【華の防衛戦③】
「さぁ、第二ラウンドを終えましたが、ここまでの対戦を見て、率直にどう感じましたか?」
アナウンサーの男が、解説を務める元女勇者に尋ねる。
「そうですね。綿谷華がどれだけ組み付いて行けるのか、という点が注目と思われていましたが、蓋を開けてみると一方的な展開でしたね。思った以上に、綿谷華がジュリアをよく捉えていると言うべきでしょうか。ジュリアは今のところ、何もさせてもらっていないので、内心は焦っているかもしれません」
「なるほど。では、暫定勇者としてはこのままのペースを保ちたいところですね。逆に挑戦者が突破口を開くとしたら、どのような展開が望ましいのでしょうか?」
「上手く距離を保って、自分の攻撃だけを当てるようなリズムを見付けたいところですが、ジュリアが前に出てくると、綿谷華はほぼ確実に掴んできますから、難しいところですね。なので、怖がらずに近付いて、多少強引に打撃の展開へ持っていく方が、ジュリアにとって勝機を見い出す道かもしれません」
「それだけ実力差がある、ということですか?」
「はい。あと、綿谷華はかなり集中していますね。いつも以上の実力を発揮しているように見えます」
二ラウンド終了時に発表されたスコアも華が優勢。三ラウンドが開始された。
が、三ラウンドも二ラウンドと似たような展開が続く。ポイントでジュリアの打撃は当たるが、華が組み付いて上になる時間が長く、削るような打撃も与えていた。
三ラウンド終了時に発表されたスコアも華が優勢だった。
「これで判定まで持ち込めば勝ちは確定。だけど油断しないこと」
頷く華に下畑は続ける。
「ジュリアは今まで以上に距離を詰めてくるかもしれない。もしくは、変則的な打撃を出してくるかもしれないから、そういうのだけ気を付けるんだよ」
セコンドアウトの指示があり、華は立ち上がった。反対側に立つジュリアの視線は鋭く、華に突き刺さるようだ。
開始のゴングと同時にジュリアが飛び出す。四ラウンド目となると、スタミナも消耗してスピードが落ちるはずだが、ジュリアの踏み出しは今まで以上に速い。
間合いが詰まると、
ジュリアのミドルキックが飛んできた。二ラウンド目に何度かダメージを与えられた横腹が抉られる。
素早く身を退いたジュリアは
何度かフェイントを見せてから、パンチを放ってきた。
(行ける!)
華はパンチを避けつつ、ジュリアの腰に組み付く。
触れ合う肌を通して、ジュリアの苛立ちを感じながら、彼女を倒し切った。
起き上がろうとするジュリアの後ろに回り、首に腕を巻き付ける。が、彼女も必死に抵抗して腕を引き剥がそうとした。早々と首を諦めて顔面を何度か殴り付けたが、ジュリアは華を引き剥がし距離を作った。
今の攻防でジュリアの気持ちをかなり削った、ように見える。彼女は口を開き、肩で息をしていた。視線も焦りと己に対する失望で濁っている。
勝てる、と華は確信した。
だが、次の瞬間、それは起こった。
ジュリアの右回し蹴り。身を屈めて避けた華は、今までのようにジュリアの腰に組み付こうとしたが、突然、華の視界が真っ白になった。
視界が回復するが、まだ景色は歪んでいる。
それでも、今が最高に危険な瞬間であることは、すぐに分かった。
自分は仰向けに倒れている。
そして、自分を見下ろすジュリアの姿。ジュリアが拳を振り上げる姿を見て、華は思った。
何が起こったかは分からない。
でも、きっと自分はしくじった。
あと少しというところで、致命的なミスを。彼女は思った。
重要なところで抜けてしまう。
やっぱり、私は叔母さんに似たんだ――と。
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