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【不機嫌な王子様】

それから、数日後のこと。

ハナちゃんと二人でいつものように仲良くスクールへ登校したが、校門の前に人だかりができていた。百人くらいだろうか。


まるで、不祥事を起こした芸能人が出てくるのを待っているみたいだ。


「なんだろう、あれ」


気のせいだろうか。

よく見ると、集まっているのは僕らと同年代くらいの女の子ばかりだ。


制服を見る限り、他のスクールの生徒みたいだけれど。


「……あー、たまにあることだ。気にするな」


ハナちゃんがそう言うので、

何事もなくその横を通り過ぎたが、原因はすぐに判明した。


「いやぁ、今回は今まで一番多かったんじゃないかな」


教室に姿を現すなり、雨宮くんがそんなことを言うのだった。


「もしかして、校門の人だかりのこと? なんの集まりなの?」


「昨日、防衛戦を控えた皇くんの特集番組がテレビで放送されていたんだよ。皇くんのこと、テレビでやった次の日は、あんな感じで女の子たちが集まるんだ。確か、今日も皇くんの取材でメディアが入るって聞いたような……」


マジで芸能人みたいだな、あいつ。

まぁ、今となっては色々な意味でそれも納得だけど……。


「あ、噂の王子様がきたよ」


皇が教室に入ってきた。

恐らくは、女の子たちの黄色い声を浴びながら、校門を通ったのだろうけど、あいつの顔は無表情。


少しも浮かれた様子はない。

いや、むしろ不機嫌のようにも見えた。


「あれ? 岩豪くん、休みかな」


雨宮くんに言われて、僕も教室を見渡してみる。これまで、岩豪が遅刻したところを見たことがないが、確かにあいつの姿はない。


まぁ、岩豪だって風邪を引いて休むことくらいだるだろう。そう思っていた。


ホームルームの時間を告げるチャイムが鳴る。


「おはようございます」


武田先生と一緒に入ってきた大人の男女。先生がみんなに説明する。


「今日は取材でメディアの方々が入る。インタビューや撮影されることがあると思うが、可能な限り協力するように」


やりづらい、という雰囲気が教室に広がったが、メディアの方々はにっこりと笑うのだった。




授業が始まってから数分して、岩豪が教室に入ってきた。


反射的に、全員が扉の方に振り返り、その姿に声を出さず驚く。岩豪の眉尻あたりにガーゼが貼られていたのだ。


どう見ても、誰かに殴られた怪我だ。


何かトラブルに巻き込まれたのだろうか。気になることには気になるが、僕から話しかけるのは、何となく遠慮した方がいいような気がした。




お昼休みが終わり、

午後の授業も始まろうとしていたときだった。


「近隣にノームドが発生しました。数は一体。勇者科の二年三組は出動。勇者科の三年一組、魔法科の一年七組はサポートをお願いします」


校内放送を耳にして、皆が反射的に動く。


現場へ向かう途中、顔を青くした雨宮くんが言った。


「神崎くん、まさか……動画屋のオヤジさんじゃないよね?」


「……急ごう!」




それは、動画屋のオヤジに違いなかった。灰色の肌に、異様なまでに隆起した筋肉。そして、表情は鬼のように変化しているが……間違いはない。


なぜ、わかったのか。数日前、店へ行ったとき、彼が身に着けていた青いエプロンが証拠だ。


「やっぱり……動画屋のオヤジさんだよ」


雨宮くんの声は震えていた。

いつも明るく飄々としてい彼が、ここまで動揺しているなんて、僕もどんな言葉をかけてあげるべきか、わからなかった。


「よーし、下級のノームドだな。対処したいやつ、いるかー?」


武田先生が生徒たちを見回す。誰もが様子を見ていたが、雨宮くんが一番に手を挙げた。


「お、雨宮。早いじゃないか。やってみるか?」


「はい! あのノームドは知人なんです。もしかしたら、呼びかけてみれば、ノームド化が軽減されるかも」


雨宮くんの提案に、

武田先生は顎に手をやりながら、低く唸った。


「確かに、完全ノームド化より、自我が残っている方が、早目に拘束も解けるからな」


「ちょっと待ってください!」


突然、割って入ったのは、メディアの方々と紹介された、スーツ姿の女性だった。もう一人の男性はシャッターチャンスを期待するように、カメラを既に構えていた。


「ぜひ、ノームドを対処する皇くんの姿を撮らせてもらえないでしょうか?」


「それは困ります」


武田先生は拒否する。


「下級とは言え、ノームドは安全に対処しなければなりません。それに、生徒たちに平等にチャンスを与えることも、我々教師の役目ですから」


「しかしですね」


メディア関係者の女性は反論する。


「校長先生からは、全面的に協力すると仰っていただきました。先生も積極的に協力するよう、指示が出ているはずですが?」


「そ、それは……」


動揺する武田先生の横で、皇が一歩前に出た。


「いいですよ、僕がやります」


「お、おい。皇……」


武田先生は止めようと手を伸ばすが、皇の冷たい瞳がそれを止める。


「俺がやった方が早いですよ」


皇は真っ直ぐとノームドの方へ向かうが、その前を雨宮くんが遮る。


「待ってよ、皇くん! 五分でいいから、僕に時間をちょうだい」


「時間の無駄だよ。僕がやった方が確実だし、安全だ。君が僕以上に、適切な対処ができるって言うなら、譲っても良いけけど」


雨宮くんは言葉に詰まる。

それはそうだ。

皇より優秀な人間はこのスクールにいない。


それなのに、自分より適切に対処できるなら、ってどんな条件の出し方だよ。


「僕からも頼むよ、皇」


ちょっと怖いけど、

雨宮くんのためだ。割って入ってみよう。


「雨宮くんには、どうしても対処したい理由があるんだ。危なくなったら、僕もフォローするから、今回は任せて欲しい」


「……理由?」


皇の眼光が強くなった……気がする。


「関係ないだろ。それに、君がフォローしたところで、安全だと思う? 前回、ノームドと戦って醜態を晒していたじゃないか」


い、痛いところを突くじゃないか。


「そんなに、自分たちでやりたいなら、僕に実力を示してみろよ。怖いなら、二体一でもいいんだぞ」


皇の目は本気だった。

今すぐにでも、僕と雨宮くんを叩きのめしてやってもいい、という意志が感じられる。


いや、それだけじゃない。

なんだろう。

気のせいかもしれないけど、怒っている?


いつも無表情で無感情に見える皇だけど、どことなく不機嫌な感じがあるような……。


黙っている僕たちの横を素通りして、皇はノームドになってしまった動画屋のオヤジさんの方へ向かった。

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