【会いたくなる夜】
「おーい、今家か?」
ハナちゃんの声は、
どこか上機嫌……のような気がした。
「うん、家だよ」
「なんだ、元気なさそうだな」
「そんなことないけど……どうしたの?」
声のトーンがどうしても上がらない。
「降りて来いよ」
「え?」
「早く下に降りて来い。待たせるな!」
「え、下にいるってこと? ちょっと待ってて!」
僕は慌てて部屋を出て、エレベーターも待てずに階段を駆け下りた。
「ハナちゃん!」
「よう」
笑顔で手を振るハナちゃん。
なんて可愛いんだ。
「は、は、は……ハナちゃーーーん!!!」
色々な反動のせいか、
僕は感情爆発してしまい、抱き着きそうな勢いで泣きながらハナちゃんに駆け寄ったが、寸前で冷静な自分に引き止められた。
目の前で立ち止まった僕の顔を見て、ハナちゃんは困惑したみたいだった。
「な、なんで泣いてるんだ? 家にゴキブリでも出たのか?」
「大丈夫。ゴキブリはまだ出たことない。女神はしょっちゅう出るけど」
「はぁ?」
「それより、どうしてこんなところに?」
「ん? ああ、ちょっとな。ムカつくことがあったから、お前に会って憂さ晴らしでも、って」
「憂さ晴らし? いいよ。何でもいいよ!」
「変だぞ、お前」
でも、ハナちゃんは笑ってくれた。癒えることがないだろうと思っていた僕の心だが、この瞬間は見渡す限りの美しすぎる花々が広がっていた。
二人でアミレーンの街を歩く。
どこへと言うわけでもなく、何となく。
ハナちゃんは最近の僕の練習について聞きたがったので、それを説明すると彼女は腕を組んで言うのだった。
「ダメだダメだ。そんなんじゃ皇には勝てない。明日から、組み技に関しては、私も手伝ってやる」
「……え、いいの?」
「私が絶対にお前を勝たせる。だから、死ぬ気で練習しろよ」
「う、うん」
どういうことだろう。
どうして、自分のカレシにとって敵である僕に、塩を送るようなことを……。
「そう言えば、さっきムカつくことがあった、って言ってたけど、何があったの?」
「ああ、ずっと前からムカついてたやつに呼び出されてさ。どうでもいいこと、一時間も話されたんだ。すぐ帰ろうと思ったけど、ついでにお前に会っておこうかと思って」
ずっとムカついていたやつ?
皇のことが昔から嫌いだった、ってこと?
「あと、お前が今日デートしたいって言ってたし、なんか悪い気がしてな。少しくらい会ってやった方がいいかな、って。わ、私に会えたら、嬉しいだろ?」
「うん、嬉しい! 嬉しいよ!」
「な、泣くなよ」
よくわからない。
よくわからないけれど、ハナちゃんの話を聞く限り、皇とは付き合っていないんじゃないか?
夜も遅くなってきたので、ハナちゃんを駅まで送ることになった。
改札へ向かうかと思われたハナちゃんだが、何か思い当たることがあったように立ち止まると、僕の方へ戻ってきた。
「どうしたの?」
「あのさ、もう一つ……言い忘れたことが、あった」
「言い忘れ?」
ハナちゃんはなぜか口籠る。
そんなに言いにくいことって、なんだろう?
「私、さ……今日、誕生日なんだ」
「え?」
「……べ、別に祝ってほしくて言ったわけじゃないからな。誕生日だからお前に会っておきたいとか、そう思ったわけじゃないぞ。あくまで憂さ晴らしできただけだ。わかるよな?」
「う、うん……」
そうか、
僕はハナちゃんから今日が誕生日だって聞いてなかったんだ。
「……何か言うことないのかよ?」
「そ、そっか。おめでとう! ううん、生まれてきてくれてありがとう、ハナちゃん」
ときどき見せる、ハナちゃんのこういう笑顔。それは名前が体を表すという言葉、そのままというか……。本当に綺麗で、僕の心を温かくするんだよな。
「お、帰ったか? 遅かったな」
帰ると、
煎餅を手にしながらテレビの前で横になっているセレッソが。
「何でいるんだ」
「そろそろお前の機嫌も良くなったかな、と。それより、暇なんだ。トランプでもしないか?」
僕は深く溜め息を吐く。
「仕方ない。一時間だけだぞ」
結局、セレッソが勝つまでトランプを続けることになり、それは朝まで続いた。
……どんだけ弱いんだよ、お前は。
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