【華の防衛戦②】
「よくやったね、ハナちゃん」
ケージに下畑が入ってきて、
華を丸椅子に座らせると同時に、氷で体を冷やしてくれた。
「最初だけ良くなかった。ジュリアの打撃を甘く見ちゃダメだからね」
華は頷く。
最初にもらった一撃。あれを思い出すだけで全身に鳥肌が立った。
第二体育館で見たパンチよりも速く、反応できなかったのだ。もし、あれがもう少し深く入っていたら……たぶん、華は立っていられなかっただろう。
「でも、このペースを維持できれば勝てる」
下畑は言う。
「向こうは絶対に距離感を調整してくるはずだから、ペースを掴ませないよう、早目に寝技に持って行こう」
ジュリアの方を見てみると、
セコンドからアドバイスを受けている。下畑が言う通り、距離について指示が出ているのだろう。
「一ラウンドのスコアを発表します」
会場にアナウンスが流れる。
暫定勇者決定戦に関しては、ラウンドごとにスコアが発表される。
「ジャッジA、十対九。赤、綿谷華。ジャッジB、十対九。赤、綿谷華。ジャッジC、十対九。赤、綿谷華」
後の二人も華が優勢であるとスコアを付けた。
「オッケー、油断しないようにね」
下畑に肩を叩かれた後、
レフェリーが「セコンドアウト」と指示を出した。
華とジュリアはほぼ同時に立ち上がり、セコンドが撤収すると、第二ラウンド開始のゴングが鳴った。
華は飛び出すようにケージの中央へ進むと、一気にタックルで組み付く。それはジュリアに受け止められてしまうが、すぐさま足払いを仕掛ける。
これまでは、
得意のジュウドー技で倒せていたが、ジュリアは粘った。
足を捌きながら、後ろへ下がり、背中を金網に預ける。ジュリアが支えを得てしまった分、華にとっては倒しにくい状況だ。
ただ、華は力強くジュリアを金網に押し込み、その動きを封じる。この状態を続けるだけでも、一ラウンドを落としているジュリアからしてみると、焦りが膨らむことだろう。
「しつこい戦い方ですね。綿谷さん、実は恋愛の方もしつこいのでは?」
「今更、心理戦のつもりか!」
言いつつ、
素早い足払いを仕掛けると、ジュリアのバランスが崩れた。
そのまま、体重を乗せて押し倒す。腕を取って関節を極めてやろうとしたが、ジュリアの抵抗力も凄まじい。
しかし、腕を取られまいと必死になるあまり、顔面の守りは薄かった。華の強烈な膝がジュリアの顔面を襲う。
続けてもう一発。
さらに、もう一発と華が体勢を変えた瞬間、それを狙っていたようにジュリアは強引に立ち上がった。
まだ中腰状態の華に、ジュリアの膝蹴りが。
華は反射的に顔面を守ったが、ジュリアは膝を打ち終わると同時に、素早く横へ回り込んで横腹を狙った拳を放つ。
ジュリアの一撃で呼吸が止まってしまう。
それほど強烈ではあったが、華は距離を取らず、ジュリアに組み付こうとした。
が、それを嫌ったジュリアは素早く華から離れる。そこで、華は呼吸を再開した。
腹部に広がる痛みは華の闘志をへし追ってしまいそうだ。しかし、それを顔に出すわけにはいかない。
ただ、ジュリアは華のダメージを確信しているのか、得意気に笑って見せた。
「ここからは、私のターンです。覚悟なさい」
「どうかな。また、すぐに転ばしてやるよ」
ジュリアは笑みを消して、少しずつ華へ近付く。そして、足を止めた位置は――。
(少し遠い……。割と正確に距離を調整してきたな)
ジュリアが立つ位置は、タックルで組み付くにはやや遠い。しかし、華から近付けばジュリアの得意とする距離となってしまうだろう。
躊躇っているうちに、
ジュリアが踏み込んできた。同時に、先程ダメージを受けた横腹を狙う鋭いミドルキック。
華は何とか腕でガードをした。
が、腕が弾け飛びそうなほど蹴りは重たく、数秒手が痺れて動かなくなった。蹴り足を掴んで倒そうと思ったが、ジュリアは既に離れている。
このまま、ペースを掴まれたらまずい……と華は心の中で呟く。
ジュリアはフェイントを見せつつ、距離を詰めてくる。先程と同じ距離。同じ手は食わない、と思った瞬間、ジュリアが飛び込んできた。
またも横腹を狙われると、下に意識を向けていたが、ジュリアは顔面を狙う右ストレートが。想定外ではあったが、華は反射的に顔の位置をずらして避けてみせる。
頬をかすめる拳。
それだけで、華の脳が揺れた。
それでも、華は自分から飛び出して距離を詰め、ジュリアに組み付く。ジュリアは倒されまいと金網際まで逃げるが、華の足払いは速い。
ただ、華も先程の一撃で意識は朦朧としているため、精度は落ちていた。そのせいで、ジュリアは倒されまいと粘られてしまう。
足の掛け合いがしばらく続いたが、最終的にジュリアが上手く離れた。
離れた状態で戦いが再開される。あの鋭い打撃をかいくぐり、ジュリアを捕まえることができるだろうか。
慎重に距離を詰めるジュリア。
それに対し、華はやや遠い距離であるにも関わらず腰を落とした。
タックルがくる、とジュリアは判断したのだろう。それを受け止めるつもりで、意識を下に向けた。その瞬間、華が右左と続けて拳を放った。
それはジュリアの顎を捉えるが、
やや浅く、意識を奪うまではいかない。そうなると華の判断は早く、次の瞬間にはジュリアの腰に組み付いていた。
ジュリアは必死に抵抗し、再び金網際まで後退するが、しつこい華の足払いに倒れた。
華が連続で拳を叩き付け、あわやレフェリーによるストップが入るか、と思われたとき、
第二ラウンド終了のゴングが鳴った。
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