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【そして物語は冒頭へ】

僕は両腕で顔面を守った。守った、というより、それしかできなかった。


その間、ハナちゃんは僕の腕に何度も殴ってきた。それがめちゃくちゃ腕が痛くて、このままではすぐにギブアップしてしまいそうである。



「なんだよ、もっと動けよ。守ってばかりじゃあ、一生私を倒すことなんてできないぞ」



確かに、ハナちゃんの言う通りだ。このままだと、腕だって動かなくなってしまうじゃないか。


どこかで反撃しなければ…という気持ちはないわけではないが、腕を降ろしたら、また見えないパンチが飛んでくるかもしれない。反撃どころか、そんな恐怖を乗り越えることすら、難しかった。



これでは、負ける。

何もできずに負けてしまう。

あれだけの大口を叩いたのに、赤っ恥じゃないか。



「おーい、誠。びびるな。反撃しろ」



リングの外から、セレッソの声があった。


そうだ、あいつだ。あいつが無敵の勇者になれるとか言うから、強気でリングに上がったのに、なんだよこの実力差は。



「ほら、お前の可愛いセコンドも言っているぞ。一回くらい、反撃してみろよ。何なら、少し攻撃を止めてやろうか」



ハナちゃんが言うと、確かに攻撃が止まった。僕は恐る恐るガードを下げてみたが、ハナちゃんの意地の悪い笑顔が見えたかと思うと、何かが飛んでくる気配があった。


慌てて、顔面を守ると、腕に拳が刺さる感覚が。ちくしょう、遊ばれているじゃないか。



「誠。落ち着け」


セレッソの声。


「足を使って距離を取るんだ。お前ならやれるから、まずは冷静になれ。思い出せ、私と契約して初めて戦ったとき、モンスターと戦ったときを」



そうだよ、あのときは敵のパンチが遅く見えたんだ。だけど、ハナちゃんのそれはケタ違いだ。同じようにできるものか。



「相手は人間だ。どんなに速くて強くても限界がある。集中して冷静に戦うんだ。まずは離れろ」


セレッソの言うことは一理あった。僕は言われた通り、後ろに下がったが、ハナちゃんが距離を詰めてしまう。


「真っ直ぐ下がってどうする、横に回れ」



セレッソのアドバイスは思ったより的確なのかもしれない。言われた通り横へ横へ移動してみると、ハナちゃんの攻撃が止まった。上手く距離を取れただろうか、とガードを降ろすと、一気に距離を詰めてくるハナちゃんの姿が。



やばい!と心の中で叫びながら身を屈める。



すると、頭の上で『ぶんっ』と風を切る音が。たぶん、ハナちゃんの強烈な一撃が通過したのだろう。



「逃げるんじゃねぇ!」


ハナちゃんの怒号と共に彼女のキックが屈んだままの僕を襲う。


「うわわわわわぁっ」



情けない声を出しつつ、カエルのように飛び跳ねて、何とかそれをやり過ごす。


まさに危機一髪。


ここで初めてハナちゃんの攻撃が止まった。追撃もなく、こちらの様子を見ているようだが、おかげで、気持ちを落ち着かせる時間ができた。



「誠。お前の動体視力は群を抜いている。焦るな。落ち着いてちゃんと相手を見ろ」



息を整えから、セレッソの言う通り、ハナちゃんの動きを見る。


ハナちゃんは、肩で息をして今にも倒れそうな僕を、虫けらでも観察するみたいな冷めた目で見ていた。彼女みたいなタイプの女の子に、こういう目で見られることは慣れてはいるが、慣れていると言うだけで、平気なわけではない。



ショックだ。

何としても、僕ができる男だと見せてやらねばならない。


だが、このまま戦ったら、

さっきみたいに殴り放題殴られて終わるだろう。



僕が勝てるとしたら、油断しているハナちゃんに一発入れるしかない。狙うはハナちゃんの次の一撃を避けて、同時に僕の攻撃を当ててやる。いわゆるカウンターってやつだ。



「雑魚のくせに私から逃げたことは、誉めてやる。でも、二度はない。次で終わりにしてやる」



ハナちゃんは死刑を宣告すると、昼の散歩に出かけるような何気ない足取りで、僕の方に接近してきた。



落ち着け。

びびるな。

頭の中で何度も自分に言い聞かせ、腰を落としてハナちゃんの動きを見た。



手を伸ばせば、顔に触れられそうなほど、僕たちの距離は近くなっていた。それでも、ハナちゃんは手を出さない。僕と同じように、腰を落として次の一撃のために力を溜め込むようだった。



この距離で避けられるだろうか。

とてつもないプレッシャーに逃げ出したくなる。


でも、駄目だ。

ハナちゃんは絶対に僕のパンチを避ける。


カウンターじゃなければ、絶対に倒せない。



それから、物凄く長い時間が経過した。一分、二分……実際のところはもっと短い時間だったのだろうけど、僕の中では五分以上、そのままの体勢で静止しているような気がしていた。



そして、その瞬間が訪れる。

ハナちゃんが動いた。

モンスターとやったときみたいに、ゆっくりではなかった。



が、さっきとは違って見えている。ハナちゃんのパンチは的確に、容赦なく、真っ直ぐ僕の顎を狙っているではないか。



だったら、僕は拳一個分だけ、頭を左側に移動させ、反撃の一撃を出すだけだ。ハナちゃんの拳が視界の隅を駆け抜けた。そして、既に僕はハナちゃんのこめかみ辺りを狙って、拳を振るっている。



やった、できたじゃないか!


と喜ぶのは早かった。



僕は拳を振り切るが、何の手応えも感じなかった。そう、ただ空を切っただけ。ハナちゃんは僕の反撃を瞬時に察して、僅かに身を屈めて躱して見せたのだ。


流石は暫定勇者、と言うべきか。

でも、僕だって諦めたわけじゃない。


もう一発。

今度は突き上げるような拳を放つ…



はずだったが、急に体が締め付けられるような感覚があった。それはハナちゃんによるものだ。僕の腰に両腕を回して拘束している。



それは傍から見れば、女の子に甘えられ、抱き着かれているように見えるかもしれないが、そんな可愛いものではない。


とてつもない力で絞めつけられ、口から内臓が飛び出してしまいそうなくらい、めちゃくちゃ痛いものだった。



しかも、これだけでは終わらない。

ハナちゃんは足を払ったかと思うと、僕の体を勢いよくマットの上に叩き付けるのだった。



「ぐえっ!」と間抜けな声を上げて倒れる。



だが、さらに踏み付けようとするハナちゃんの足が見えた。殺される、と全身が警戒心を最高値まで引き上げる。僕はマットの上を這うようにして、何とか踏み付けの一撃から逃れた。



「誠、立て!」



分かっている、と立ち上がったが、目の前にハナちゃんが。追撃がくる、と顔面を守ったが――。


ドンッと横腹に重たい感触が。


そして、体全身にその重みが伝わり、痛みに変化した。



強烈なボディブローを受けてしまった、と気付くまで時間差があり、それを認識した途端、僕は痛みに耐えられず、マットの上にひざまずいてしまった。



「何が無敵の勇者だよ。弱すぎ」


じっとりとした油汗で額を濡らす僕に、吐き捨てるような声が。


「この程度で倒れるくせに、勇者を目指すなんて、よく言えたもんだな」



ここまでが、女勇者の強烈なボディブローを受けるまでの話。物語は冒頭まで戻る。


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