を残し、三人はケージを出て行った。そして、八角形のケージの中には、僕と皇、レフェリーの三人となった。


「お互い、中央に」


レフェリーの指示に従い、中央へ移動し、皇と向き合った。皇の無感情な瞳が僕を眺めている。こいつ、本当に人間だろうか、と疑いたくなるくらい、そこには感情がない。


レフェリーが僕と皇の手首をつかみながら説明する。


「今回は暫定勇者決定戦だから、五分五ラウンドね。ラウンドごとのオープンスコア。後頭部や金的は反則だから注意すること。オーケー?」


「はい!」と僕は返事をしたが、皇は小さく頷くだけだった。


「それじゃあ、お互い敬意を払ってグローブタッチを」


皇が僕を眺めたまま、右の拳を差し出した。僕はそれにそっと拳を当てる。そして、金網際まで退がりながら考えた。


あ、あいつの目、

マジで怖いんだけど。


スクールで見たときは、無表情だなって思うくらいだったけど、対戦となると少し違うぞ。


何て言うか、人を殺すためのロボットと向き合っているような、無機質な殺気を感じる。


あんなやつと戦って、本当に大丈夫か?


レフェリーが右手を挙げた。

始まる。

もう、びびってられないぞ。


「ファイッ!」


レフェリーが手刀を落とすと同時に、対戦開始のゴングが鳴り響いた。


今回の作戦は、まず徹底してカウンターを合せること。あいつは組んでこない、というハナちゃんの言葉を信じて、ただただ僕の得意技で戦うだけだ。


とりあえず深呼吸して息を整えよう……と思ったが、皇は既に目の前にいた。


目で捉えきれない前手のパンチ。

動体視力には自信があるが、皇のそれは異次元だ。僕は上半身を退いて避けたつもりだったが、右の頬にパンチが当たってしまった。


い、痛ぇ……。

速さ重視の軽いパンチのはずが、鋭さが半端じゃないぞ。


僕は皇の横へ回るように移動する。が、皇は逃がすまいと常に正面をキープした。


どんなに動いても、皇の方が速い。そして、皇が正面に立ち続けていることは、とんでもないプレッシャーで、気持ちを整える暇すら与えてもらえなかった。


それなのに、またも皇が前手でパンチを放ってくる。


今度は見えたぞ、

と身を退いたが、次の瞬間、足に衝撃が。


めちゃくちゃ速いキックで、(もも)の辺りを蹴られたらしい。遅れてきた痛みに、僕の足は止まる。


その瞬間、皇が踏み込んで、右フックを豪快に振り回してきた。


当たるか、と身を屈めるが、そこに合わせて膝が突き上がってくる。腕をクロスしてそれを受けるが、衝撃は顔面どころか、脳まで伝わってきて、僕の体は金網に叩き付けられた。


「神崎くん、危ない!」


何が起こったのか。

それは分からなかったが、とにかく三枝木さんの声に反応して、その場から離れた。


次の瞬間、ぶんっ、という風を切る音が聞こえたが、パンチなのかキックなのか、それすらも分からない。


「距離を取って!」


再び三枝木さんの指示が飛んだが、既に遅かった。皇が僕の目の前に。前手のパンチが飛んできた、と身を反らしたら、そこに皇はいない。


どういうことだ?

と皇の姿を探したが、ずんっ、という重たい感触が脇腹を襲う。


鈍い痛みが横腹に。

血の気が退き、痛みに引きずり込まれるような感覚が。


だが、それで終わってはくれない。次は横からとんでもない衝撃があって、僕は頭が吹っ飛んでしまった……と勘違いしそうになるパンチに襲われた。


やりたい放題、やらせるか!


と、僕は皇がどこにいるか分からず、パンチを振り回した。しかし、いや、当たり前のことかもしれないが、それは空を切るだけ。皇は三歩分離れた場所に、無表情で立っていた。


「誠、集中して戦え!」


いつものセレッソのセリフが飛んでくるが、今回ばかりは、そういう問題じゃない。


僕の集中力がどうとか、そういうことじゃないんだ。


単純に、皇がめちゃくちゃ強いだけ。




本当に、僕がこいつに勝てるのか……?

「勇者決定戦、ドキドキする」

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