【戦意絶頂】
防衛戦の当日。
アミレーンスクールには、決戦を一目見ようと多くの人が集まった。
体育館には人が入りきらないため、校庭に大きなモニターを設置。そこにも、たくさんの人が群がっている。
そのモニターには「本日、新勇者の誕生となるか」と表示され、暫定勇者と挑戦者、どっちが勝つのか、という討論番組が流されていた。
「やはりポイントは、綿谷華がジュリアに組み付けるか、という点です」
元勇者の女性が解説する。
「ジュリアの打撃センスは抜群です。綿谷華は暫定勇者ですが、打撃の勝負では勝ち目はないでしょうから、いかに打撃をかい潜り、得意なジュウドー技で倒せるか。そこを注目してほしいですね」
それに対し、番組の進行役であるアナウンサーが言った。
「しかし、ジュリアさんはここまで、打撃で五連続ノックアウト勝利していますからね。しかも、組み付かれてからのディフェンスも得意です。簡単には寝技へ持ち込めませんよね」
「仰る通りです。しかし、綿谷華もそういう相手を前にして、常に一本で勝ってきましたら。本当にどちらが勝利するか、まったく予測できない対戦だと言えますね」
「なるほど。さぁ、間もなく第一対戦が始まります。メインは第十二対戦です。新勇者が決定するのか、それとも暫定勇者が入れ替わるのか。どちらにしても歴史的な瞬間であることは間違いありません。みなさん、お見逃しなく」
華は控室でそのときを待っていた。
心の中は限りなく落ち着いている。雑念はほとんどない。
「ハナちゃん、あと三十分もしないうちに出番みたいだけど」
セコンドをお願いした下畑が顔を出した。
「いつもみたいに、誰も中に入れなくていいの?」
華は戦いの前、誰も控室に入れない。
少しでも集中するため……。周りにはそう言っているが、
本当は震える自分を誰にも見せたくないからだ。
華が頷くと、下畑は顔を引っ込め、控室の扉を閉めるのだった。
もしかしたら、あいつが来たのかもしれない。一瞬、そんなことを考えたが、すぐに沈黙の中へ溶けて行く。
何度も第二体育館で見たジュリアの動きを頭の中で再生する。それだけで、三十分はあっという間に過ぎた。
「ハナちゃん、出番だよ」
下畑に呼ばれ、華は腰を上げた。
華の入場で体育館は狂乱状態だった。誰もが華を一目見るため、身を乗り出し、手を伸ばしている。華はそれに応えるよう軽く手を挙げ、体育館の中央に設置されている、金網に囲まれたスペース、ケージへ向かった。
その中には、既にジュリアの姿が。
対戦開始の瞬間が待ち遠しい、と言わんばかりに好戦的な笑みを浮かべている。ケージに入り、歓声がさらに強くなったことを感じながら、華はジュリアに向き合った。
「どうやら、仕上げてきたみたいですね」
「私のネジ、締めてくれたこと、礼を言うよ」
「不要ですわ。今から負かす相手に礼を言われるなんて、後々嫌な気持ちになるだけですから」
「だったら、後悔することになるよ。礼くらい言わせておけばよかった、って」
華の挑発に、ジュリアの笑みが広がる。が、それは殺意に満ち満ちていた。
暫定勇者決定戦まで上り詰めた強者のみがまとう独特の殺気である。
「それでこそ綿谷さんです。今の貴方の目、最高ですわ。ええ、本当に。ぞくぞくします」
今にも戦いを始めてしまいそうな二人の間にレフェリーが入る。二人が少し距離を取ると、マイクを持った進行役がケージの中央に立った。
「これより、本日のメインマッチ、女子暫定勇者決定戦を行います!」
歓声と共に、
進行役やセコンドがケージから出て行く。
残されたのは、華とジュリア、それからレフェリーのみ。
向かい合う二人に、レフェリーが説明する。
「今回は暫定勇者決定戦だから、五分五ラウンド。ラウンドごとのオープンスコアになるからね。反則に注意して、お互い敬意を払ってグローブタッチを」
華が赤いグローブをはめた拳を差し出す。そこに、青いグローブをはめたジュリアの拳が触れた。
ジュリアもあのときより、技と気持ちが研ぎ澄まされている。一瞬の接触ではあったが、華にはそれが十分理解できた。
二人が金網際まで後退すると、
レフェリーが右手を高々と上げる。会場の熱気も最高潮に達していた。
交差する二人の視線。
どちらも常軌を逸した笑みを浮かべている。命を奪い合うことに喜びを感じているような、そんな笑みを。
そして、レフェリーの右手が落とされる。
「ファイッ!」
ついに、華の防衛戦が始まった。
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