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【まだ誰も貴方のことを知らない】

寝技は三枝木さんとハナちゃんから、徹底的に叩き込まれる。打撃は、大淵さんとその知り合いの元勇者から教わった。五分五ラウンドを動き切れるよう、スタミナの強化も地獄みたいで、毎日のように瀕死状態まで追い込まれている。


そんなある日の夜、雨宮くんから電話があった。


「当日、応援に行けないんだ。本当は最前列で応援したかったんだけど……」


「ぜんぜん大丈夫だけど……何かあったの?」


「実は、あれからずっと探していたんだ。動画屋のオヤジさんの娘を」


「え、ほんと?」


「うん。それで、対戦の日なら話を聞いてもいい、ってことになってさ。オヤジさんと会ってくれないか、交渉してみるつもり」


「凄いよ、雨宮くん」


「ありがとう。頑張ってみる。だから……神崎くんも勝ってね。勝って、暫定勇者になってよ」


「……うん」




地獄の特訓を経て、ついに決戦前日。今日は疲れを取るため、一人家で休むことにした。


しかし、毎日練習をしていたせいか、休むとなると無為に時間を過ごしている気がして、妙に焦ってしまう。


テレビでも付けるか、とリモコンに手を伸ばしたが、三枝木さんの言葉を思い出した。


「テレビは絶対に付けないように。ネットで動画を見ることもお勧めしません」


「なんでですか?」


三枝木さんは首を振るだけで、何も教えてくれなかった。


言う通りにした方がいいのかもしれないが、やはり無駄な時間を過ごしている気がして、落ち着かず、つい反射的にテレビをつけてしまった。


あ、消さなければ、と思ったのだが、テレビから


「さぁ、挑戦者の神崎くんですが」という声が聞こえてきた。


そこに映っていたのは、三人の男性と二人の女性。左端に立っているアナウンサーらしき、スーツ姿の男性が番組の進行役なのか、こんなことを喋っていた。


「さぁ、挑戦者の神崎くんですが、先日新勇者となったあの綿谷華さんの推薦で、当時ランキング三位の岩豪くんと対決。見事勝利したことで、今回の暫定勇者決定戦に選ばれたわけです」


おいおいおい、テレビで僕のことを話しているぞ!


世界の隅にある学校の教室、さらにその隅でうじ虫みたいに生きていたこの僕が、テレビの中で語られるなんて、思いもしなかったぜ。


その衝撃に、テレビを見るなという三枝木さんの忠告を忘れてしまったのだが……。


「それでは、元勇者の皆さんに話を伺っていきたいと思いますが、まずは銀平さん。この対戦について、どう思っていますか?」


「そうですね。率直に思ったのは、皇颯斗という新勇者の誕生は決定したかな、と思いました」


「なるほど。それは、皇くんの勝ちは堅い、と受け取ってもよろしいでしょうか?」


「それ以外の受け取り方、ありますか? だって、実力違い過ぎでしょ」


銀平と呼ばれる元勇者は呆れたような笑みを浮かべる。


「神崎くんは色々な技術が本当に粗削りで、実力的にはランカーレベルとは言えないよね。それなのに、岩豪くんに勝てたのは、神崎くんには悪い言い方になるけど、偶然が重なったとしか思えないかな。意外性っていうのも、勝因の一つだったと思うけど、手の内を晒しちゃった今回は、そうはいかないでしょ。しかも、皇颯斗が相手となったら絶望的なんじゃないかな」


お、おお……。

プロの勇者だった人間からそこまで言われると、ちょっと落ち込むなぁ……。


「それほど、神崎くんにとっては難しい戦いになると?」


「難しいも何も……。っていうか、皇颯斗の勇者決定戦の相手が彼で、国民が納得するのか、という方が僕は気になるかな。神崎くんが相手では、彼の実力を証明することにならないじゃないですか。僕だったら、もっと強い相手を用意しますよ」


……そこまで言うか?

まぁ、でも、実際はその通りなんだよな。今まで何とか上手くやってきたけど。


それにしても、僕の勝ちは誰も求めていないと言われてることは、分かっていたけど、改めてそれを目の当たりにするとショックだなぁ。


「なるほど。では、星澤さんはこの対戦、どのように見てますか?」


次は女性の元勇者による見解らしい。


「そうですねぇ……。どうやって、神崎くんが皇くんに勝つのか……想像、できないです」


「……他には?」


「…………まぁ、無理なのかなって」


「神崎くんは勝ち目がない、と。そういうことでしょうか?」


「はい」


え、それだけ?

語る余地もない、ってことなのか?


その後、他の元勇者たちも予想を口にしていたが、どれも似たような意見。要は僕が皇に勝てるわけがない、という意見だった。そして、その後は皇の生い立ちを紹介する映像が流れた。


……これは、どう考えても、

僕は悪役ということじゃないか。しかも、正義の味方を引き立てるには不十分な悪役。


盛り上がりに欠けてしまい、僕が対戦相手ということに、誰もががっかりしている……というこらしい。


「こんな番組、何も知らないやつが語っているだけだ。気にするな」


「もうびっくりしないぞ。そろそろ現れるタイミングだと思っていたぜ」


突然現れたセレッソ。

しかし、僕は驚くことはない。いい加減、予想ができるようになってきたし、慣れてしまったのだ。


「ふっ、流石は最強の勇者になる男だ。私程度の気配を察知するくらい、朝飯前ということか」


感心するセレッソだが、僕は溜め息が出てしまう。


「お前は、最強の勇者になる男とか言うけれど、それ誰も求めてないことなんだろ? 僕なんかが頑張るより、やっぱり皇が勇者になった方が、みんなが喜ぶんじゃないか?」


「お前の言うみんなとは誰だ?」


「え?」


「私が思う、お前のみんなって言うのは、宗次や綿谷華、クラムのメンバー、雨宮みたいな人間のことだ。あいつらはお前に勝ってほしくない、と思っているのか?」


「そんなことはない……って思うけど」


「それにな、もう一度言うが、テレビの中で喋っている連中は何もしらないんだ。お前が世界を救う勇者だということはもちろん、お前がどんな人間なのか、ということも」


「僕がどんな人間なのか……?」


「お前はお前が思っている以上に優しくて、勇気のある男だ。お前みたいな人間が勇者になれば、多くの人が救われると私は思う。ただ、残念なことに、お前と言う人間を誰も知らない。これから知ることになるけどな」


セレッソが語る、僕という人間。それは、そんなに立派なものだろうか。セレッソは続ける。


「それに、今回は……いや、今回だって負けられない理由があるはずだ。しかも、一つじゃない。雨宮のことだってあるだろうし、自分自身を否定させないためにも、いや、認めさせるためにも、勝たなくてはならない。お前のことを知らない人間が言うことなんて聞くな。お前のことを知っている人間を信じろ。私を信じろ」


僕がここにいる理由。

それは、ただセレッソと契約したからではない。


自分のために、ここで戦っている。それに、ハナちゃんのことも、雨宮くんのことも、皇のやつには分からせてやらないといけない。


そうだ、そのためには勝たないといけない。誰が何と言おうと、誰が何を求めていようとも、僕が勝たなければならないのだ。


黄金の瞳で僕を見つめるセレッソ。そこにある感情は激励か。もしくは期待かもしれない。


何だったとしても、僕はこいつの想いに応えるだけだ。そういう契約だし、その結果、僕は僕が欲しいものを手に入れられるはずなんだから。


「……そうだな。たまには、お前のことも信じてみるか」


セレッソは僅かに微笑みを浮かべる。が、次の言葉は意外なものだった。


「気のせいかもしれないが、今まで私のことを信じてなかったような言い草だな」


「……逆に僕がお前を信じていると思っていたのか?」

「誠とセレッソのやり取りが好き」

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