【好きな食べ物はなーに?】
月曜日、
僕と皇の対戦が正式に発表された。一カ月後だ。
「神崎くん、本当に凄いことだよ! いくら推薦枠だったとは言え、もう暫定勇者決定戦に出れるなんて!」
対戦発表を見た雨宮くんは興奮気味だが、僕は複雑な気持ちでいっぱいだった。
本当に、あの皇と戦うんだ。それを考えると不安もあるし、思うこともあった。
「ねぇ、雨宮くん。僕って皇に勝てると思う?」
「勝てないだろうね」
早い!
友達として、もう少し言葉を選んでくれよ!
「皇くんに勝てる勇者候補なんていないよ。現役の勇者だって、怪しいものなんだから。でもさ」
雨宮くんの目に、
好きな勇者たちを語るときに浮かべる、あの輝きが灯った。
「神崎くんなら一発当てて全部ひっくり返すんじゃないか、って期待があるんだよね。僕だけじゃなくて、岩豪くんとの対戦を見た多くの人が、そう思っているはずだよ」
「……本当?」
「本当。でも、まぁ、無理だろうけれどね」
そう言って雨宮くんは笑った。
スクールが終わると、
ハナちゃんと二人でアスーカサにクラムへ一直線に向かう。
そして、三枝木さんがやってくるまで二人で練習した。ハナちゃんは得意な組み技を教えてくれるのかと思ったが、なぜか終始打撃の攻防だった。
三枝木さんが仕事を終えて、
クラムにやってきたので、どういう方針で練習すべきか話し合うことに。三枝木さんは言った。
「神崎くんの得意技は打撃ですが、組み技はほとんどできません。ハナちゃんは組みは一流だけど打撃はいまいち。岩豪くんはタックルが得意でしたよね。私が何を言いたいか、わかりますか?」
「つまり、誰にでも得意不得意があるってことですよね?」
「その通り。だから、ランキング戦は事前に相手の戦い方を把握して、その弱点を突けるように練習を重ねます」
うんうん、と頷く僕。
きっと、これから皇攻略の秘訣を三枝木さんが話してくれると思ったのだが……。
「ただ、皇くんにはその弱点がないんですよねぇ。どうしましょう」
「えええ……」
「昔、ピエトルという勇者がいたのですが」
知っている。
僕が戦い方を参考にしている、フィリポが倒せなかった、あの勇者だ。
「ピエトルは総合的な強さで、どんな敵であろうが、すべての局面で圧倒していました。皇くんはまさにそれです。小ピエトルと言うべきか」
ピエトルの強さは僕も理解している。確かに、誰が全盛期のピエトルを倒せるのかと聞かれたら、僕だって何も答えられないだろう。
「ハナちゃんはどう思う?」
三枝木さんがハナちゃんに意見を求めると、腕を組んで黙っていた彼女が口を開いた。
「私は打撃で戦うべきだと思う」
「……皇くんの対戦は打撃決着が多いのは、理解してますよね?」
ハナちゃんは頷く。
「だけど、こいつが皇を上回るチャンスがあるとしたら、打撃だけだ」
「確かに、一理あります」
「それに……」
ハナちゃんがわずかに笑った。それは、彼女が戦っている最中見せる、あの笑顔だった。
「あいつは絶対に打撃でくる。一切組もうとはしないよ」
「どうしてわかるの?」
と僕は思わず聞いてみると、ハナちゃんは詳しく説明してくれることはなかったが、ただ一言。
「私にはわかるんだよ」
それがどういう意味なのか、
僕だけでなく、三枝木さんも理解できなかったらしい。
だが、僕が皇に勝てるとしたら打撃、という点で三枝木さんも納得したのか、そういう方針で進めることになった。
「お前、好きな食べ物とかあるの?」
火曜日。
練習中、ハナちゃんが唐突に聞いてきた。
「え、好きな食べ物? ラーメンとかカレーかなぁ」
「……他には?」
「うーん。餃子とか?」
「……他には?」
「えー、なんで?」
「いいから!」
「うーん……じゃあ、ハンバーグ」
「……ハンバーグね。ふーん、あっそ。ガキみたいなもんばっか好きなんだな」
「聞かれたから答えたのに、酷い言われよう……」
勘のいい人なら、
気付くものなのかもしれない。
これは、数日後に控えたデートの伏線だった。僕はまったく気付かなかったのだけれど。
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