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【女神様の意外な特技】

「今回の防衛戦、勝った方が神崎くんの相手となるでしょう」


三枝木さんは言った。


「十中八九、皇颯斗だとは思いますが……とにかく、生で観戦して相手の強さを感じておくことは重要です。防衛戦、見に行きましょう」


と、いうわけで、

暫定勇者である皇とランキング二位に位置する岸枝先輩の対戦を見に行くことになった。




その日のランキング戦は、

全部で十の対戦があった。一つの対戦が終わる度に、僕の気持ちは落ち込んでいく。


「なんか、見たら自信なくす気がするな……」


そう呟くと隣のセレッソが呆れるように笑った。


「誠、そろそろ自信を持ったらどうだ? お前の成長スピードは尋常ではない。皇がどれだけ強かったとしても、今までみたいに猛特訓して、最後は思いっ切りぶつかれば何となるだろう」


この会話を隣で聞いていた三枝木さんも入ってきた。


「強いと言っても学生レベルですからね。現役の勇者の中でも最強と聞くこともありますが、噂に尾ひれがついたのでしょう。今の神崎くんなら成長分も加味すれば十分に通用するはずですよ」


本当かな……?

二人とも、動く皇を目の前で見たことないから、そんなことを言えるんじゃないか?




そして、今日のランキング戦、ラストマッチの時間となった。


「暫定勇者、皇颯斗の入場です!」


その歓声は、初めて聞くものだった。

単純に、大きかったとか、そういうことではない。会場にいる全員の心が、すべて一つになる瞬間を体感した。そんな歓声だ。


そんな中、皇が落ち着いた表情で堂々とケージに向かう様を見つめていると、鳥肌が止まらなかった。


相手は三年生の岸谷慎吾。

背格好は皇とあまり変わらないが、何かが違う。何が違うのかは上手く言葉にできないが、皇に比べると強さが感じられない。


オーラ、というやつだろうか。


対戦が開始される。

ゴングと同時に皇がケージの中央へ。


それから、ずっと皇が前へ出た。凄まじいスピードとパンチのフェイントは、目の前にしてしまったら、とんでもないプレッシャーを感じるだろう。


岸谷先輩は、そんな皇のパンチから逃げるようにタックルへ入ったが、ことごとく潰されてしまう。潰された後は、皇の無慈悲な拳が落とされた。


しかし、岸谷先輩もランキング二位のランカーだ。


皇の攻撃から何とか逃れて立ち上がり、距離を取る。が、瞬時に距離を詰められ、金網際まで追い詰められてしまった。岸谷先輩は致し方なくタックルへ。


これも潰され、打撃の雨。

その攻防が繰り返される度に、ケージのマットは少しずつ赤く染まって行った。


そして、一ラウンドも残り三十秒というところで、岸谷先輩のセコンドがギブアップを申請し、対戦終了のゴングが鳴った。


レフェリーが、返り血で顔を赤く染める皇の手を取って、勝利を宣言する。会場は皇の勝利を祝福するように沸いているが、本人は眉一つ動かさなかった。


対戦が終わっても、三枝木さんもセレッソも口を開かなかった。これはもう仕方ない。二人が考えていることを僕が言うしかないだろう。


「その……何て言うか、いちおう聞いておきたいんだけど」


二人は僕の方を見ない。

たぶん、話を振られないよう、避けているのだ。


それでも、確認しなくては……。


「僕が勝てる気がしないんだけど、どう思う?」


数秒の沈黙が続き、

先に口を開いたのはセレッソだった。


「勝てるかどうか、ではない。勝ってもらわなくては困るんだ」


「そんなこと言っても、あれを見ただろ? 何とかできるものじゃないぞ」


「何とかできるようにするのが、宗次の仕事だ。そうだろ、宗次?」


「え?」


突然のパスに動揺する三枝木さん。


「えっと、そうですね。とにかく、対策を練って練習を繰り返しましょう。今はそれくらいしか……」


「あいつを倒すために、どんな対策があるんですか?」


「だから、それは……これから考えましょう」


打撃は超一流。

どんなタックルも潰してしまう。

そんな皇に対して、僕ができることってあるのか?




会場を出ると、

マイクとカメラを持った、記者らしい人々が僕たちを囲った。


「ランカー三位の神崎くんですね? 今日の皇くんの対戦を見て、どう感じましたか?」


戸惑う僕の後ろでセレッソが呟く。


「絶対弱気な発言はするな。そのせいで、対戦が組まれないこともある。いいな? お前が弱気な発言をしたら、世界が滅びるんだ。この世界に生きるすべての命を守るつもりで、超強気に発言しろよ」


ま、マジかよ……。

そんなことが世界が滅びるかどうかの瀬戸際の話になるのか?


わからない。

わからないが、妙な契約を受け入れてしまった身としては、セレッソの言う通りにするしかない。


「えーっと、強そうでしたが、何とか頑張ります」


後ろでセレッソの舌打ちが聞こえた気がした。すると、次の瞬間、信じられないことが起こった。


「と、言うのは冗談で」


あれ?

喋っているつもりはないのに、僕の声が。


「実際、皇の動きを見てみましたが、大したことありませんでした。誰からも期待されている、と聞いていたので、もっと凄い才能なのかと思っていましたが、拍子抜けです。皆さん、あの程度の勇者が誕生して嬉しいのでしょうか?」


おいおい、どうなっているんだ?

その声は、まだまだ喋る。


「僕だったら、圧倒できますね。正直、実力の差はかなりあると思います。信じられないかもしれませんが、それが事実です。対戦が組まれれば、わかることでしょう。いやー、皆さんをがっかりさせたくはありませんが、実力を証明するためのランキング制度ですからね。まぁ、見ていてください。それでは」


おおおおお!

と記者の人たちがどよめく。


後ろからセレッソが突っつくので、僕は歩き出したが、記者の人たちはさっきのコメントで満足したらしく追ってくることはなかった。


「おい、セレッソ。さっきのは何だ?」


「なんのことだ?」


「とぼけるな! あんな人間離れした声真似、お前意外できるわけがないだろ!」


「……ちっ、バレたか」


こいつ、誤魔化しきれるとでも思ったのか?


セレッソは開き直ったのか、誇らしげに言う。


「声帯模写というやつだ。女神様はこんなこともできるんだぞ。凄いだろ?」


「凄いけど、女神様のスキルにしてはしょぼ過ぎだろ……」


いつものことだが、

セレッソのせいで逃げられない状況を作られてしまった。

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