【目がバキバキ】
「今日は先に帰る。明日から朝練も力入れるから、一人で登校しろよ」
華はメッセージを送り、
すぐさまクラムへ向かった。
もうスクールで授業をやっている暇はない。クラムに顔を出すと、彼女の師である下畑が笑顔で迎えてくれた。
「どうやら、スイッチが入ったみたいだね」
「下畑さん、私を勝たせてください」
深々と頭を下げる華。
下畑は彼女の肩を叩いた。
「もちろん。でも、ちゃーんと地獄に耐えてもらうからね」
華を鍛えるため、
下畑だけでなく、レスリングや打撃のスペシャリスト、元勇者などが集められた。
ジュウド―が得意な華だが、レスリングや打撃に穴がないわけではない。
そんな弱点を最小限にする練習が続き、実際の対戦を想定したスパーリングは元勇者が相手となった。
地獄の特訓が激化するにつれ、華の集中力は上がりつつあった。そのせいもあって、家に帰ると叔母の彩花も嬉しそうな顔を見せる。
「気合入っているね。SNSでもあんたが男と歩いてた、って話もなくなったし。まだ油断できないんだろうけど、少しだけ安心した」
「最初から心配いらないって」
「でもね、姉さんのことを思い出すと……いや、あんたが頑張っているのに、水を差すことは言っちゃダメだね」
「別に私は気にしないよ。それに、何度も言うけどママのことほとんど覚えてないし、私が誰かに似るとしたら叔母さんに似るでしょ」
「どうだか。ほんと、あんたは姉さんにそっくりなんだから」
そう言う彩花は、やはり嬉しそうだ。
「それより、今日の晩ご飯は?」
「ああ、オムライスにするつもりだったけど……卵買い忘れちゃった」
「叔母さんって肝心なところ抜けてるよねぇ」
そんな話をしながら、華は思った。
大丈夫だ。
私は母親とは違う。
男で失敗して負けたなんて、誰にも言わせない。
華の集中力も頂点に達しようとしていたところ、彼女を惑わすような話題が友人の火凛からあった。
「防衛戦に向けて頑張っているところ、言うべきかどうか迷ったんだけどさ」
「なに?」
そこまで言って、やはり口ごもる火凛。
そんな態度を見せられては、余計に聞かずにはいられない。
「早く言ってよ。気になるから」
「なんかねー、華の新しいカレシくん、昨日他の女と一緒に帰っていたんだよねぇ。まぁ、ただの友達って言うか、同じクラスの子とたまたま一緒だったのかもしれないけど、一応は耳に入れた方がいいかな、って」
「……ふーん」
遠慮がちに見たものを伝える友人だったが、華から帰ってきた言葉は短い。
「ふーん、って……それだけ?」
そう言いながら火凛は華の顔を覗き込む。華は言った。
「何度も言うけど、あいつはカレシとかじゃない。推薦してやったから、義理で色々面倒みてやっているだけ。あと、たまに一緒に練習したりするけど、何もないから」
「そ、そうなの。それなら、それで良いんだけどさ……」
火凛は苦笑いを浮かべながら、恐る恐る華に聞くのだった。
「じゃあ、何でそんなに目がバキバキなの?」
華がどんな目をしていたのか。
それは火凛にしか分からない。
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