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【恋心は遥か昔に】

練習が終わり、

僕はすぐさま集合場所へ向かった。集合場所はエガイソ駅の前。


集合時間より十五分も早く到着してしまったが、ハナちゃんはそこにいた。大地を照らす日の光は彼女のためにあるのでは、と思えるほど、ハナちゃんの美しさは際立っている。


あんな子と……キスするのか、僕は。


そんなことを考えたら心臓がドキドキ言っちゃって、まともではいられないかも!


とは言え、遠くから眺めているわけにもいかないので、勇気を出して声をかけた。


「お、お、お待たせ」


スマホを画面を見ていたハナちゃんが顔を上げる。もうキラキラッ、て効果音が聞こえてくるんじゃないかってくらい可愛い。


「待ってない。今着いたところだから。私が浮かれて早く着き過ぎることなんて、あるわけないだろ」


「そ、そうだよね。荷物、持とうか?」


大きめのバスケットを持っていたので、手を差し出したが、ハナちゃんはそれを守るように抱えた。


「大丈夫」


その動きが可愛かった。

もちろん、その動き以外も可愛い。

本当に可愛い。


可愛すぎて僕の顔面が溶けてしまいそうだ。そんな僕にハナちゃんは言い放つ。


「ほら、行くぞ」


「うん!」




まず向かったのはオクトタワー。

王都ウオークオートの観光地としてはベタもベタな場所らしいが、ハナちゃんはあえてここを選んだらしい。


「お前みたいな田舎者は、ちょうどいいだろう」


確かに、そうなんだろう。

それに、オクトタワーはいつも通っているクラムからも見えていたし、気になっていたんだ。


オクトタワーは、

ウオークオートのランドマークの一つで、高さ600メートルを超える電波塔らしい。


そのため、展望台からは王都の景色が一望できるのだが……。


「おい、見ろよ!」


とハナちゃんが指を突き出す。


「三枝木さんのクラム、あそこじゃないか?」


「え、どこどこ?」


「ほら、あっちだって。私のクラムはどこだろう。あっちかな。あ、あっちかも!」


駆け足で移動するハナちゃん。


「早くこっち来いって!」


なんか、僕よりはしゃいてないか?

なんて可愛いんだ。


「スクールはどっち?」


「アミレーンだから……こっちかな」


「あ、あれは……」


「アトラの壁だな」


あの向こうにアトラ隕石があるのか。

……とにかく、今は考えず楽しむことに集中しよう。




次は、オクトタワーに併設する水族館へ。


「見ろ見ろ! この生き物、なんだ?」


「チンアナゴかな?」


解説にはチーアナゴと書いてある。やっぱり、元の世界と似ているようで微妙に違うんだな……。


「あ、ペンギンもいる!」


ハナちゃんは今度はペンギンの方へ。

って言うか、ペンギンはペンギンなんだな。一致したりしなかったり……。




水族館を堪能した後、オクトタワーから少し離れたところにある公園へ移動した。


何をするのか……と思いきや、遠足で使うようなレジャーシートを広げるハナちゃん。


「座れ!」


「は、はい!」


言われた通り、腰を下ろすと、ハナちゃんもその隣に座った。レジャーシートは子供用みたいで、凄い狭いものだから、とにかく距離が近い……。


「お昼、食べるから」


「え? うん……」


おいおいおい。

ちょっと大きめのバスケットを持ってたから気になってたんだけど、もしかして……


手作りのお弁当!?


「これって、もしかして……ハナちゃんが?」


「お、お前のためじゃないぞ。昨日の夕飯、多めに作っちゃって余ったから、恵んでやろうと思っただけで。……でも 、頑張った」


「凄い! 凄いよハナちゃん! 開けて良い?」


「お前のものなんだから当たり前だろ! 早くしろ馬鹿!」


箱を開けてみると、

タコさんウインナー、ハート形に添えられた卵焼き、クマさんの形のおにぎり、サンドウィッチ、そして……


そして、ハンバーグ!


いつだか、好きな食べ物を聞いてきたのは、そういうことだったのか!!


「ニヤニヤするな! 早く食べろよ!」


「いただきます。いただきます!」


泣きながら、食べた。

僕みたいなやつが、こんな幸せを摂取していいのだろうか?


お弁当箱は三つ。

かなりのボリュームがあったが、何の問題もなかった。幸せとは、どれだけ摂取してもいっぱいになることはないらしい。


「余ってるぞ。これも食べろ」


そう言って、ハナちゃんが串に刺さったウインナーを僕の口元へ。これってラブラブなカップルだけが許される「あーんして」ってやつじゃないの?


いいの?

いいの?


「ほら、あーん」


うわあああああ!

言ったぞ!


ハナちゃんが、僕に「あーん」って言った!!


「あ、あーん……」


ウインナーを口にした僕を見て、ハナちゃんは笑った。


「変な顔!」


なんだろう。

前だったら、そんなことを女の子に言われたら、傷付いていただろうけど、むしろ温かい気持ちだ。同じ言葉なのに、不思議だなぁ……。




お昼が終わると、今度はお寺へ行った。アスーカサテンプル―と言うらしい。ほとんどの日本語が通じる世界なんだけれど、寺とか学校とか、たまに使われていない言葉があるんだよな。


「アスーカサテンプル―くらいなら、有名だし知っているだろ?」


「うん」


返事はしたものの、初めてアスーカサにきたとき訪れたことがあるというだけで、それを知っていると言っていいのかは微妙だ。


「歴史あるテンプル―で、ご利益は所願成就だ。次の暫定勇者決定戦、勝てるように祈っておけよ」


二人で並んで手を合わせる。


ここまでやってもらったんだ。絶対に勝たないとな。皇に勝たせてください。あと、一日でも長くハナちゃんと仲良くできますように。神様、どうかよろしくお願いします。


お願い事を終えて、横のハナちゃんを見てみると、まだ目を閉じて強く願っているようだった。


お参りを終えて、ハナちゃんに聞いてみる。


「何をお願いしたの?」


「そりゃ、お前を強くしてくれって言うのと、日々の感謝だよ」


「他には?」


「ななななな、なんでお前にそんなこと言わないとダメなんだよ!」


少し二人で歩いてから、気になったことを聞いてみる。


「そう言えば、ここのテンプル―の神様ってどんな神様なの?」


ハナちゃんは首を傾げる。


「何を言ってるんだ」


そして、常識だろ、という顔で彼女は教えてくれた。


「女神セレッソ様に決まってるだろ。オクトの守護女神なんだから」


……僕は一瞬で理解した。

このテンプル―で何を願ったとしても、絶対に意味がないということを。


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