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【尾行の結果は?】

結局、ハナちゃんが動き出したのは、夕方だった。


私服姿でマンションのエントランスから出ると、少し足早に駅の方へ向かって行く。


「先輩、行きましょう」


「う、うん」


芹奈ちゃんはノリノリだ。

僕は罪悪感と嫌なものを見てしまうのでは、という恐怖感で積極的になれないが、ここまできて逃げるわけにもいかない。


というか、僕がやめようと言っても、芹奈ちゃんは最後までやり遂げてしまいそうだ。


ハナちゃんは駅に着くと、

そのまま改札へ入るかと思えたが、なぜか立ち止まってスマホを見ている。


まさか、皇と待ち合わせだろうか。


「あ、動きましたよ」と芹奈ちゃん。


ハナちゃんは改札とは逆の方へ歩き出す。


「どこに行くんだろう?」


想定外なことが起こる。

いつの間にかロータリーに停まっていた車に乗り込んだのである。


「これじゃあ、尾行は無理じゃないかな」


と、芹奈ちゃんの方へ振り向いたが、彼女はいなかった。


「先輩、何しているんですか! 行きましょう!」


芹奈ちゃんは既にタクシーを止めていた。


「前の車、追ってください!」


この子、本当に尾行初めてか?

なんか慣れているように見えるんだけど。


「あれ、高級車ですね」


移動中、ハナちゃんが乗り込んだ車を見て、芹奈ちゃんは言った。


「お金持ちの人が迎えにきた、ということでしょうか?」


「あ、ハナちゃんってモデルやっているんだよね? もしかしたら、所属事務所の社長さんとか?」


「どうでしょうか……」


少しずつ周りの景色が賑やかになって行く。


「先輩、ここザニーガですよ」


「そうだね、ザニーガだね」


ザニーガが何なのか、正直わからない。

今日、芹奈ちゃんの前で僕の無知っぷりを晒し過ぎたので、ここは知ったかぶりだ。


というか、説明してもらわなくてもわかる。この煌びやかは景色を見る限り、ザニーガは高級店ばかりが並ぶ繁華街なのだろう。


前を走る車が止まった。


「降りましょう、先輩」


「ちょ、ちょっと待った」


前方の高級車、その後部座席からハナちゃんの姿が。


それに続き……皇の姿も。


二人は並んで歩き、高級料理店らしいお店の中へ入って行く。


「……やっぱり、皇先輩でしたね」


うん、そうだね。

やっぱり、そうだったね。

そういうことだったんだよね!


「あの、先輩……大丈夫ですか?」


「……芹奈ちゃん」


「はい?」


「……僕、帰りたい」


「そ、そうですよね」


僕たちはタクシーを降りて、ザニーガの駅まで歩き、そこから電車で帰った。


「大丈夫ですか?」


何度か芹奈ちゃんに顔を覗き込まれたが、自分でもどんな表情でどんな言葉を返したのか、少しも覚えていない。


「あの、どこかで休んで行きますか? 顔色、悪いですよ」


一駅過ぎるたびに芹奈ちゃんは休むように促したが、僕の意識は殆ど無だったので、気付けばアミレーンに到着していた。


「こんなところまで送ってもらっちゃってごめんね。一人で大丈夫だから、芹奈ちゃんも家に帰った方がいいよ。本当に付き合ってくれて、ありがとう」


「あの、でも……本当に大丈夫ですか? 家まで送りますよ?」


「大丈夫大丈夫。それに……ちょっと一人になりたいから」


「……そうですよね。あの、ごめんなさい。結果的に、私が先輩を傷付けてしまったみたいで」


「そんなことないって。事実を知れて……よかったよ」


僕は何とか笑顔を浮かべてみせる。芹奈ちゃんは心配してくれているのか、眉を寄せたが、すぐに顔を伏せてしまった。


「わかりました。先輩がそう言うなら帰ります。家まで気を付けてください」


「うん。芹奈ちゃんこそ、気を付けてね。本当に、今日はありがとう」


芹奈ちゃんは何度も振り返ったが、最終的には電車へ乗り込んで去って行った。大きな溜め息を吐く。絶望的な気持ちではあるが、することもないので、ただ帰ることにした。




「お、帰ったか? 遅かったな」


帰ると、煎餅を手にしながらテレビの前で横になっているセレッソが。


「出て行け」


「なんでだ? 疲れて帰ってくるだろうから、この私が癒してやろうと思ったのに」


「お前に僕を癒せるわけがないだろう。出て行け」


「なんでだ? 女神と言えば癒しの象徴じゃないか」


女神だろうが、めちゃくちゃ可愛い子猫だろうが、今の僕を癒すことはできない。


できるとしたら……嗚呼、その名前を頭の中で思い浮かべるだけでもつらい。


「良いから出て行け。一人になりたいんだ」


不毛なやり取りを、あと何度繰り返すだろうか、と苛立ちつつあったが、セレッソは大人しく部屋を出て行こうとした。ただ、去り際にこんな言葉を残していく。


「誠、あまり思いつめるなよ。私は何もできない女神だが、お前のために傍にいてやることならできる。そこが地獄だったとしても、傍にいてやれるからな」


不覚にも目に涙が溢れてしまい、僕はセレッソに背を向ける。セレッソは僕が泣いているなんて思わなかったのだろう。それ以上は何も言わず、部屋を出て行った。一人になって僕は呟く。


「僕が地獄にいるとしたら、それはお前が突き落としたんだろうけどな」




全部、あいつのおかげだ。それはわかっている。


でも、全部あいつのせいだ。そんな風に思うこともある。


って言うか、僕は何のためにこの世界へ来たんだ。


無敵の勇者になって世界を救うためだろ。女の子一人のことで、こんなに落ち込んでどうするんだ。気合を入れろ。皇を倒すんだから。


それから、三十分ほど考えても仕方ないことを考えて落ち込み、落ち込んでも仕方ないことで絶望し、絶望しても仕方がないのに考え込んだ。そういうループを続けたのだ。


しかし、暗い部屋でスマホが光り輝いていることに気付く。


その画面には「ハナちゃん」と表示され、着信があることを伝えていた。

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